05
「・・・・・ぅ・・・ふあぁ・・・・・ん~、何か消化しきれてないような?」
朝目覚めると昨日のリザー丼がまだ残っているような?そんな気がしたが今日は長距離移動になるので朝食を摂らないと言う選択は取りたくなかった。
ベッドから下りて荷物を持って一階の食堂へ。パンとスープと野菜炒めと軽めな朝食に胸を撫で下ろしながら完食して駐輪場へ。
スレイプニールを走らせ南へと向かう。馬車や魔導車と擦れ違いながら広めにとられた街道を進んで行くと『速度制限解除』と書かれた看板を目にしてスロットルを握る右手に力が籠った。
看板を超えた直後に後方から近付いて来る魔導四輪がミラーに映り戸惑いながら左によった。
一瞬で右を通り過ぎた魔導車に『一体何キロ出してんだよ』と溢し、速度差が有り過ぎても危険だと判断してスロットルを少し捻った。
速度計の針が右へと進む。時速九十キロを超えた辺りで視界が若干狭まり、身体が慣れるまではこれ以上出さない方がいいなとスロットルを固定した。
そもそも見た事の無い景色を楽しみたくて旅に出たんだ、無理して事故を起こしたら本末転倒だしね。
流れ征く木々や雲を眺めつつ一時間おきに休憩を挟んで昼食を摂っていた時にそれは現れた。
街道の先から物凄い速度で向かって来る見た事の無い二人乗りの黒い魔導二輪。
アメリカンと呼ばれる形式のそれは魔力タンクやフェンダーに炎を象った絵が描かれていて吸排気口から重低音を吐き出しながら通り過ぎて行くと、十数メートル先でリアタイヤを滑らせながら向きを変えて此方へ戻って来たんだ。
「な、なんっ・・・で・・・・・」
困惑しながらも警戒してヘルメットを手にした瞬間にはもう僕の直ぐ後ろに停車した所だった。
二人が魔導二輪から下りて来てヘルメットを脱ぎ、二十代後半位の二人が狼狽える僕の前で立止まった。
「あ、あの・・・・・」
「ああ、すまんすまん驚かせちゃったか。危害を加えるつもりは無いからそう警戒しないでくれ」
「もう、ニールの悪い癖が出ちゃったわね。ごめんね、この人魔導二輪で旅してる人見るとつい話し掛けちゃうのよ」
困惑する僕に二人が話しかけて来たんだけど、なんだか不思議な雰囲気の人達だった。
「俺はニールでこっちはアマンダ。魔導二輪、俺達はバイクとかオートバイって呼んでるんだけど君のバイク、それRS-01だろ?ちょっと懐かしくてさ、それでつい声を掛けちゃったって訳」
黒髪で僕より背の高い男性がニールさんで腰まである長くて赤い髪の女性はアマンダさん。どうやらニールさんは魔導二輪が好きな人らしい。
「懐かしいですか?確かに古い型ですけど現行車両ですよね?」
「あ~、RS-01はもう販売終了なんだ。最近はバイク自体が売れなくなっているのも有るんだけどオフロードタイプは特に人気が無くってね」
「そ、そうなんですか・・・・・」
スレイプニールの販売終了を聞いて少し悲しくなった。
「まぁ時代の流れって奴かな。君のそれは中古?」
「いえ、新車です」
「おっ、ちょっと見ても良いかな?」
「ええ、構いませんけど何です?」
ニールさんはスレイプニールのタンク脇を覗き込んでアマンダさんを呼んだ。
「おおっ!アマンダ見てみろ、これ〝ラストワン〟だぞ!」
「あら本当だわ」
「え?ラストワンって何です?」
「ああ、最後の一台って意味さ。出来れば末永く乗ってやってくれると嬉しいかな」
そうか、僕のスレイプニールが最後の一台なんだ・・・・・
「それはもう。これ以外の二輪に興味なかったですから」
「ほう、それは嬉しいね・・・あ、今更だけど君の名前、聞かせて貰えるかな?」
「あっ!済みません!僕はオルトって言います」
「そうか。オルト君、時間取らせちゃって悪かったね。また何処かで会う事が有ったらその時は飯でも奢らせてくれ」
「い、いや、奢って頂かなくてもお話はしますから」
「ははははは!有難う、オルト君。それじゃまた」
「またね~」
「はい!お会い出来る日が来る事を楽しみにしておきます!」
二人が黒い魔導二輪・・・バイクって言ってたな、に跨り走り去っていく。僕はその後姿が見えなくなるまで見送った。
「アマンダさん凄い綺麗な人だったな・・・・・」
ヘルメットを被りながら呟いた。僕も何時かスレイプニールの後ろに彼女を乗せて出掛ける日が来るといいな。
「あ、そう言えば何処を見て最後の一台って解ったんだろ?」
ニールさんが覗き込んでいたタンク脇を調べてみて直ぐに解かった。
トリプルツリー下のメインフレームに『RS-01 V 99999』と刻まれていたんだ。
Vの意味は解らなかったが、その後に続く五桁の数字が全て最後を示す九と刻まれていて、これより先はない事を表していて悲しさと嬉しさが同時に込み上げてくる妙な感覚に襲われた。
「大切にしなくちゃな・・・・・」
この時僕はニールさんが何故そんな事を知っていたのかとか気にもせず、この出会いが僕の人生を大きく変えた事に気付く事は無かったんだ。
ここまで読んで頂き有難う御座いました。




