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「おおぉ・・・・・」
ミルクセーキの牧場から南に半日程進んだ所にある漁港には防壁や門が無かった。
緩い下り坂の街道を進んで行くと畑や牧場すらなくなり開けた視界の先に見え始めた倉庫や店舗の間からキラキラと光る水面が見え、近付くにつれ延々と続く終わりの見えない青く美しい水面に感嘆の息を漏らした。
街道から真っ直ぐに続く道を海まで進んで行く。
整備された船着き場には様々な大きさの漁船が並んでいて直ぐ近くで綱等の道具の手入れをしている人や獲って来たばかりであろう魚貝類で昼食を食べている人達が居た。
漁師さんとその家族かな?
大きな鍋と金属の網の上で調理されている魚貝類を見てそう言えばお昼ご飯まだだったなと宿屋と食堂を探しに引き返した。
先ずは宿屋で食事無しで部屋を三泊取り町へと繰り出す。
至る所から料理の匂いが漂って来てお腹が鳴った。
何処かの店に入ってゆっくり味わうのも悪くないが少しずつ色んな種類の物を試したくて屋台を回る事に。
どれもこれも王都では見た事すらない物ばかりで味の想像がつかなかったが不味い筈がないと手近な屋台で一つ購入。
見た目がグロテスクな茶色い物体が三つ串に刺さった謎な食べ物に齧り付いて余りの美味さに唸り声を上げた。
「う~ん・・・これって何ですか?」
「この辺じゃサザエって呼ばれてる巻貝だよ。見た目に反して美味ぇだろ?」
「ええ、コリコリした触感もいいし、味付けがなんとも言えないですね」
「だろ?こんな見た目なのになぁ」
「最初に食べた人は尊敬しますよね」
「ははははは!確かに」
そんな感じで店員さんとの会話も楽しみながらお腹を満たしながら徘徊し、気が付いたら食べきれない程の量を手にしていて自分で驚いた。
「流石にちょっと浮かれ過ぎたな・・・・・」
その後はお腹を減らすために町中を歩き回ったり、海を眺めながら夕方まで過ごした。
「なんだろう・・・夕暮れが物悲しく感じるのは波の音のせいかな?」
ふと気付けばあれだけあった露店は全て閉まっていて、仕方ないので近場の酒場で済ませる事にした。あ、お酒は呑みませんよ。
「え~っと軽めのお勧めが有ったらお願いします」
「軽め?若いのに食が細いのかい?」
空いていたカウンター席に座り注文を取りに来た店員のおばさんにお勧めで頼めるか聞くと勘違いされた。
「いえ、露店巡りしてたら食べ過ぎちゃって」
「ははははは、成程ねぇ。ん~それじゃサシミでも適当に見繕ってあげるよ」
「はい、お願いします」
理由を説明すると店員のおばさんが適当に見繕ってくれると言うのでお願いした。けどサシミって何だろう?楽しみにしておこう。
「・・・・・すみません、これなんて魚ですか?」
「アジとカワハギだけど?」
出て来たのは生の魚の切り身だった。卵に続いてまた生かよ・・・いや、ミルクセーキの例もあるし、何よりお店のお勧めだ、間違いなく美味い筈。
「え~っと、僕は王都から来たばかりで生の魚って初めてなんですけどどうやって食べたらいいですか?」
「おやまぁサシミが初めてなんてかわいそうに・・・いいかい、この緑の奴を少し乗せてこっちの茶色い奴に付けて食べてごらん」
何故か店内が静かになりおばさんの声が店内に響き、そして僕に注目が集まった。
「・・・・・え~っと・・・い、いただきます・・・・・」
困惑しながら言われた通りにアジのサシミを口に入れると周囲から息を飲む音が聞こえ―――
「うまぁ!からっ!なにこれ?!鼻に抜ける香りが染みる?!けど美味いっ!」
「わはははは!やった!」
「やっぱりだ!そうなると思った!」
「ブハハハハハ!兄ちゃんよくやった!お陰で酒がうめぇ!!」
辛くて涙を流す僕とこうなる事を予想していた他の客さん達の笑い声が店内に響く。
「あんた達その辺にしときな!どうだいお兄ちゃん、旨かっただろ?」
「は、はひぃ・・・・・」
「その緑の奴はワサビって言ってね、ちょっと辛いけど慣れるとそれ無しじゃ味気なくなっちまうもんなのさ」
「はぁ・・・ちょっと鼻が痛かったですけど、凄く美味しいですね。王都じゃ魚なんて干物位しか食べた事無かったからいい思い出になりました・・・本当に来て良かったです」
でも僕は悔しいとか負の感情は全然沸いてこなくて、寧ろ嬉しくて楽しかったんだ。
「ははははは!いいな兄ちゃん!」
「都会もんも中々根性あるじゃねぇか!」
「いやぁ、どうもです」
自然と笑みが沸いて来て旅に出て本当に良かったと心からそう思えた。
その後も皆さんからいじられ、お酒を呑ませようとしてきた人がおばさんに殴られたりと楽しい一時を過ごしてから宿に帰った。
明日は海から昇る日の出を見る予定だけど、早起き出来るかなぁ・・・・・
ここまで読んで頂き有難う御座います。




