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王都観光(未遂)


 さぁさぁ! 王都観光だ!

 美味しいご飯が私を呼んでいる!


 形だけの表彰式を終えて、家族が待つ剣技場の入口へと向かう。なんかいろんな大人に囲まれそうになったけどササっと控え室に戻って着替えて出てきた。めんどくさいことになりそうだからね! 今はご飯!

 足取り軽く、うきうきだ。

 大会前にちょっとだけ大通りを通りかかったけど、屋台がたくさん出ていて食欲がそそられる匂いがあっちこっちからしていた。身体も動かして適度な空腹だし、楽しみだなぁ。何食べようかな。


 「おい!」


 ルンルン気分で歩いていたら後ろから声をかけられた。やたらふんぞり返ってる少年の姿が脳裏に過ぎる。

 振り返ると案の定、オレ様王子が立っていた。脇に護衛さんかな? ピシッとした騎士服に胸当てをつけ、帯剣した男性が2人いる。


 「えぇっと……王子殿下。何かご用ですか?」

 「用があるから声をかけたんだ! お前、ユーリと言ったな」

 「はい。ユーリ・サルビアです。それで、何か?」

 「……お前、この後何かあるのか?」

 「何か、とは?」

 「用事はあるのかと聞いているんだ」

 「家族と王都観光の予定ですが」

 「そうか……」


 なんだ、この王子。

 私はお腹が空いているんだ。用がないなら早く開放してほしい。

 ちょっとイライラしている私の様子など気にしていないのか、王子は何やら考え込んでいる。

 さすがに王子相手に強制終了も強行突破もできないから大人しく待つけども。


 やっと考えがまとまったのかパッと王子が顔を上げた。自信満々に目をキラキラさせながら。なんだか嫌な予感がするぞ。


 「ユーリ! オレが王都を案内してやる!」

 「は?」


 嫌な予感的中。ありがたくないお誘いだった。


 

 

 違う。私がしたかった王都観光じゃない。

 こんな……こんな……


 「どうだ! ユーリ! 王都はすごいだろう!」

 「えぇ、殿下。スゴイデスネー」

 「そうだろう、そうだろう! ほら、ユーリ! 手を振ってやれ!」

 「アハハハー」


 なんで王都観光がパレードになってるんだ!

 

 私は力なく山車の上から手を振った。

 30分ほど前に急遽用意されたとは思えない派手な屋根なしの馬車(この世界に山車っていう単語があるのかわからないけど、私からしたらお祭りのそれだ)に乗せられ、王都の大通りをゆっくりゆっくりと進んでいる。左右には立派な甲冑の騎士様がずらり。第一王子はお出かけするにも一苦労なんでしょうねぇ。あまりにも派手な行進に市民から手を振られてるから、それに応えるように私は見世物になっているわけなんですが。

 我が家はしがない子爵家ですからね……さすがに最高権力に逆らえませんよ……というか、何か言う前に馬車に乗せられた。拒否権なんてものは最初からなかったんや……

 

 「ほら、あそこが王都イチのレストランだ! 王族御用達だぞ!」


 そうでしょうとも。貴方が向かっているわけですからね。


 「あの、殿下……私はあそこの屋台に行きたくて」

 「屋台なんて目じゃないくらい美味いぞ」

 「いえ、そうではなくて」

 「あぁ、この後は今話題の劇を観に行くか。特等席で観られるなんてオレが一緒でないとできないからな!」

 「だから、私は食べ歩きを」

 「それにな! 王城から見る夕焼けはそれはそれはキレイなんだ。せっかくだし夜はパーティーにしよう」


 この王子、人の話聞かないね!

 どうやら気に入られたことはわかった。そして王子は私を案内したくて仕方ないこともわかった。でも私の意見が無視されるのはわからない!


 このままだとこの我道を行く王子に全部決められるぞ。しかも夜までなんて。立場がどうこう言ってる場合じゃない。

 私はグッとお腹に力を入れてまっすぐと王子を見る。

 

 「殿下、お聞きください」

 「なんだ、ユーリ。他にも行きたいところがあるか?」

 「いえ、私は劇場にも王城にも行きません」

 「……は?」

 「私は今日中には家に帰らなくてはなりません。王都から我が家まで4時間ほどかかります。日が落ちるまでに帰るためには、遅くとも昼過ぎには出なくてはなりません。なので昼食の後には両親と弟の元に戻らなくてはならないです」

 「……」


 王子の表情が一気に曇った。

 ヘソを曲げたルイスみたいな顔だ。


 「……オレの言うことが聞けないということか」

 「はい。せっかくのお誘いですが、お断りさせていただきます」


 きっぱりと言い放つ。このくらい言わないと本当に夜まで引きずり回されそうだ。最高権力に逆らってお父様の立場が危うくなるかもしれないけど、そこはお父様がどうにかするでしょう。あの人、案外腹黒いし。

 

 王子の眉間に寄っていた皺がなくなり、代わりに両眉が下がってハの字になってきた。口を尖らせ、何かを我慢しているような少し寂しそうな顔。これも知ってる。私が遊びを断ったときのルイスだ。

 私はこういう顔に甘い。お姉ちゃんだからね。

 ふっと小さくため息が漏れる。

 

 「……今日は無理ですが、また後日ならば」


 パッと王子の顔が輝いた。

 わかりやすいくらいの表情の変化がおかしくて、笑いが漏れた。


 「ふふ、これで許してくださいますか?」

 「わかった! じゃあ今度王都に来たときはオレが案内してやるからな! とびきりを用意してやる!」

 「はい、約束です」


 屋台はお預けになってしまったけど、王族御用達のレストランはそれはもう、美味しかった。

 


 

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