プロローグ『あゝ無情』
ぱちぱち、ぱちぱち、ぱちぱち
火、だ。燃え盛る火だ。あゝ火だ。
なんて悍ましく、怖く、痛いのだ。
火は、悍ましい。今、人が燃えている。それが良い例だ。火はまず、燃えやすい髪や毛、産毛に至るまで燃えて燃えて燃えていく。次第に、火傷も出てくる。熱く熱く、炙られて、肌は機能を失い爛れる。無論、その前に一酸化炭素中毒になり意識がトぶがオチだが、やはり観てる分に人の色は焼け落ちるのだ。だから、悍ましい。悍ましいのだ。
火は、怖い。火は力や情熱、勇気のシンボルマークと同時に、地獄や煉獄の責め苦の印でもある。人類史、火は特段、恐れられていた。指一本触れれば、燃え移り、焼き焼き焼き、灰にする。火は苦しい。それが人類史の出した結論。故に処刑や責め苦にも使われ始めた。魔女狩りが良い例だろうか?体を徐々に侵食する赫炎に磔られた者たちは何を思ったのだろうか?考えるだけで、怖い。怖いのだ。
火は、痛い。その痛みに逃げ場はない。不定形の酸の沼に飛び込むと同義だからだ。もう理由もいらないだろう。だから痛い。痛いのだ。
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「あゝ、無情なり−−」
目の前に広がる炎の海に、壮観と畏敬を現す様に手を合わせて拝む。地獄の門とも言う様な、それに。
業火、猛火、烈火、どれもこの景色に形容できるものではない。文字通りの火の海なのだから。
時は、知らん。場所は、何処ぞの陥没都市だ。元々、盆地に建てられた大都市に火が拡がっている。その中心には−−−−焦げた罪人たち。
−−元々、世界に仇なす者たち
−−元々、世界を滅ぼさんとす者たち
−−元々、敵だった者たち
だから
「燃やす以外の同理が、無い。無いのだ」
燃えてしまえばいい。正義の火に、さあ燃えろ。この世の生きとし生けるもの、子子孫孫の、過去と未来に至るまでが、お前らの死を望む。最早、燃やされた後、灰が残り、お前らの痕跡が残ることなども赦されないのだ。
「−−さすがに、やり過ぎでしょうよ」
「なんだ。文句があるのなら、あの火中に飛び込むのか?」
「やる義理もないので、やりませんよ。それ抜きでも−−−−子供を焼くなんて、さすがにこの鉄仮面も崩れるってもんですよ」
「尊い、正義の犠牲だ。それに、彼らにとっては罪を焼く、救いでもある」
「はは、無情ですね~」
「あゝ、無情なり−−」
二人の執行者は、炎に魅せられていた。男は、感慨に更けた。女は嗤った。火中に居る。哀れなる七人の子らに、慈悲の火を見ていた。
紛れにも、嘲笑者の女と、狂信者の男は同じ感想を述べていた。
火元は、二人だ。彼らが付けた、執行の火。
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−−−−−−大火災は、都市中を巻き込んだ。災厄たる罪人たちを、絶つ為に。焼いて焼いて焼いたのだ。火は、悍ましい。火は怖い。火は痛い。こんな−−−−−−−−−−−−−−国ごと焼いた魔女狩りの火なんて。
「無情、だ。」




