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赤髪ツインテール娘の護衛勧誘


 魔法の授業が始まって2ヶ月あまり。

 やっと魔力の操作が身体に馴染んできて、ちょっとした風なら起こせるくらいになってきた。


 秋も深まってきて少し肌寒くなってきた中庭で今日も私は魔法の訓練をしていた。もちろん剣術もやってるよ。


 まずは体内の魔力をぐるぐる回すことから始める。操作性の向上になるってマルス先生が言っていた。

 芝生の上に座って瞑想するような姿勢で魔力が身体の中を巡っていく感覚に集中する。これをやっていると私の周りに風が渦巻く感じがするから夏は心地よかったんだけどちょっと寒くなってきたな。


 「ちょっとあんた!」


 寒くなったら室内で洗濯物を乾かすのに使えたりしないかな? 人間サーキュレーター的な?

 使用人さんたちをお手伝いできないかなぁ。


 「ねぇ!ちょっと!」


 火魔法も使えたら温風になったりしない? そしたらドライヤーとしても使えるかな。

 両親との約束とはいえ、髪が長いと乾かすの大変なんだよね。


 「無視しないでよ!」

 「いてっ」


 スパンっと心地よい音がした。のと同時に、頭に衝撃。どうやら叩かれたらしい。

 目を開けると私のことを見下ろすように女の子が立っていた。

 赤い髪を頭の高い位置でふたつ結びにしている。いわゆるツインテールだ。

 ちょっとツリ目気味の瞳の色は茶色。フリフリの薄い黄緑色のドレスに身を包み、腕を胸の前で組んで仁王立ちしている。

 勝ち気そうな見た目。なんだか絵に描いたようなツンデレっ娘だ。

 

 そのツンデレっ娘が眉毛を逆ハの字に吊り上げている。なんだか怒ってる?


 「えぇっと……?」

 「あんたがユーリね!」

 「あ、はい」

 「私はノアよ。ノア・サフラン!」


 ノア? サフラン? 誰?


 私が首を傾げたのを見て、ノアと名乗った少女はふーっとため息をついた。


 「何? あんたのお父様、何も言ってないの? 私のウチはサフラン伯爵家。あんたのお祖父様と私のお祖父様は兄弟。つまり、親戚よ」

 「親戚?」

 「何よ、あんた何も知らないの? ぼんやりした子だって聞いてたけど、もうちょっと家のことに興味持ちなさいよ」


 いやー、ぶっちゃけ親戚関係って面倒じゃない?

 会う度に「大きくなったね」だけでなく「彼氏はできた?」なんて聞かれるし、おじさんたちのお酌させられたりしてさ。前世の記憶的には進んで関わりを持ちたいとも思えなくて、お父様に聞いてやぶ蛇になるのも嫌だったんだよね。お父様もあんまり話題に出さなかったからあえて聞くこともしなかった。

 

 で、目の前の少女が私の親戚だと。

 お祖父様同士が兄弟っていうことははとこ?


 そっかぁ、とひとり納得して、私は少女のほうに改めて顔を向けた。


 「それで、ノア、様? 本日はどういったご用件で?」

 「……あんた、変わってるって言われない?」

 「よく言われますね」

 「私が言うのも何だけどもう少し質問とかないの? あんまり何事もなかったように話を進められるとこっちが困惑するんだけど」

 「私が知らなかっただけで、親戚もいるんだなって」

 「本当に変わってるわね、あんた」


 なんかため息つかれた。


 「はぁ、もういいわ。それに様付けもいらないし、敬語もいらない。あんたは私の親戚なんだし」

 「わかった、ノア。それで、今日はどうして?」

 「あっさりね。あんたが魔法の授業を始めたって聞いて来たのよ。前々から会ってみたいと思ってたし。魔法を使えるようになったっていうことは私の護衛にはちょうどいいし」

 「護衛……?」

 「そういえば何も知らなかったわね。私はサフラン家の一人娘で、次期伯爵なのよ。お母様は身体が弱くて弟や妹を望むこともできないし、お父様はお母様を愛しているから妾を作ることもしない。だから確定ね。サフラン家は実力主義なの。男女の別なく家を継ぐことができるわ」

 「それと私に何か関係が?」

 「親戚筋の、変わり者の令嬢。しかもまだ6歳にもかかわらず剣の才能は家庭教師の現役剣士も認めている。だから私の護衛としてスカウトしにきたってわけ」


 師匠、私の腕前を認めてくれていたんだ。それは励みになるなぁ。

 

 思わずにやにやしてしまった私に、ノアはまたため息をついた。この子、ため息多いな。

 

 「ちゃんと聞いてる?」

 「聞いてる、聞いてる」

 「……とにかく、あんたには剣術だけじゃなくて魔法の才能も伸ばしてもらわないと困るのよ。私が将来伯爵になったときのためにも」

 「あ、でも私、騎士になるつもりなんだけど」

 「サフラン家のお抱え騎士でも何でもいいわよ」

 「そこに私の意思は」

 「そんなものあるわけないでしょ。私の決定よ。それに護衛なら……」


 ノアがぽつり、と何かをつぶやいた。

 聞こえるか聞こえないかの言葉に私はまた首を傾げる。なんだろう。この感じ。知ってるような気がする。

 あぁ、そうだ。小学生の時に同じクラスだった女の子でこういう言い方をする子がいた。

 やたらと命令口調で言う子で、他の子たちから煙たがられていたっけ。でも、たしかあの子は……

 

 「もしかして、私と友だちになりたい、とか?」

 「!」


 ボンッと音がしそうなくらいノアの顔が真っ赤になった。


 「な、何言ってるのよ! そんなんじゃないわよ! そもそも親戚なんだから! あんたは私の護衛として!」

 「え、あ、ごめん」

 「別に、同い年だから気になってたとか、お茶会だってできるかも、なんて思ってたわけじゃ……!」

 「そんなこと言ってないけど」

 「う、うるさいわね! とにかく! ユーリは私の護衛になるの!」


 面白いくらいに動揺しながらも居丈高にしてみせるノアを見てると、余計に同級生の子を思い出す。

 人との付き合い方が不器用な子で、本当はみんなと仲良くしたかったのになかなか素直に言えなかったんだ。

 私は思わず笑ってしまった。少しだけ顔を思い出せない前世の妹にも似ている気がする。


 「うん、わかった。護衛になるかどうかはもうちょっと考えさせてほしいけど、ノアと仲良くなりたいな」

 「護衛は決定事項だからね!」

 「護衛じゃなくても、私は一緒にいたいなぁ」

 「……ほんとに?」

 「うん、ほんとに」


 さっきまでの勢いはどこへやら、ノアはおそるおそる、という感じで聞いてきた。

 にっこりと笑って手を差し出す。

 壊れ物に触れるように不器用な彼女が私の手を取った。その小さな手をきゅっと握りしめる。


 「よろしくね、ノア」







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