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ミーゼと英雄譚  作者: 角海裕壮
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邂逅

 草木が生い茂りどこか自然の心地よさを感じる、至って普通で鬱蒼した森の中。ただ、1つ変わったこと、いや魔物や魔族などが巣食い人の命が危険に晒されているこの世界においては、なんの変哲もないかもしれないことがあった。

 森とは魔物にとって生息する動物は餌に、自然豊かな大地は最高の住居になる。よって、森は魔物による凄惨な事件の温床になる。そして、この森では少し前にギガント•バジリスクが目撃されていた。


 ギガント•バジリスク、蜥蜴と蛇を合わさったような巨体を持つバジリスクの上位種である。純粋な戦闘能力も高く、頑強な鱗や皮膚は下手な希少金属より硬く物理攻撃への高い耐性を持つ。そして、視認した対象の石化、猛毒の体液など強力な能力を複数有するため、対抗手段を持たない者が遭遇したら即刻逃げろと言われるほど非常に厄介な魔物である。

 ちなみに、これらの理由からバジリスク自体が戦士の天敵とも言われている。そのため、安定した討伐には貴玉ターフェアイト級冒険者チームが、単独ならミスリル級の冒険者が必要となる。それだけ強大な魔物故に、出現しただけで近隣の小都市では騒ぎになる程である。


 そんな魔物が本来なら居ないはずの森で目撃されたため、3人組のミスリル級冒険者チームが任務を引き受けて森を訪れていた。そのせいだろう、鬱蒼とした森に似合わない景色が広がっているのは。


 森の中でも異質に開けた、おそらくバジリスクと戦うために土台を整えただろう場所に3つの人影と魔物が戦う姿があった。しかし、魔物、ギガント•バジリスクの巨大にはすでに多くの傷や血の塊ができていた。そのせいか動きも鈍い。故に戦闘が幕を開けてから時間が経ち、無常にも終わりが近いであろうことが分かってしまう。


 3人の冒険者は前衛に剣士の青年、その奥に魔法使いと斥候の少女が構え、バジリスクを正面から見据える形で戦っていた。

 そのうちの1人、墨色の髪と瞳を持つ青年、レーベンが流れるように一瞬で間合いを詰め、バジリスクの懐に踏み込み片手剣を振り下ろす。剣はバジリスクの胴を切付け深い傷を負わせる。頑強は皮膚を頭容易く切り裂いたこと、迷いの無い滑らかな動きから青年の実力の高さが伺える。

 傷口から大量の血潮が吹き出しバジリスクはその巨体をよろめかせ後退する。傷が深かったのであろう、それを証明するように、悲痛な咆哮を森へと響かせる。しかし、その明確な隙を青年が見逃すわけがない。少年は仲間に最後の一手を任すため、呼びかける。


「今だミーゼ!」


 少年にミーゼと呼ばれた少女は銀髪を微かに揺らし朱色に輝く瞳でバジリスクを見据えたまま、その呼びかけに応えるように杖を構え魔法を放つ。


「魔法出力最大『絡み合う電光』インタートゥワインライトニング


 最大まで出力を高め放たれた雷撃は空中に蒼白い歪な閃光を絡み合うように描き、バジリスクに命中すると巨体を焦がしその生命を終わらした。煙の上がる倒れた巨体からは、焦げた匂いと強者の死が漂っていた。


「今回も無事勝てましたね!」


 魔法を使った少女とはまた別の、斥候の森精人(エルフ)の少女から見かけ通りの、明るく溌剌とした声が発せられた。


「お前は戦ってないだろう」

「ひどーい!あれを誘き出したのは私ですよ!直接戦ってなくても、私だって囮のように走り回って疲れたんですよ!」

「そこらへんにして、早く調査しよう。皆んなも早く帰りたいでしょ」


 そんな3人をよく知っていれば、和気藹々とした会話が森にこだまする。


ーーーーーーーーーーーーー


 人がごった返し騒然とした場所。ここは大陸中央部に位置するゲファータ王国の都市、アイヒの冒険者ギルド。ギルドは果敢で千差万別な冒険者が集まる場所であるため常に賑わい、時に喧嘩すら起きる場所であるため驚くことではない。

 しかし、その中でも少しだが他より人が集まった場所があった。綺麗な暗いブロンドと碧眼を持ち騎士のような恰好をした青年。髪型は右の横髪だけを後ろに流し、耳が見えるようにしていて誠実そうな印象を与える。

 そんな青年、ブラウは数人の冒険者たちと相対していた。その中でも、筋骨隆々な恵体を持った戦士であろう男と会話をしていた。


「ここら辺で活躍しているというミスリル級冒険者チーム探しているんだ」

「んー、ミスリルって言ってもここには3チームはいるからな」


 会話の内容とはブラウによる質問であった。しかし、抽象的な質問に男は情報を追加することを促すように応えた。それに気づくと同時に、ブラウは言葉足らずであったことを訂正するように情報を追加する。


