04
三日間の試験を無事に終え、その後の三日間で返って来た答案用紙の点数を見て胸を撫で下ろした。
「え~明日から夏休みに入る訳だが―――」
翌日の修了式の後教室で成績表を渡された後に休み中の注意なんかを担任が長々と語るのをなんとなく聞き流していたら上半期は終わった。
鞄を背負ってヘルメットを抱えて教室を出た。この後は遠出用の装備を見に行くつもりだ。
あれもいいなこれにしようかなと幾つかの商会を回って装備を整えていく。
結局殆どの装備は『ゴタード商会』で揃える事になった。
ゴタード商会。アバタ領に本部を置くその名を知らぬ者は無いとまで言われる大陸最大の商会。
取扱商品は多岐に渡り、食料品から魔導車までとそれこそ何でも扱っていて王都だけでも支店数は三十店舗を超える。
ハビラ王国の建国にも協力をしていて王家ですら頭が上がらないと言う噂も有るが真偽の程は定かではない。
僕が就職する魔導車整備場もゴタード商会の魔導車部門な訳だけど、僕みたいな平凡な成績の学生が何でこんな大商会に就職出来るのかと疑問に思うかもしれない。
正直運が良かったとしか言えないんだけど、依頼で何度かこの整備場に荷物を届けていてその時に対応してくれた方と話をした時に『兄ちゃんそんなに魔導二輪が好きならうちの整備工にならねぇか?』と声を掛けて貰ったのが切っ掛けで、修理や整備も出来るようになりたかったから『僕で良かったから』と返事をしたらその方がこの整備場の主任技師で即採用となった。
その場で『組合員証出しな』と言われ後日自宅に採用通知が送られて来た時は『冗談とかじゃなかったんだ・・・・・』と困惑した。
スレイプニールの納車三日前には工具の名称とかの専門用語の書かれた書類が送られて来たけどまだ見ていない。
納車で浮かれていたと言うのも有るし試験前だったのも有る。
そして人生初の遠出が無事に終わらない事には他の事に気を使う余裕はないのだ。
勿論残りの夏休みを使って熟読するつもりだけどね。
一般的に就職活動は夏休みが終わってからするものらしく、両親や親せきの口利きで決まるらしいのだが、友達に就職が決まった事を話したら『は?』と困惑された。
その後担任以外の教師や他の教室にも広まり、僕は『就職活動をやらずに夏休み前に就職が決まった男』として暫くの間学園で有名になったのだった。
なんだかんだで準備に二日掛かり翌日に洗車をしてリアキャリアにテントとシュラフを括り付けて自室で大型のバックパックに荷物を確認しながら入れて行った。
「準備も整ったし、明日の朝から行ってくるね。遅くても三十日で帰って来るからさ」
夕食時に明日出発すると両親に告げると心配そうな顔をして色々注意するようにと言われた。
「事故だけじゃなく犯罪者とか魔物にも気を付けるのよ」
「そうだな、私がお前の歳の頃より随分と治安は良くはなったが、ここ王都よりも治安が悪い事だけは頭に入れておくんだぞ」
「うん。何処の町でも危険な場所は事前に衛士さんに聞いて近寄らないようにするよ。魔物は・・・街道沿いなら滅多に出ないらしいし大丈夫だと思う。いざとなったら逃げちゃうから心配はいらないよ」
心配してくれるのは有難いけど基本的に野営をしないように移動するつもりだし、町中でも宿屋に泊まるだけの金銭的余裕も有るから大丈夫だと思う。
問題が有るとしたら魔物位だけど、今時森や山の奥にでも行かなければ出会う事は無いだろう。
何故なら魔導車が販売されてから衛士にも標準装備されたからだ。
それにより巡回範囲と頻度も以前とは比べ物にならない位になっていて、野盗や魔物が出たとか最早昔話になりつつある現状で街道を移動する以上は有り得ないとも言えるだろう。
夕食を終え明日からの長距離移動に備えて早めにベッドに入った。まぁ興奮して中々寝付けなかったけど。
翌朝、両親とともに朝食を摂りバッグを背負って家を出た。今日の予定は南の衛星都市までにするつもりだ。
「それじゃ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
「気を付けてな」
「うん!」
見送ってくれた両親にしっかりと返事をしてスレイプニールを走らせた。
王都を抜け長い橋を渡る。この辺は北も南も景色は変わらないなと少し残念に思いながら衛星都市を目指した。
衛星都市に着き少し遅めの昼食を摂ってから宿屋へ向かう。夏休みに入ったからか一件目の宿屋は満室で二件目で部屋を取れた。
部屋に荷物を置いて受付で夕食は外で摂ると告げて街を散策。ここへ来たら是非食べてみたい物が有ったのだ。
一件目二件目と聞いて回り三件目の食堂でついに発見。
街の南側にある湿地帯で養殖されているリザードマンの肉を使った料理、その名も『リザー丼』。
一口大に切った肉に下味を付けて軽く炙り、溶き卵と小麦粉を付けて油で揚げた物を大き目の丼によそったご飯の上にのせて特製のタレをかけた逸品で王都でも噂になる程の味と量だ。
時刻は午後三時と夕食には早い時間だと言うのに店内は満席だったので夕方六時頃に一名で予約をして街の散策に戻った。
そして時間になりカウンター席に案内されて出て来た物を見て驚いた。
直径40㎝は有ろうかと言う丼に山のように盛り付けられた肉達が湯気を上げていたのだ。
「・・・あの、食べきれなかったら済みません・・・・・」
暫く唖然とした後カウンターの中に居る店員のおじさんに謝ると、おじさんはがははと笑って気にすんなと言ってくれた。
意を決して食べ始める。一体どれだけ肉を使ってんだよと呆れながらも肉と戦い続け、ご飯が見えてここからが本番だと気合を入れた。
三十分以上の時間をかけて何とか食べきったが、ご飯に染みた特製のタレが無かったら完食は無理だっただろう。
重くなった腹を抱えて宿に戻りお風呂に入ってからベッドに仰向けに倒れ込むと直ぐに眠気に襲われた。
初日から予想外な出来事だったなと、嬉しい誤算を味わいながら眠りについたのだった。
ここまで読んで頂き有難う御座いました。




