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カポック辺境伯領の小さなお姫様


 反省の色一色だった盗賊ごっこの少年たちとカポック伯が前を行く形で私たち一行は辺境伯領の領都へと辿り着いた。

 少年たちは孤児院育ちのヤンキーくんたちだった。定職につかずぷらぷらしていて、小金欲しさに街道を行く裕福そうな馬車を狙っていたらしい。ただ狙っていただけで実際に行動に移したのは私たち一行が初めてだったんだって。初めてで王族を引くのはなかなかどうして運がいいのか悪いのか。王子は厳罰を求めていないこともあって、彼らは街での奉仕活動を科せられるだけで済みそうだ。そのまま定職についてくれるといいね。


 カポック辺境伯領は文字通り、隣国との国境に接した辺境の領だ。

 と言っても隣国との間には山脈が横たわっているので、すぐそこに別の国が見えているわけではない。冬には雪深くなる山脈は山越えに適しているとはお世辞にも言えず、基本的に隣国との交易は山を迂回したものになるため多くはない。迂回してでもやってくる、または行く物好きが運ぶ数少ない交易品の中には米や味噌があると聞いた時には心躍った。15年現地人をしてるけどやっぱり和食は食べたいよねぇ。……和食を取り扱ってるお店とかあるのかな。

 

 まだ雪の残る山を遠くに臨みながら、ゆっくりと領都内の大通りを進む。

 家が建っている間隔も広く、通りも馬車がゆうに2台すれ違ってもまだ余裕があるくらい幅がある。人口に対して領都の敷地が広いから、ゆとりを持った設計になってる。……おばあちゃんちがあった田舎のコンビニは駐車場が広かったな。あれと同じ感じかもしれない。

 高い建物も少ないし、どちらかというと簡素な住宅が多いようにも思える。長閑な場所だ。


 窓からの街並みを楽しんでいると馬車が停まった。

 

 「着きました」


 カポック伯の声を合図に、私たちはカポック伯のお屋敷に到着した。


 街並みと同じようにカポック伯邸も簡素な造りだった。

 ベロニカ家やサフラン家に比べるのもどうかと思うけど、なんというか……一般的な家に近い。ウチよりも屋敷っぽさがないんだけど。日本家屋のような平屋で、そして無駄に広い。造りは一般家庭なのに広さが規格外だから小人にでもなった気分だ。

 通された客間も何人入るんだっていうくらい広い。そんな広い部屋に王子とフレイヤ様がソファーに座り、そしてその後ろに私とリタさんに騎士さんの3人が立っている。


 「お待たせ致しました」


 装いを正したカポック伯が部屋に入ってきた。さっきまでは騎乗するための服装だったけれど、今は…………田舎のおじさん? さっきより作業服っぽくなってる。


 「あぁ、忙しい時期にすまないな」

 「もともとこの時期だからこその視察ですからな。慣れたものです。ただ、どうしても手厚いおもてなしはできませぬが」

 「構わん。もてなされるために来たわけではないからな。我々は我々で動くから伯は仕事に集中してくれ」

 

 王子とカポック伯の間で話が進んでいく。


 もともと今回の辺境伯領訪問は領地視察、正しくは領の名産品や特産品の生産状況の確認と帳簿等に不正がないかの確認だ。何年かに1回行うことなんだけど、それをわざわざ王子自らが行くのは学園に通い始め、卒業するまでの間に改めて各地に顔を出しに行くことも目的なんだとか。国のトップ層であるベロニカ公爵家は王子の付き添い、ということらしい。フレイヤ様のお兄さんであるアイザックさんが行く予定だったのは以前にも辺境伯領に来たことがあったことが理由だったんだけど、他の仕事(邪神騒動)もあって予定が合わなくなったんだよね。

 ちなみにカポック辺境伯領の名産品は木材。土地柄か、カポック伯は領民との距離が近い貴族だから一緒になって作業をする領主様だ。

 ――ということを待ってる間に聞いてたんだけど。

 

 「ん?」


 王子とカポック伯が今後の予定を話している時に、外から騒々しい音が聞こえてきた。誰かが廊下を猛ダッシュしているような――


 「お姉様っ!!」

 