「人間の剣士と魔人の魔法使い、森精人(エルフ)の斥候からなるチームらしいんだが」

「その構成ならあいつらか」


 男が検討が着いたように答える。実はというと、あいつらについて聞かれるのは初めてではない。このギルドはミスリル級のチームが3チームもいる強者揃いのギルドだ。かくいう男も、ミスリルには届かずとも、貴玉(ターフェアイト)級の実力者ある。聞かれた者たちは、そんな自分が認めている数少ない猛者たちだ。


「知っているようで助かるよ。してその者達はどこにいるんだ?」


 早く情報にたどり着けて良かったと安堵しながら問うブラウに、男が口を開き答えようとした瞬間冒険者ギルドのドアが開かれ、3人の冒険者らしき者たちが入ってきた。


 装備が微かにだが汚れていることから任務帰りの冒険者であろう。その首元には実質的な最高等級の冒険者を意味するミスリルのプレートがつけられている。

 冒険者は皆、首元にその等級を示すプレートをつけなくてはならない。 冒険者にとって等級とは強さの指標だけでなく、功績と信頼の証である。

 その等級は銅、鉄、銀、金、白金、蒼玉(サファイア)紅玉(ルビー)翠玉(エメラルド)貴玉(ターフェアイト)、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトの全12等級に分かられる。宝石級と言われる、蒼玉(サファイア)級以上になれば天才と言われる業界において、ミスリルと言うと、偉才を持つ者が血の滲むような努力によって得られる地位である。

 その上であるオリハルコンやアダマンタイトとなれば偉才なんて言葉では表せない存在であり、任務は国規模、世界規模となり、歴史に名が残る英雄だ。故にオリハルコンは英雄級、アダマンタイトは伝説級などと言われることもあるくらいだ。


「帰ってきたな、あいつらがお前の探してる奴らだ」


 男が口を開き答えるのとほぼ同時に彼は歩き出す。

ブラウは一目見て彼らが探してたチームだと気づいたのだ。目的のである3人に近づくと足を止め口を開く。


「僕はブラウ。君たちを探していたんだ、少し話をいいかな」


 突如として現れて話しかけてきた男に3人は驚いた様子。その中で真ん中にいた銀髪に朱色の瞳を持つ少女、ミーゼは男を見据え答えようとする。が、それより先に隣の金髪に翠色の瞳の森精人(エルフ)の少女、イングリットが身を乗り出して答えた。


「だめですよ!私たちは疲れているのでこれから直ぐに報告をして休むんです!」


 まさか社交辞令のような挨拶を断られるとは思っていなかったブラウは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。


「えっと、そこをなんとか頼むよ。あまり時間は取らないからさ」


 頼みの綱を握りしめるがごとく懇願する。ここまで来たのに、話も聞いてもらえないなんて笑い事じゃない。


「少しで終わるなら、今簡潔に言って。聞くから」


 ミーゼはその朱色の瞳をブラウに向け言葉を放つ。ミーゼ自身は別に話を聞いてやってもいいと思っているが、仲間たちが早く休みたそうなので代表して言葉を発した。

 ブラウは安堵したかのように言葉を紡ぎ出す。


「聞く気になってくれてよかったよ。」

「ではまず自己紹介を、僕はリダーファネット•ノーデンの勇者、ブラウ•ロッツビスデミングだ」


 勇者という言葉に反応しその場が静まり返る。勇者といえば各国から1人選抜される、言わば国の代表だ。しかし、それも気に留めずブラウは言葉を続ける。


「話というのは、簡潔に言えば僕の仲間になってほしいんだ。」


 あまりに予想外な話に3人は目を少し見開き固まってしまう。相手は勇者の1人であり、尚且つ自分たちを魔王討伐の旅の仲間にスカウトしてきていると言う。

 数秒後、状況が整理できたのかミーゼは口を開く。


「こんな話を簡潔に話してというのは無理があるね。話はしっかりあとで聞くからとりあえず、あそこで待ってて」


 ミーゼはギルドの窓際、団欒スペースにある空いてる机を指差し言う。その机はお世辞にも高級そうだとは言えないが、頑丈で使い勝手が良さそうな機能性を重視したものであった。素行に難がある物も多い冒険者が集う場所にぴったりと言えばぴったりだ。


「わかった、待っているよ。君たちは報告や換金などで忙しいだろう。無遠慮な態度だったな、すまない」


 ブラウはミーゼたちにそう言うと、高質な鎧や剣が動きに合わせ金属音を鳴らしながら机に向かい歩いて行った。




 

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