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忌子  作者: 一昌平
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第三十一話 私のせい?

「痛い……」


 ぎりぎりと巫女装束を締め上げられ思わず言葉が漏れる。すると突然締め上げがゆるくなった。秀俊が手を離し忌子から距離を取り始める。しかしその姿は苦しそうで、自分で自分の体を抱きしめるようにしていた。まるで、そうでもしないとまた忌子に襲いかかってしまうかのようだった。


「どうしたの?」


 せきこみながら距離を取り秀俊に問いかける。


「近づかないで。君のことが憎くて憎くてたまらないんだ」


 彼が言う言葉とつらそうな表情は矛盾していた。しかし、その言葉を聞いたとき忌子は気がつく。


 彼は呪いにかかっている。でも、なぜ今になって? 疑問が頭の中を駆け巡る。しかしすぐに答えにたどり着く。それは彼が自分と縁を結んだということだ。


「私のせいだ」


 自分が彼の境遇に共感したから。彼のつらい気持ちをどうにかしたくて心に手を差し伸べた。そして彼はその手を取ってしまった。おそらく彼は今まで誰とも縁を結んでいない。それくらい自分の殻の中に閉じこもっていた。その殻をこじ開け手を差し伸べてしまった。自分と縁を結べば呪いが発動してしまうのに。


 秀俊は苦しみながらも出口へと歩を進め、ドアノブに手をかけて外に出ようとする。


「なにするの!」


 慌てて秀俊のもとに駆け寄ろうとする。


「来るな!」


 彼の怒鳴り声に思わず足がすくむ。


「君はここにいて仲間さんたちを待つんだ」


 彼がスマホを取り出して床を滑らしこちらへと渡してくる。そして彼は扉を開けて外に出てしまった。自動で鍵がかかる音が響き渡る。


 ひとり残された忌子はぼうぜんとその場に立ち尽くした。おそるおそる扉の前へと近づき耳をそばだてる。しかしドア越しにはどしゃぶりの雨音しか聞こえず、秀俊が近くにいるかどうかすらわからなかった。


 彼は呪いの影響で私に危害を加えないために外に出ていった。ここなら鍵もかかっているから安全だという判断だろう。しかしここに留まっていいのだろうか。


 もしまた呪いに乗っ取られて彼が戻ってきたら。そのときはなんとしてでもここに入ろうとするかもしれない。騒ぎを聞きつけて他の人たちも集まってきたとしたら袋小路にいるようなものだ。


 それに。


 もし仲間たちの迎えが来て逃げ出すことになったら。彼を置いて逃げることになってしまう。そんなことをしていいのだろうか。呪いをかけたのはある意味自分自身なのに。その彼を置いて、自分だけが安全なところに逃げ出す。それが許されるのだろうか。


「違う」


 思わず口に出してつぶやく。それでいいわけがない。彼は呪いにかかった。私のせいで。しかし、それは彼と縁を結べたということだ。その縁を捨てたくない。ではどうすればいい。


「呪いを解くしかない」


 考えていることが言葉となって出ていく。そうしないと頭がパンクしそうだった。呪いを解く。でもどうやって? 呪いは儀式の中に組み込まれている。呪いを解くには儀式を完成させないといけないのだろうか。それには龍神のもとに嫁ぐ必要がある。しかし儀式は秀俊の手によって破壊されてしまった。


「神楽」


 自然と言葉が出る。そのとき清司から聞かされたこの神社の由来について思い出す。この地では川の氾濫を抑えるために人身御供として龍神に娘が捧げられていた。神の嫁になるという言葉を使って。そして生贄を滞りなく捧げられるように呪いも開発された。しかし、その慣習を打ち破ったもの。それが神楽。


 神を楽しませる。そして満足させる。それが呪いを解くための唯一の道筋なのではないだろうか。

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