 ノックもなく大きな音を立てながらドアが開かれ、何かが部屋に飛び込んできた。

 それはそのままの勢いで私の前に座っているフレイヤ様に飛びついた。


 「こら、ローラ。殿下の御前だぞ」


 カポック伯が飛び込んできた何か――小さな女の子を叱りつけた。

 フレイヤ様に抱きついていたのはルイスと同い年くらいの女の子だった。フリフリのドレスに綺麗な金髪。そしてくるくる縦ロール。幼い頃のフレイヤ様を彷彿とさせる見た目の子だ。その子はカポック伯のほうをちらりと見ると口を尖らせて不機嫌さアピールをしている。


 「お父様、ローラはフレイヤお姉様がいらっしゃったら一番に教えてくださいとお伝えしたはずですわ」

 「今は殿下と仕事の話をしているんだぞ。それに遊びではなく仕事でいらっしゃってるのに娘のワガママを押し通すわけにはいかないだろう」


 そう言いながらも声に強さがないカポック伯。これは親バカだな?

 一方のローラちゃんは相変わらずフレイヤ様にひっついたまま、顔をぷいっと横に向けてしまっている。こっちは反抗期なのかな?


 「全く……申し訳ありません、殿下」

 「我々の話はおおよそ終わっているから構わないさ。ローラ嬢、先にフレイヤ嬢を案内してもらえるか?」


 苦笑する王子とは対照的に満面笑顔になったローラ嬢は、その笑顔のままフレイヤ様に振り返り、大喜びで手を取って部屋から出ていってしまった。

 ………………置いてかれた?



 王子とカポック伯に許可を取って私も応接室から外へと出た。フレイヤ様を連れて行ってしまったローラちゃんは多分庭のほうにいるんじゃないかとはカポック伯の談。まぁ家の中を勝手に歩き回るわけにもいかないから、言われるがまま庭へと向かう。


 広すぎるお屋敷の中を教わった通りの道順――と言ってもほぼ一本道――で進んでいくと、これまた広大な庭…………庭? 畑の間違いじゃないのかな……花の代わりに野菜が成ってるし、土も耕されている。芝生の部分もあるけど、圧倒的に畑エリアが多い。

 

 「おぉ…………ひっろ」


 カポック伯邸には外壁はない。腰高の柵があるだけだ。その柵いっぱいまで広がっているはた……庭の中をフレイヤ様たちを探しながら歩く。

 

 季節は春先。まだ少し肌寒い時期だけれどこうも燦々とお日様が照ってると気持ちいい。周りに植わっているのが野菜とはいえ、緑は緑。なんだか長閑な雰囲気も相まってちょっとお昼寝したくなっちゃうなぁ。


 「ふわぁ……」


 ガサッ――

 

 「…………ぁ?」

 「…………あなた、何をしていますの?」


 大きく口を開けていたところに思いっきりローラちゃんと出くわした。しかも不審者を見る目で見られている。


 「あぁ、ローラ様。お探ししておりまし」

 「ふんッ。パッとしない顔をしてますわね。どうせどこかの下級貴族の下級職員でしょう。そもそも、あなたは何をしに来たんですの」

 「私はフレイヤ様の」

 「お姉様は私のお姉様ですわ。あなたなんてお呼びじゃないのですわッ」


 おぉ…………全く話を聞いてくれない。

 しかもふんぞり返るように胸を張って腰に手を当て、時折髪を払う仕草がいかにもお嬢様っていう感じだ。くるくる縦ロールも相まって私が思い浮かべる「悪役令嬢」っぽさがすごい。

 

 「えぇっと……ローラ様? あの」

 「ローラは忙しいんですのっ! フレイヤお姉様とお茶をするんですのっ! あなたは早く殿下の元に帰るといいですわっ!」


 それだけ言い残してローラちゃんは私の前から走って行ってしまった。

 さっき初めて会ったにもかかわらず、めちゃくちゃ嫌われてるっぽいんだけどなんで…………?

 

 


 

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