余命3千億5千万字。
「大変申し訳ないのですが、あなたの余命は残り3千億5千万字です」
医者の言葉におれは耳を疑った。
絶対になにかの間違いだと思った。
「あのう……余命3000字ってのは聞いたことあるんですけど、余命3千億5千万字ってのは初耳なんですけど……」
「はい。あまり過去に実例のない珍しいケースです」
「……要するに死なないってことですよね?」
「はい。3000文字ではなく、3千億5千万字。つまり350億万字ですので、その文量を描き切ってもらえない限り、あなたは死にません」
「ええっ……。それって余命って言えますぅ?」
「微妙なところです」
頭を抱えるおれをよそに、医者は無機質にカルテをめくっている。
他人事だからって。
「……350億万字て」
むりだ。絶対にむりだ。どれだけムダな会話文や説明文や日常パートや余計な描写を入れたとしても、到達不可能な文量であることに違いはない。
今で400字程度。
何倍になるのか、検討もつかない。
そもそも飽き性の作者だ。
絶対に途中でぶん投げるに決まっている。
「どうすればいいんだあ」
おれは目の前が真っ暗になった。
テーマ『余命3000字。』