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晴れ女の傘

作者: 霧澄藍

 私は晴れ女だ。間違いなく晴れ女だ。今まで入学式も卒業式も行事も全て晴れ。大切な日に雨なんて降ったことがない。我ながらかなりうらやましがられる特技(?)だと思う。


「でも私は、晴れ女なんて絶対に嫌。」


 母親はもう聞き飽きたというようにテレビに目を向けるが、そんなことは気にしない。


「『雨降って地固まる』『雨上がりの虹』…雨が降ってくれないとなんもうまくいかない!」

「うるさい。聞こえないんだけど」


 はあ、やっぱり今日も理解してもらえない。何でわからないのか。恵みの雨と言うはずなのに。当たり前にあるものの魅力には気が付けないのか、羨ましい。


「ずるい」

「何が」

「……学校行くわ」


 そろそろ時間が危なくなってきている。とりあえずリュックをもって立ち上がった。


「いってらっしゃい、あ、傘」

「行ってきます!」


 最後の言葉は聞こえなかったふりをして家を出る。見上げると、灰色の雲が全体を覆い、今にも雨が降り出しそうな空。

 そんな日は、絶対に傘を持って行かないと、私は決めている。



 ◆



「さよーなら」


 勝負の放課後が始まる。予想通り昼頃から降り始めた雨は、なんと今も降り続いている。私が傘を持ってきていない日にここまで降っているのは快挙だ。今日は何としてもあの計画を実行しなければいけない。


———相合傘。


 思うに、晴れ女であることの一番のデメリットは、雨を使ったシチュエーションに出会えないことである。

 雨の中の告白。木の下で二人きり。などなどなど。憧れを数えても切りがないというものだが、その中でも「相合傘」ほど憧れるものはない。何を隠そう、難しいのだ。①相手と帰るタイミングが同じで、②相手が傘を持っていて、③自分は傘を持っていなくて、④周りに傘に入れてくれそうな友達が居なくて、かつ、⑤雨が降っていなければいけない。今日はすべての条件がそろっている。

 あ、相手の傘はまだ目視で確認したわけじゃないけれど、いつも持ってるから多分大丈夫。というか、こういうタイミングで持っていなかったらちょっとズボラで嫌かもしれない。そんな人じゃない。


「タカハシ君!奇遇だね、こんなところで会うなんて」


 本当は奇遇でもなんでもない。部活がないのは確認済みだし、だから今日を選んだのだ。


「あ、タナカ、そっか、いつも部活とかあるから」


 確かにあんま会わないな、というタカハシ君にちょっとドキッとしてしまうが、こんなことで引くわけにはいかない。


「ねえ、タカハシ君、傘持ってたりしない?ほら、朝雨降ってなかったじゃん。私傘忘れちゃってさ」


 ポイントは押しすぎないことだ。いきなり「傘の中入れて?」なんて言ったらダメ。良い感じに、自然な流れで入れてもらう。


「?持ってないって、それ傘じゃないの?」


 タカハシ君が私のリュックを指さした。


「え?」

「ほら、これ」


 ぱっと何かを取ってくれる。ってか、近っ。一瞬触れた気がするんだけど。

 違う違う。今はそこじゃないの


「傘あるじゃん」

「あ、ほ、ホントだぁ~…あ、ありがとう」


 なんで!絶対置いてきた。昨日の夜抜いたもん。いらないなーとか思いながら絶対抜いた!!

 …あ、お母さん。朝の「傘」ってもしかして「傘入れといたからね」的な意味でしたか?いらないいらない、その配慮良いってば!せっかくここまでうまく行ってたのにこれじゃ台無しどころか変な女じゃん…


「タナカ?何やってんの?一緒に帰ろ」


 はっと顔を上げると、もう靴を履き替えたタカハシ君が立っていた。え、私のこと待ってくれてるの?

 なんか落ち着かない気分だけど、慌てて靴を履き替えて向かう。


「待っててくれたの?」

「だって途中まで方向一緒でしょ?」


 そういうところ。だからあなたが好きなんです。


「ありがとう。…あれ?雨止んでる?もしかして」


 まあ、今更雨じゃなくても関係ないか。じゃあなおさっきのあの会話が黒歴史に包まれてるじゃん。

 タカハシ君の方をそっとみると、別にそんなことも気にしてない(といいな)というように空を見上げていた。


「あ、虹だ」

「え…?あ、ホントだ」


 今日ばかりは晴れ女に感謝しないといけないかもしれない。

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