03
一仕事終えて帰宅すると母が出迎えてくれた。
「ただいま~」
「お帰り、遅かったわね」
「うん、依頼一つ熟してきたんだ。他にも受けたのが有るから明日も朝から出かけるね」
「そ、いいけど試験の方は大丈夫?成績が下がる様なら―――」
「だっ、大丈夫だから!夕食後にもやるし、明日も帰って来てからちゃんとやるから!」
「ならいいけど、結果次第では・・・解ってるわね?」
「解ってるって!」
両親との約束の一つ『試験の結果が悪かったら夏休みの遠出無し』母はこの事を言っている。
学園生活最後の夏休み、就職したら長期の休みなんて取れやしないだろう。
学生として最後の思い出作りにスレイプニールで遠出する。
その資金作りで依頼を受け続けたんだ、ここで無駄にする訳にはいかない。
自室に入り着替えを済ませてから机に向かい試験勉強をする。
ここの所スレイプニールの納車が気になって勉強が疎かになっていたのは事実で母も気が付いていたのだろう。
父が帰宅し夕食に呼ばれて席に着くと父にも指摘されてしまった。僕そんなに浮かれてたかな?浮かれてたんだろうなぁ・・・・・
食後にお風呂に入ってから試験勉強を再開。元々成績は良くも悪くもない。
至って普通、平凡な成績だし両親も僕に学業での優秀さなんて求めていない。
でも約束は約束だから最低でも成績は維持するし、法規は守る。
なあなあで楽な方へと流されれば何れ痛い目を見るぞと両親は当たり前の事を言っているだけだと思う。
「ふぅ・・・キリもいいしこの辺にしとこう」
余り遅くまで勉強して寝不足になって事故を起こすのもばからしいと程々で終わらせて眠りについた。
そして翌日、朝食を摂りスレイプニールに跨り配達へと向かう。配達先は北の衛星都市だ。
大通りを北に向かい中央のお城を東回りで通り超えてさらに北へ向かう。
休日は観光客も多いのでお城の周辺は特に注意して移動した。
馬車と魔導車が混在する大通りは近年特に事故が多い。
速度の遅い馬車を魔導車が無理に追い抜くためだ。
王都の北門を潜り長い長い橋を進みミラーで背後を見た。
僕の住むハビラ王国王都ハジブは東西約50㎞南北約150㎞もある巨大なアラバ塩湖の中央に浮かぶ水上都市だ。
そして大陸の約三分の一を国土に持つ大陸最大の王国の王都でもある。
「北から王都を出るのは初めてなんだよな・・・・・」
五年前に父が買った魔導四輪で東の衛星都市に一泊で遊びに行った時以外水上都市を出た事は無かった。
うちが今程裕福じゃなかったと言うのも有るけど、両親は王都に住んでいたら他の街へ行く意味は無いと感じていたからだ。
でも僕にはその考えは間違っているように感じたんだ。
延々と続く石造りの橋とその両側に広がる水面。そして遥か先に見え始めた衛星都市の門。
今僕の目の前に広がる景色は王都の中に閉じ籠っていたら見る事は出来やしない。
衛星都市に到着するまで出発から三時間程かかった。
この街は更に北のマモン領の北部山岳地帯にある鉱山から産出される鉱石や宝石を使った鍛冶や装飾品等が盛んな街だ。
依頼表と地図をだして依頼先を確認。近い方から回って行き、途中で見かけた食堂で昼食を食べてから王都へと向かった。
トウモロコシを潰して作った薄焼きのパンが意外とおいしくて頬が緩んだ。
行きも良い景色だと感じたが、帰りはその数倍は感動した。
遠くに見える巨大な王城と水上都市が徐々に迫って来る光景は正に圧巻としか言いようがなかった。
頑張って買って良かった―――
夏休みが待ち遠しいなとハンドルを握る手に力が籠った。
王都に入り商業組合へ。サインを貰った依頼表を提出し報酬を貰って家へ帰った。
車庫にスレイプニールを止めて自室へ向かおうと歩き出して直ぐにホイールやフロントフォークが汚れている事に気が付いた。
「街中だけでも結構汚れるんだな」
車庫の奥からボロ布を取り出して前後のホイールにフロントフォークとスイングアーム、フェンダーの裏とか目に付いた汚れを拭ってから部屋に入った。
両親は留守だった。まぁ車庫に魔導四輪が無かった事から買い物にでも出かけているのだろう。
ちらりと時計を見て夕食まで二、三時間はあるなと試験勉強を始めた。
明日から三日間の試験があり、その後三日間が返却期間でその翌日が修了式でその翌日から夏休みが六十日続く。
夏休み初日から依頼を受けつつ装備品を整えて、二十五日前後の予定で出掛けるつもりだ。
目的地は南のアバタ領南部にある交易都市ゲベル。と言うかその周辺の広大な農地と魚港を見てみたい。
見渡す限りの麦畑や牧場とか水面に浮かぶ漁船なんて王都周辺では先ずお目に掛かれない景色だし。
「フフフフフ・・・・・あ、いけね、勉強勉強っと」
楽しみ過ぎて妄想に耽ってしまい、我に返って反省して試験勉強を再開した。
ここまで読んで頂き有難う御座いました。




