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心配とジェラシーとお誘いと


 フレイヤ様のご乱心から一夜明け。朝食時に珍しくフレイヤ様を見かけて声をかけようと思ったらぷいっとされてしまった。

 なんで? と思ってたんだけど、ノアに昨日のことを説明したら――

 

 「ユーリ、夜這いするのは結構だけど、学生の間は節度を持ったお付き合いをしなさい」

 「………………へぁっ?!」

 

 夜中、部屋、寝間着姿……とあらぬ誤解を与えてしまったらしいということをこの時初めて気づいた。それと同時に顔が真っ赤になったよね。まさかお付き合いを始めてすぐにそういう……ごにょごにょ……なことしたいって思春期かよ。思春期だわ。

 で、でも私だってその、そういうことに興味がないわけじゃないけどそういうことは徐々にというか……雰囲気とかタイミングとか、そういうのも、あるじゃない? ……あるよね?

 ぶっちゃけ前世では男女どちらともお付き合いなんてしたことないからどういう過程を踏んでそういう、その、ごにょごにょな関係になるのかわからないけど。それ以前に女性同士のアレヤコレヤもわからないし。………………告白するまで結構な時間かけてうじうじしてたのに、いつになったらそういう関係になれるんだろ。


 こほん、それはともかく。


 結局、フレイヤ様から明確なお返事はいただけないまま、日々は過ぎるのです。


 「……そういえば破滅回避ってどうなったんだろ」


 ふと自室でベッドに転がっている時にそんなことを思った。

 元々私はこの世界(ストーリー)のことをほとんど知らない。唯一知っていたのがフレイヤ様が悪役令嬢ってことくらいだ。そして悪役令嬢であるが故に何かしらのイベントを経て破滅するんだろうなって思ってた。主人公であるアメリアと攻略対象が結ばれるために排除される……っていうのが彼女の役割だったはずなんだけど。


 「アメリアは私のことが好きだったし、私とフレイヤ様が両思いになっちゃったし、ストーリーとしては破綻してるのかな……?」


 そうなる、のかな?

 私が攻略対象だったっていう可能性も否めないけど、そもそも私は女だし。知らないだけで乙女ゲームにもそういうルートがあるものなのかな……?


 うーん、と唸ってみるけど真相はわかるはずもない。妹がなんか言ってた気もするけど、覚えてないしなぁ。ぶっちゃけ聞いてなかったんだと思う。


 ま、こうなっちゃったからフレイヤ様の破滅ルートとやらはもう問題ないってことでしょ。王子との婚約話もなさそうだし!

 


 ◇   ◇   ◇   ◇



 「……殿下と、ですか?」


 自室での自己解決から数日。放課後のお茶会の席でタイミングばっちりにフレイヤ様からその話が飛び出して、思わず渋い顔をしてしまった。そういう表情を自覚したというよりは、フレイヤ様が苦笑したのを見て私が複雑な感情をそのまま表に出しているんだとわかったという感じだ。


 「そんな顔しないで、ユーリ。少し殿下と領地の視察に行くだけよ。それもお兄様の代わりに」

 

 フレイヤ様が困ったように微笑みながら事の顛末を教えてくれた。

 曰く、本当はフレイヤ様のお兄様が行くはずだった辺境伯の領地視察にどうしても都合がつかないからとフレイヤ様に白羽の矢が立ったのだとか。ベロニカ家として挨拶に伺わなくてはいけない事情もあり、フレイヤ様が行かないわけにもいかない、と。

 

 「辺境伯領って王都から馬車で1週間はかかるんですよね?」

 「えぇ。向こうでの滞在も含めれば3週間ほどは王都を離れることになるわ。春季休暇に合わせて、ね」

 「……………………」


 …………わかってる。オシゴトで行くだけだって。でも、フレイヤ様と3週間も離れなくちゃいけなくて、それに加えて王子と一緒だというのを聞いてもやもやしてる。フレイヤ様と思いが通じ合ったから、フレイヤ様が王子のことを好きになるんじゃないかっていう心配はない。ないんだけど――


 「そんなに心配?」


 心境を言い当てられてハッと顔を上げた。相変わらず眉を下げたフレイヤ様がじっと私のことを見つめている。少しだけ傷ついたような色が見えるような気がするのは私がフレイヤ様のことを信頼していないと思っているから、かもしれない。

 ……ちょっと幼稚だったな。心配させちゃダメ、だよね。


 頭を左右に振りながら、できるだけ安心できるような笑顔を浮かべる。浮かべられているかどうかはちょっと自信ないけど。


 「いえ、さみしいなって思っただけです。もちろん、道中のフレイヤ様の心配はしていますが」

 「ユーリは本当に嘘が下手ね」


 一瞬で看破されました。

 

 さっきまでの心配そうな表情から一転、呆れられてる。ノアがよくやる顔だ。なんだかフレイヤ様もアメリアも、最近だとルイスまで私のことを困った子扱いしてくる気がするんだけど。なんで?

