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オレ様王子と剣術大会


 「剣術大会?」

 「えぇ。年に一度開催される大会です。ユーリ様であれば年少部に参加可能ですよ」


 私の剣の師匠、ロン先生が授業終わりにそう言った。

 

 剣術を初めて早4年。私は8歳になった。

 

 剣術を始めたばかりの頃に比べれば身長も伸びて手足の動かし方にも慣れてきた。前世の感覚が抜けきっていないから未だに目測を誤ることもあるけど、もう少し成長したらもっと動きやすくなるだろう。

 

 魔法の授業も順調だ。

 適性魔法である風魔法も初級はもちろん、中級まで使えるようになった。時々ノアが遊びにきては私の魔法の先生をしてくれる。ノアは魔力の使い方も上手いし魔法適性も高かったので彼女から習うのはとても勉強になる。

 

 剣も魔法も順調そのものだ。

 相変わらず『変わり者令嬢』として親しい友人はいないけど。私は全く気にしてない。心配しなくてもそのうちできるでしょ。周りの大人たちのほうが心配しているみたいだ。


 「年少部は8歳から11歳、12歳から14歳の二部制です。年長であれば有利なのはもちろんですが、ユーリ様であれば年齢的なハンデもあまりないでしょう」

 「ふむふむ」

 「優勝者となれば名誉も、ですがユーリ様の場合は今の実力を確認することが一番の目的ですかね。私以外との仕合も刺激になると思います」

 

 師匠曰く、剣術大会は王都で開催されるイベントらしい。貴族、平民の別はなく参加可能。子どもの部、大人の部と年齢的な区別はあるが広く門戸が開かれている。優勝者には金一封もあるよっていう賞レースだが、実際には騎士候補発掘のためらしい。特に子どものうちに唾付けられたらめっけものってことでしょ。

 野球のスカウト制度みたいな感じかな。


 「それと、同年代のお友だちもできるかも」

 「それは余計なお世話です、師匠」

 

 やっぱり友だちが少ないのを心配されてた。

 

 お友だちはともかく、他の人との仕合は魅力的だ。出てみるのもいいかも。

 それに王都も行ってみたいし!

 


 ◇  ◇  ◇  ◇



 なんか、アッサリだった。

 いやー、たまには同年代と関わることも必要だね。自分の立ち位置が分からなくなる。

 えいってやって、ぺいっとしたらあっという間に決勝だもん。さっきの相手とか、なんか言ってたけど聞き終わらないうちに終わってた。

 子どもの大会だからルールも優しくて場外失格だし、剣を弾いて軽く蹴ったらおしまいですよ。チョロすぎない?


 師匠が言うくらいだからもう少しやり甲斐があるかなぁと思ってたけどちょっと拍子抜けだった。

 まぁここまで来たらせっかくだしもらうものもらって帰るけど。

 それに早く終わらせて王都観光にも行きたい。


 いわゆる剣技場って感じの、周りに観客席が設けられたステージの上で次の対戦相手を待ちながら私はぐっと伸びをした。

 子どもの部とは言え、それなりに観客は入っている。本命は大人の部らしいけど、今見てる人たちは保護者が多いのかな。かく言う我が家の両親と弟も私側の最前列にいるし。


 ひらひら手を振りながら家族の声援に応えていると、一際大きな歓声が上がった。

 どうやら相手が出てきたようだ。


 「ふん! お前がオレの相手か!」


 なんだ、このふんぞり返り坊やは。

 サラサラの金髪に、金色の眼。しっかりとした造りの子ども用甲冑に身を包んだ少年はいかにもって感じの……うん、いかにも王子様だな。黄色い声援がすごい。


 「それではこれより、テオ・カランコエ第一王子対ユーリ・サルビアによる第一年少部の決勝戦を始めます!」


 あ、ほんとに王子だった。


 てかさっきまでレフェリーのMCなんてなかったのに。何コレ、王子特典?


 完全アウェイな環境と目の前の貶み顔の王子に軽くため息をつきながら、私は帯刀したまま頭を下げた。

 礼に始まり礼に終わる。

 日本人的ではあるけど、これが仕合である以上必要なことだ。


 「ガラ空きだ!」


 私が頭を上げるよりも早く、王子が駆けてくる。

 剣先が届く直前、私も剣を抜いた。居合術よろしく、そのままの勢いで切り上げる。

 私の勢いに負けて、王子が少しよろめきながら後退った。


 「礼儀がなってませんね」

 「……生意気な!」


 カチンときたのだろう。

 顔を赤く染めながら、また切り掛かってきた。

 するり、と避ければ王子の剣が地面を叩く。

 結構いい音したし、手痺れてそうだなぁ。


 「くそっ! 逃げるな!」

 「いや、逃げてませんけど」

 「大人しく! 我が剣のサビになれ!」


 ぶんぶん大振りが続く王子の剣を軽く避けつつ、たまに弾くのも忘れない。

 なんか稽古つけてるみたいだ。


 ステージ上を一周するように王子とのチャンバラ遊びに付き合ったところで、彼からの斬撃(笑)が止んだ。

 あーあ。肩で息しちゃって。


 「はぁ……はぁ……なん、だ、お前……」

 「ユーリ・サルビアですが」

 「そういう、ことを、聞いてるんじゃない!」


 んん? それ以外に何か?

 首を傾げて見せたが、それもまた王子的納得は得られなかったらしい。


 それにしてもこの王子、まだまだだけどそれなりに見込みはありそうだ。

 今までと同じようにえいっとしてぺいっとしようと思ってたのになかなかどうして、そうならない。他の子達に比べると体幹がしっかりしてるのか、横から切り払っても思いの外留まるし。さっきまでの力加減では剣を弾き飛ばされることもない。てっきり忖度でここまで来たのかなと思ったけどそうでもないのかも?

 これは、ちょっと本気出してもいいかな。


 相手が構え直したのを見計らって、私はとんっと前に踏み込んだ。

 懐に飛び込みつつ、剣に向かって切り上げる。

 甲高い音と共に王子の持っていた剣の剣先側の半分が宙を舞った。

 そのまま大きく弧を描き、場外に落ちる。


 金属が落ちる音に先ほどまでの歓声が水を打ったように静まった。

 しーん、ってこれだね。


 私の勢いに負けて尻餅をついている王子と呆気に取られた様子のレフェリーを見る。

 武器が壊れた場合ってどうなるんだろう。そこまでルール確認してなかったや。いいや、王子を場外に落としちゃえ。

 

 尻もちをついたままのぽかんとする王子の首根っこを持って、ぺいっと場外に落とす。

 なのになかなか試合終了の宣言がない。

 私はレフェリーに振り返った。

 

 「終わりでいいですか?」


 やっと再起動したのかレフェリーが顔を真っ青にしながら壊れたおもちゃみたいに何度も頷いた。


 「し、勝者、ユーリ・サルビア……さん」


 なんか、さん付けになってた。


 


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