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盗賊に襲われるイベント


 ガタガタと揺れる馬車。

 もちろん、辻馬車や乗合馬車なんて比じゃないくらい立派な造りだからふかふかのクッションのおかげでお尻が痛くなるなんていうことはない。ないのだけれど――


 「さすがに1週間っていうのは辛いですねぇ」

 「……ちゃんと座りなさい、ユーリ。危ないわよ」


 窓枠にもたれかかりながら顔だけを出すように風を感じながら呟く。横からフレイヤ様に注意されちゃった。


 フレイヤ様と王子の辺境伯領視察に同行することになった私。なんだかんだでしれっと許可されてしまった。実はフレイヤ様のお兄様――アイザックさんがオッケーを出すよりも前に決まっていたんだそうだ。本人(わたし)に相談なく。

 ちなみに立場的にはフレイヤ様の護衛っていうことになったらしい。視察である手前、ただの友人を連れて行くわけにもいかず、かと言って私自身やサルビア家に辺境伯との繋がりもない。そうなると「なんでお前ここにいるの?」状態になるので、建前としてそういった役職が必要だったとか。……そこまで無理やり理由をつけてまで連れて行こうと画策されていたのがちょっと怖いんですけど。特にテオ王子がノリノリだったと聞いて首を傾げざるを得なかった。なんかフレイヤ様が私と一緒に行きたいからっていう理由以外の何かがあるのかなって疑いたくなる。


 ……まぁそれを聞いたところで素直に答えてくれないのはわかっているので、一緒に行くという事実だけを受け止めることにした。フレイヤ様と一緒に過ごせるのは嬉しいしね。


 バタバタと準備をして、学年末の試験を経て、さらには学年終わりのダンスパーティー……は日程の関係で欠席し、私たちは辺境伯領へと馬車で向かっているところだ。

 

 王子や公爵令嬢を野宿させるわけにもいかないので色々調整しながら街や村に寄って宿泊した。そういったこともあって1週間かかっているらしい。

 こまめに休憩を取りながら、旅程によっては早めに街に寄りながら馬車に揺られる日々。休憩の度に体を動かし、早く宿に入った日は素振りをしてみたけど、それでも日中ずっと座りっぱなしっていうのもいい加減飽きた。やっと片道1週間の旅程の終盤になって、明日には辺境伯領の領都に着くと聞いた時には思わずガッツポーズしそうになった。フレイヤ様と四六時中一緒(もちろん宿の部屋は別)なのは嬉しいけど、ろくに体を動かすことができない移動はしんどい。


 で、やっと今日の昼過ぎには領都に着くはず――なんだけど。

 

 「………………ここってこういうのよく出るんですか?」

 

 ついさっき停まった馬車の窓から顔を覗かせながら誰にともなく問うてみる。まぁ、この馬車には私とフレイヤ様、リタさんしか乗ってないからふたりのいずれかってことになるのかな。


 「ひゃっひゃっひゃっ! 積荷と女は置いていきなァッ!!」


 わかりやすく盗賊然とした数人の男が、わかりやすく盗賊然としたセリフを口にしている。

 そう、今まさに囲まれております。


 「さすがに王族のエンブレムが付いた馬車を襲うような愚か者が出るとは思ってなかったわね」

 「騎士さんたちも少し戸惑ってるようですよ」


 全身鎧ではないにせよ、護衛の騎士が馬車の周りを騎乗した状態で並走していたんだけど、それに向かって走ってきた時はあまりにもおバカな行動すぎてちょっと見守ってしまったくらいだ。フレイヤ様が言った通り、そもそも馬車には王族のエンブレムがデカデカと描かれているのにそれをターゲットにするとは……何考えてるんだか。いや、何も考えてないのかな。


 とにかく今はその男たちに囲まれた状態なんだけど、騎士さんたちも手を出していいのかどうかわからなくて困ってる。

 見るからに盗賊っぽいんだけど、全体的に年齢が低そうなんだよねぇ。どちらかというとヤンキー? 着てるものも小綺麗な感じだし。

 やってることは犯罪に片足以上突っ込んでるんだけど、どうにも犯罪者っぽくないというか。下手に返り討ちにして殺していいものなのかどうか判断がつかないらしい。王子も馬車から何かしらの指示を出す様子もないから、こうやって立ち往生してしまっている。


