表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/75

オレ様王子のお誘い


 「ユーリ! いるか!」

 「お、お待ちください!」


 ノックもなしに大きな音を立てながらドアが開かれる。この一年、何度めかのお約束に私は小さくため息をついた。


 「いますけど、ノックが礼儀では? 殿下」

 「む、そうだな。やり直そう」


 騒がしく入ってきたオレ様王子ことテオ殿下は律儀に一度部屋の外に出て扉を閉めた。

 こんこん、とノックが2回。


 「どうぞ」

 「ユーリ! 来たぞ!」


 この子、アホの子なのかな。王国の将来が心配になるんだけど。


 「ようこそいらっしゃいました。しかし殿下。我が家はしがない子爵家ですので殿下直々に何度もご訪問いただくのは身に余りすぎるのですが」

 「おう! 光栄だろう!」


 そういうことではなく。

 というか、王都から馬車で4時間かかるんだぞ。頻繁に来すぎでは。

 あんまり遠回しな言い方をしても王子には伝わらなさそうだし何度も同じことの繰り返しだ。ここはバシッと。


 「いえ、ぶっちゃけ迷惑です」

 「まぁそう言うな。オレとお前の仲だろう」


 どんな仲だ。人の話を聞く気ないな。


 剣術大会後の王都観光未遂事件以来、なぜか王子が頻繁に我が家にやってくるようになった。おかげで私の中の最高権力が困ったお坊ちゃんになった。遠慮もなくなるよね。

 王族が気軽に王都から出るのってどうなんだろう。平和な世界だからそこのところ緩いのかな。だとしても気軽に来られるこちらの身になってほしい。おもてなしやらセキュリティやら大変なんだ。主にうちの使用人さんたちが。


 どかどか部屋に入ってきた王子にお茶を出して、一息ついたところで私は本題に入ることにした。ちょっと諦めてる。


 「それで、殿下。本日はどういったご用件でしょうか」

 「おう、そうだ。ユーリ、お前婚約者はいるか?」

 「間に合ってますごめんなさい」

 「なんでオレが振られたみたいになってるんだ。失礼なやつだな」


 おっと。面倒ごとかと思って先に断ってしまった。


 「失礼しました。つい。それで、婚約者が何か?」

 「ああ、今度オレ主催でお茶会をしようと思ってな。少し趣向を変えて婚約者がいない者だけを呼ぼうと思ったんだ」

 「……婚活パーティーみたいですね」

 「こん……? なんだ、それ」

 「いえ、何でもありません。私たちの年齢だとそろそろ婚約者が決まる方も多いのではと思うのですが」

 

 貴族であれば10歳前後で婚約者を決めることが多い。

 王族はもっと幼いうちから決まっているはずだ。なぜか目の前の王子にはいないみたいだけど。

 私はもちろん、興味がないのでお断り……というか申し込み自体ほとんどない。ありがたいけどちょっと複雑。


 王子がグッと拳を握りながら意気揚々と話を続けた。


 「そうだ、だからこそのお茶会だ! 婚約者候補と交流を持ち、気に入ればふたりきりの時間を過ごす! 最後に自分が気に入った相手を紙に書いて、お互いが指名しあえば縁組みとなる! なかなか画期的だろう!」


 やっぱり婚活パーティーだった。

 

 「まぁ、これは建前でな。そろそろオレも婚約者を決めなくてはいけない。年貢の納め時、というところだな。我こそは!とアピールしてくる家が多くてな。結果として婚約者がいない者を集めてのお茶会という形で見合いすることになった。ついでに他のやつらにも相手を見繕ってやろうと思っただけだ」

 「集団お見合いなんですね」

 「まぁそんなところだ。王族としては優秀な家との縁を結び血を残すのが重要だとはわかっているんだがな。周りからせっつかれるのはどうにも気に食わない。オレはオレが気に入った相手と結ばれたいと思うんだ」


 ほほう。どうやら王子の初恋はまだのようですな。

 そういえば王子って攻略対象の筆頭なんじゃないのかな。ということは初恋は主人公?

 それにしても王族ってもっと不自由な感じかなって思ってたけど、王子を見る限りそうでもないのかな。

 王子の婚約者といえば公爵家のご令嬢とか、上流貴族がなるものだと思ってた。そう、例えばあの『悪役令嬢』とか。婚約者がいるのに主人公にちょっかい出す展開が多い気もするし、この婚活パーティーで相手が決まるんだろうか。王子のことは憎めないから穏便な婚約者選択をしてほしいなぁ。

 ストーリーに巻き込まれるのはご遠慮願いたいんだけどね。そこはまぁ、うん。なんとかなるでしょ。今更な気がする、なんて、ことも、ない……よ?


 さっきまで真面目な顔をしていた王子がふっ、と楽しそうに笑った。

 

 「まぁそんなわけでな。どうにも退屈なお茶会になりそうだからお前を招待しに来たんだ」

 「……賑やかし担当、ということですか」

 「はは、剣術好きの変わり者令嬢を気に入るモノ好きもいるかもしれないだろ?」

 「それはとんだ変わり者ですね」


 需要なさそうだよ。


 言うだけ言ってお騒がせ王子はさっさと王都に帰っていった。

 さすがに今回のことをお断りすることもできない。王子直々のお誘いだし、王子の婚約者が誰になるのかちょっと興味もある。

 でも貴族のアレコレって面倒なんだよなぁ。だからお茶会にはあまり参加してないんだけど。しょうがない。

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