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三題噺もどき3

価値観

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくごじゅうきゅう。

 


 背後で自動ドアが閉まると、雨音は掻き消えて、店内BGMが歓迎の音を鳴らしている。


 他の店とは違い、この店はこの店専用のテーマ曲が流れているので、なんとなく……あぁ、来たなぁと言う感覚になる。

 まぁ、そんな感慨みたいなものをもって入る所ではない。

 どこにでもあるような、行き慣れたスーパーだ。

「……」

 カゴを乗せたカートを押しながら、そろりと店内を進んでいく。

 しっかし…ここまで雨が酷くなるとは思わなかった。家を出てすぐは、小雨というか殆ど降ってもなかった。傘を持つべきかどうか悩んだくらいだ。今日一日は雨が降るだろうと予報が出ていたので、持っては来たからよかったが。

 帰りは降っていないことを祈りたいものだ。今日は買うものが多い。大雨の中で大量の荷物をもって傘をさして帰るのはつらい。

「……」

 まぁ、外の気配を見つつ、買う量は今日は買う量を減らしておくか。

 トイレットペーパーを買おうと思っていたんだが、今日はやめておこう。買ってもいいが……自分が苦労しそうだ。あと何個かは残っていたから、明日か明後日にでも買いにこよう。

「……」

 とりあえず、食料が今日は買えればいい。

 あぁでも、箱ティッシュは安売りしていると、入り口にチラシがはってあったから……まだ残っていたら買うことにしよう。

 そうそう、減らないだろうと買わずにいたら、いつの間にか買い置きがなくなっていた。

 トイレットペーパーと違って、こちらは使用頻度は高いのだから当然なんだが。うっかりしていた。

「……」

 カートをゆっくりと押し、他人の邪魔にならないように歩きながら、野菜を入れていく。

 カット済みのもののありがたいこと。量が少々多いのが難点だが、そこはまぁ、二回に分けるなりなんなりしてしまえばいい。

「……」

 後は、肉と魚。この辺は、ホイホイと買えないのがなぁ。

 これから梅雨時期に入ってくると、頭痛が酷くなったりして、食欲がなくなる日が出てきそうなのだ。多めに買っておいて、冷凍しておいてもいいんだけど、そうなると忘れそうなんだよなぁ。極力安いモノを買おうとすると、期限が近いし、先を見越して少々高いモノを買ってもいいんだが……。

「……」

 ま、とは言え期限の差なんてせいぜい知れているので、考えるのをやめた。

 とりあえず、何日か分の食料があればいいので、この辺はもう。適当に買ってしまおう。

 1人だし。元々大量に買うものでもない。

「……」

 適当にカゴにいれ、カートを進める。

 ん……このウィンナーは安いから買っておこう。肉が食べられなくても、これなら食べられるだろう。魚肉ソーセージ……は苦手なので食べない。あとは冷食あたりか。

「……」

 と。

 先に進もうとしたところで、ふいに菓子類のコーナーが視界に入った。

 いつもはこの辺のものは見ることもなく素通りしていくのだが……今日はなんとなく。何か買っていこうと思った。

 最近、甘いものが食べたくなったりしていたのだ。そういう時に限って……というか基本お菓子なんかの買い置きをしていないので……甘味を得られないと言う微妙なストレスと戦ってみたりしていたのだ。