 フレイヤ様はさらに呆れたようなため息をつきながら、でもどこか優しげに見つめられている。ちょっと居心地が悪い。

 

 「ユーリは本当にわかりやすいわね。素直なことは貴女の美点だわ」

 「……それって褒められてます?」

 「貴族としては褒められたことではないわね。でも、私はそういうところ……その、とても好ましい、と思います、わ」


 後半は消え入りそうになりながらも、そう言ったフレイヤ様の顔はほんのりと赤く染まっている。つられて私も顔が熱くなっていくのを感じた。

 ふたり揃って顔を赤くしながら、お互いのことを直接見るのも気恥ずかしくなって俯いてしまう。フレイヤ様の気持ちを聞けて嬉しい。直接「好き」って言葉はまだ聞かせてもらえてないけど、こうやってフレイヤ様が好きな私を知れる機会も増えてきている。その度にふたりして真っ赤になっちゃうんだけど。

 

 「……こほん、それはそれとして。ユーリが何を心配しているのかを聞けないと私は安心して行けないわ」


 フレイヤ様が先に復活するのもここ数日のお約束になりつつある。まだ顔は赤いけど。私? 私はごまかそうとしているフレイヤ様がかわいすぎてまだ顔が熱いよ。ついでにさっきまでの話が終わってなかったことに動揺してます。これは素直に言わないと許してくれなさそうだ。でもそれって私が王子に嫉妬してるってことを言わないといけないんだよね。それってなんか……カッコ悪い、気がする。

 今更カッコつけても仕方ないのかもしれないけど、そう思ってしまうとどうやって伝えたらいいのかわからなくなる。というか、こうやって悩んでる事自体しょうもないことな気がして余計になんて言ったらいいかわからない。


 「………………私に言えないこと?」

 

 どうしたものかと頭を悩ませていると、フレイヤ様の表情が曇っていた。唇を尖らせ、拗ねてるようにも見える。

 そしてそんな顔をされたらもう黙っているなんてことはできないわけでして。


 「………殿下に嫉妬、してました。お仕事とはいえ、フレイヤ様と3週間も一緒に過ごすなんて、その、羨ましいなと思って」


 我ながら情けない。素直に白状してみたものの、後半は段々と声量が小さくなっていく。だって子どもみたいじゃん。なんだよ、『一緒に過ごすのが羨ましい』って。今まで散々一緒に過ごしてきたのに。でも、でもさ。私だってフレイヤ様とお泊り込みで出かけたの、夏休みの時が初めてだったんだよ。それもあの時はせいぜい1週間くらいだった。それが3週間だよ? 3・週・間ッ!! ずるい!!

 

 「…………そう」

 

 意を決して言ったにもかかわらず、フレイヤ様からの答えは短かった。あまりにも短すぎて、心の中で言い訳するために伏せていた顔を思わず上げてしまった。

 目に入ってきたのは、耳まで真っ赤に染めて口元を隠して横を向いているフレイヤ様だった。


 「…………理由が幼稚だなって思って笑ってます?」

 「そんなこと、ないわ」

 「むー……じゃあこっち向いてください」

 「………………」

 「フレイヤ様?」

 「………………むり」


 そう言いながらフレイヤ様はさらにぐりん、と後ろを向く勢いで体ごと私から逸らしてしまった。やっぱり笑われてるんだ。私も幼稚だなって思ったもん。

 

 「…………こほん、失礼しましたわ。ユーリの心配事は理解しました」


 すっかり常温になってしまっていた紅茶を口にしながら待っていると、復活したフレイヤ様がやっとこっちを向いてくれた。顔の赤みも取れてるけどまだちょっと口元を気にしているのか両手でぐにぐにしてる。……かわいいな。

 さっきまでのいじけてた気持ちはどこへやら、ぐにぐにフレイヤ様が愛らしくてニコニコしちゃう。そんな私のほうを見ながらちょっと不思議そうな顔をしているのもまたかわいいよね。うん。


 「……そんなに心配なら、その、一緒に行く?」

 「ふぇ?」


 すっかり意識外に追いやっていた話題に関する質問に、思わず気の抜けた声が飛び出した。

 


 

 

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