 「うーん……私が行ってきましょうか?」


 無力化するだけなら風の塊でもぶつけて吹っ飛ばせばできなくはない。もしくは峰打ち? 騎士さんたちが手出しちゃうと王族的な意味で色々とまずそうだし、フレイヤ様の護衛っていう立場の私が動く分には問題ないだろう。多分。

 何よりもう少しで領都というところまで来ているのにこんなところで立ち往生したくない。私は早く街でゆっくりしたいんだよ。

 

 「ユーリ様、その必要はないかと思います」

 「え?」


 リタさんの言葉に真意を聞こうとするよりも早く、外から馬が駆ける音が聞こえてきた。もう一度外に視線を向けると進行方向から黒い馬に乗った何者かがこちらへと疾走してくる。それはもう、結構な速さで。

 その人物は私たち一団の少し手前で馬を止め、そのままの勢いで馬から下りてそのまま走ってきて思いっきり盗賊っぽい少年たちのリーダーっぽい男を殴り飛ばした。


 「ぐぅぇええええええ!!」


 放物線を描きながら吹っ飛ばされていく男。地面に不時着すると共に響き渡る悲鳴。唖然とする私とフレイヤ様。


「このッ!! 大馬鹿どもめッッ!!!!」


 そして耳がキーンとするくらいの大声。

 ……いや、ほんとに。全然身構えてなかったからあまりにも大きな声に驚きを通り越して耳が痛い。


 全くわからない状況にただただぽかんとしていると、私たちが乗っている馬車の前にいた、王子の馬車のほうへとその大声を発した男の人が走って向かい、そのままスライディングするように土下座した。土埃がすごい。

 

 「テオ第一王子殿下ッ! この度は我が領の大馬鹿どもが大変ッ、大変ッ、失礼いたしましたァッ!!」


 声でっか。

 少し離れてるからまだマシだけど王子の馬車が大声で揺れてるような気がするんだけど。

 しかもこの大声の人、体もでかい。筋骨隆々って言葉がピッタリ合うような立派な筋肉が服を押し上げている。なんかちょっと「ふんッ!」て力入れたら服が弾け飛びそうなくらいムキムキだ。そのムキムキな体を精一杯に小さくするような土下座の姿勢なのにビシッとしてるし、細かい所作はしっかりしているようにも見える。


 もしかして――とこの人の正体を見破るよりも早く、王子の馬車の戸が開かれ、テオ王子がこの男性の前に降り立った。

 

 「あぁ、久しいな。カポック伯。とりあえず顔を上げてくれ」

 「いえッ! このような事態になったのは某の責任でございますッ! かくなる上はこの命をもって――」

 「待て待て。そこまでしなくていい」


 土下座スタイルのままナイフを取り出し、切腹する勢いの男性にテオ王子は呆れたように手を上げて制止した。さっきから男性――カポック辺境伯が声を出す度に地面の小石がビリビリ振動を受けて動いている気がするんだけど。間近でそれを受け続けている王子の鼓膜、大丈夫なんだろうか。

 未だ切腹を試みようとしている辺境伯をいつの間にか騎士さんたちが羽交い締めにして止めていた。それくらいしないと止まらないらしい。


 「全く……貴殿は相変わらずだな。まぁ落ち着け。彼らが犯罪者ではなく領内の悪ガキだということはわかっていたし、王族として何か罰するつもりもない」

 「し、しかし殿下……王族に対し刃を向けた者に対し、甘すぎるのでは……」

 「そもそも王族だとわかっていなかったんだろ。わかっていてわざわざ狙ったのだとしたら国家反逆罪だがな」


 ちらりと王子が少年たちのほうを見る。いつの間にかその場で正座し、顔を真っ青にした彼らはガタガタ震えながら首を全力で横に振ってる。……本当に王族のエンブレム知らないで襲ったんだね。


 「それに彼ら程度の実力ならあっという間に制圧されていたからな」


 王子の視線がこちらを向く。まぁ私もいるし、フレイヤ様もいるのに粗末な剣と棍棒っぽい武器だけで襲撃されたところでどうとでもなっただろう。他に仲間がいる気配もないし。


 「彼らの処罰は貴殿に一任するが、とりあえず諸々のことは領都に着いてからだ」


 王子の一声で土下座スタイルのカポック伯をはじめ、正座した少年たちはとぼとぼと立ち上がり、領都に向かって馬車と共に進み始めた。




 

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