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1. 廃棄王女、突然婚約解消される

「メディア、お前にはロオカへ行ってギルス王子と婚姻を結んでもらう」

「はい?」


 父王ソレーユ陛下に呼び出され、謁見の間へと出向きました。そこで、お父様からお使いでも頼むように言い渡されたのは、一国の王女である私の婚姻に関する重大な案件。


 私は一瞬呆けてしまいました。意味を理解しかねたと言っていいでしょう。


 何故なら――


「お父様、私は既にマルセラン侯爵家のオスカー様と婚約しておりますが?」


 そうなのです。


 私は三年前にオスカー様と婚約しており、結婚も間近に迫っております。


 もちろん、オスカー様との婚約も、お父様が決めた政略的なものではあります。ですが、オスカー様とは婚約してから、一つ一つ絆を育み良好な関係を築いてきました。


 その甲斐もあって、お互い愛し合う仲にまで進展しております。


 それを今になって……


「そんな事は分かっている」

「では、ロオカの婚姻話は、婚約者のいないミルエラにお願い致します」


 第一王女であった姉のマローネは、東方諸国でも最東端の大国シュラフトへ嫁しております。いま現在、王家で婚約していないのは、末妹の第三王女ミルエラだけ。


 ロオカ王国のギルス殿下は、私の二つ歳下と聞いております。私の三つ下であるミルエラの方が、年齢的にも釣り合いが取れます。


 ですが――


「ミルエラは駄目だ!」

「お父様?」


 国王が感情を簡単に見せてはいけません。にもかかわらず、お父様が何やら焦って私の提案を否定しました。


「こ、これは極めて高度な政治的判断を必要とする。ミルエラでは対応が難しい」

「ですが、マルセラン侯爵家との婚姻も(ないがし)ろにしてよいものではありませんが?」


 私の指摘にお父様はふんっと鼻を鳴らす。


「それなら問題はない」

「問題ない?」

「むっ、ん、ぐっ……」


 (うそぶ)くお父様に、私は赤い眼光を鋭く向ける。すると、私の視線を受けたお父様は、ぐっと堪えるように唸りました。


 実は、この血のように赤い私の瞳は、特殊な力を持つ『魔眼』なのです。血のように赤い私の瞳ですが、魔眼の力を行使すると金色に輝くのだそうです。


 私の侍女のマリカなどは、うっとりした表情でその変化がとても神秘的で美しいのだとしきりに褒めそやしてきます。まあ、あの娘は私に対して過剰に信仰的な感情を持っています。話半分に聞いておいた方がいいでしょう。


 そんな神秘的と言われる魔眼ですが、その力は睨んだ相手に威圧を与えるだけの単純なものです。


 それでも、本気で力を籠めれば、気の弱い人間なら恐怖のあまり死ぬことすらあります。ですので、決して弱い魔眼ではありません。


 今回は少し威圧してお父様に揺さぶりを掛ける程度の力を込めております。


 果たしてカザリア王国の頂点に君臨し、その威容で臣下を縮こまらせてきたお父様でさえ私の瞳をまともに見られず目を逸らしました。


「マ、マルセラン家にはミルエラを嫁がせればよい」

「こちらの都合だけで婚約者を軽々しく変更するなど、マルセラン家へ不義理が過ぎませんか?」


 マルセラン侯爵が軽んじられていると不愉快に思われても仕方のない所業です。


「同じ王女を嫁がせるのだから問題はないだろう」

「お父様、マルセラン家は外交官です。ミルエラに大使夫人が務まるとお思いですか?」


 お父様の言い訳に、私はため息が漏れ出そうになりました。


 ミルエラは確かにとても美しい。


 ふわりとした蜂蜜色の髪は優しげで、澄んだ翠緑の瞳は翠玉(エメラルド)のように輝いています。《《外見だけは》》慈悲深き聖女のような印象を与える美少女です。


 その見た目から、あの子に懸想している殿方も少なくないと聞き及んでおります。が、内面は真逆の苛烈にして我が儘な性格なのです。


 とてもではありませんが、外交の場へ連れて行けるような娘ではありません。


「ミルエラとて大国の王女としての教養はあるだろう」

「ミルエラには政治的な判断は難しいのではなかったのですか?」


 やれやれ、先ほどご自分で仰った事をもう覆すとは……


「ロオカの方がより重要な案件なのだ!」


 お父様は勢いよく王座から立ち上がって私を睨んできました。


「なるほど、カザリア王国の有力貴族であるマルセラン侯爵家との約定を反故にしても良いと思われるほど、ロオカ王国に重きを置いておられるのですね」


 大国の頂点だけあって、お父様の眼光はたいていの臣下を震え上がらせるものです。ですが、魔眼持ちの私が怯えるはずもありません。


「それではお聞かせ願えますか? ロオカ王国へ嫁がねばならないのが私でなければならないという重要な理由を」


 そんな理由があるはずも無いでしょうけれど。


「お前は命じられた通りにロオカへ行けばいいのだ」

「これは異な事を仰います。政治的駆け引きを必要とするのではなかったのですか?」

「お前は知らずともよい!」


 案の定の反応に私は呆れ返ってしまいました。


「知らずに済むのであればミルエラで問題ないはずでは?」

「ミルエラは駄目だ!」

「ならばお教えください。お父様が私の役割に求めるものは何なのですか?」

「そ、それは……」


 お父様の真意はもう分かっております。


 もちろんロオカと縁戚を結ぶのに政治的価値があるのも事実です。これが我がカザリア王国を盟主とした現状の東方諸国に重大な意味があるのも理解しています。


 ですが、お父様の真意は政治的思惟よりも感情的思惑が勝ったのでしょう。


 おそらくミルエラがオスカー様との婚約を望んだのだと思います。近頃、あの子はオスカー様に秋波を送っていましたから。


 加えて、お父様はロオカのような遠方へ、溺愛するミルエラをやりたくないのです。逆に嫌悪している私を国から追い出せる良い機会だ、とでも考えたのではないでしょうか。


 私もミルエラもお父様の実の娘のはずです。


 ですが、魔眼持ちの気味悪い娘より、怠惰でも愛らしい娘の方が愛されるものなのかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] もしやその魔眼。 シュラフトでは二階堂平法『心の一方』というのでは(ォィ >とてもではありませんが外交の場へ連れて行けるような娘ではありません それなら外国の王族に嫁がせるのも問題では(ォ…
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