「……」

 導線を、ついと横に逸れ、ふらりと菓子コーナーへと入る。

 さして広さはないが、こうして眺めるだけでもほんの少し心が躍るのはなぜだろう。

 こんなにたくさんの種類があるんだな……とぼんやりと眺めながら。

 さて、何を買おうかと吟味していく。

 甘いものと言っても色々あるし、大袋のものは買いたくない。

「……」

 あと、甘味が欲しいとは言ったが、甘すぎるものはいただけない。体が受け付けないのだ。

 そうなってくると、私の中では自然と固まってくる。

「……」

 最近……というか近年というべきか。

 チョコレートも甘いばかりのものでなくなってきたのはありがたい。

 出始めの頃は少々高かったが、あの頃の比べれば手に取りやすくなっている……気がする。

「……」

 並ぶチョコレートの中で、アレにしようかこれにしようかと、悩んでいると。

 ふと。

 視線を感じた。

 誰かの邪魔にでもなったかと、視線を感じた先―少し下の方へと視界を動かす。

「――!?」

 幼い子供が、なぜか不思議そうにこちらを見上げていた。

 歳がいくつかは分からないが、一人で立っているあたりそれなりの年齢ではあるんだろう。

 じいと、見上げているものだから、私の見ていた棚のあたりに、何かあったのかと思ってもみたが、そういうわけでもなさそうで。

 ―というのも、邪魔だったかと思い、私自身がついと、横に少しそれてみた所、それについて子供の視線も動いたのだ。

「……」

 さて、どうしたものかと、思案しながら、子供から視線を外す。

 こちらが何もないと分かれば、あちらも飽きるのではないかと思ったのだ。

 さっさとチョコレートを選んで、どいてしまえばいいんだけど。ここに子供一人、というのも少し気にはなる。近くに親らしい人も……いない、ようだし。

 一人でここまでかけてきたんだろうか。

「――?」

 と。

 色々と考えだしたあたりで、くん―と、上着の裾をひかれた。

 先程の子供だ。

 何かまだ不思議そうにこちらの顔を見ている。

 何かついていたんだろうか。

「かみ、きってるの?」

 突然、そんなことを聞いてきた。まぁ、それなりの大きな声で。

 ん?かみ?

 あぁ、髪の毛の事か。

 何が不思議だったんだろうと思ったら、そこか。

 きっとこの子供は、この少女は、私が女っぽい格好をしているのに、髪が短かったのが気になったのだろう。

 少女が知る女の人は、スカートを履いたうえで、髪が長い人なんだろう。

 ……久しぶりにスカートなんて履いたんだが。もう二度と履かない。心もとなさすぎる。

「そうだよ。髪切ってるよ」

 スカートが汚れないように気を付けながら、かがみ、少女と視線を合わせる。

 私の声にも驚いたのか、目を一瞬見開いた。

 女の人は髪が長くて、男の人は髪が短いが当たり前なんだろうなぁ。

「おんなのひと?」

「一応ね」

 言葉の意図が伝わるか分からないが、そんな曖昧な返事をする。

 私自身がそこまで性別というのに興味がないので、そんな返事が沸いたのかもしれない。

 生物学上は女というだけだし、そんなに気にするものでもない。

「髪が短いのは変?」

「んーん、かわいい」

 おや。嬉しい言葉。

 てっきり、言いよどむか肯定されるかと思っていた。

 素直にそう思ってくれているんだろうなぁ。

 きっと、これから少女はいろんなものを見聞きして、自分の中で色々作り上げていくんだろう。固まりきったものではなく、新しく自分の中で作っていくのだろう。

「あなたもかわいいよ」

「んふふ」

 嬉しいときはこうするのよとでも教わったのか、両手を口元に当て、小さく笑う少女。

 子供とはやはりいつ見ても可愛いものだなぁ。

 独り身からすると、やはり子供を持つ親は羨ましく見える。

 が、可愛いだけでもないだろうし、私は何度でも言うが子育ては出来ない。

「大人の人はいないの?」

「んーあそこ!」

 少女の指す方を見ると、こちらの会話をどこから見ていたのかは知らないが。

 少し離れた所から、女性がこちらへとかけてきていた。

 すぐに合流し、頭を下げながら何かしらを言っていた。

 私はそこまで気にする質ではないので、別に気にしなくていいとは言ったのだが。

 まぁ、子供の行動だし、咎めることでもない。

 あぁ、ただ。

「他の人にはあんまり言っちゃだめだよ。」

 それで傷つく人も居る。

 それだけを伝え、親子とは別れた。

 バイバイと大きく手を振る少女は、これからどんな風に育つんだろう。

 出来れば、偏見なんてものは持たずに、たくさんの世界をみて育ってくれればなんて。

 ぼんやりと思う。

「あ、チョコ」

 目的のものを忘れるところだった。






 お題:チョコレート・視線・羨ましい

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