表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/75

触らぬ神に祟りなし


 乙女ゲームかぁ。乙女ゲーム。

 うーん。

 私、そっち系は詳しくないんだよねぇ。単語とかおおよその展開パターンみたいなのは見たことあるんだけど個々のゲームはわからない。RPGとかバトル漫画とか闘う話は大好きなんだけど。どうも青春胸キュンものは少女漫画も含めて興味が持てなくて、妹の推しだった『黄昏時のアイビー』もストーリーを知らない。

 唯一知っているのは、目の前の彼女が悪役令嬢だということだけ。


 それにしても、ゲームの世界に転生かぁ。そういうお話もよく見かけたけど、いざ自分がその立場になってみると感慨……も何もないな。知らないし。


 「フレイヤは君と同い年だ。仲良くしてやってくれ」


 ベロニカ公爵の声に私はハッとした。

 危ない危ない、漫画にありそうな展開にちょっと考え込んじゃってた。

 緩んだ表情を引き締めつつ、私は微笑みながら公爵様の隣に立っているフレイヤ嬢に改めて礼をとった。


 「はい。フレイヤさま、よろしくおねがいします」

 「いやですわ」


 ピシャリ、と彼女は間髪入れずに言い放った。

 

 おや? 私何か悪いことした?

 空気が凍ってるぞ。大人の笑顔が止まったなぁ。

 

 凍りつく空気の中、フレイヤ嬢は続けて言った。

 

 「わたくしがなんでこんなへんじんとなかよくしなければいけませんの」

 

 変人って。

 まぁ令嬢なのに半ズボンだし、剣術習ってるし、変わり者だと思われるだろうなって思ってるよ?

 ここまでストレートに言われるとは思ってなかったけどね。

 貴族ならではの嫌味はあるかなって思ってた。ぶぶ漬け的な。

 

 「こんなのをつれてあるいたらわたくしまでへんにおもわれてしまいますわ」


 ついにはこんなの呼ばわりですな。あまりの物言いに笑いが漏れる。

 言うだけ言ってフレイヤ嬢はつん、と横を向いてしまった。

 あまりにもバッサリと行くフレイヤ嬢の言動に、隣に立っている公爵様が慌てた様子で娘を諌めようとする。


 「フレイヤ。サルビア家は優秀な貴族であり、我が家の友人でも」

 「であれば、もっときぞくらしくするべきですわ。れいじょうなのにドレスもきずにひとまえにでるなどごんごどうだん。きくところによると、サルビアししゃくはへいみんとかたをならべておしごとをなさってるとか」

 「それはハリソンの人柄による」

 「きぞくはきぞく。へいみんをすべてこそ、ですわ」

 

 フレイヤ嬢はそれだけ言い残し、さっさと踵を返して私達の前から立ち去った。

 娘の剣幕に押されていた公爵様は少しの間フレイヤ様の背中を見つめていたが、申し訳なさそうな顔でお父様に向き直った。


 「すまない。ハリソン、ユーリ。娘は少し、その、難しい年頃でな」


 反抗期ってやつですかね。

 お父様が苦笑しながら首を振る。

 

 「いえ、お気になさらず。フレイヤ様のおっしゃることもごもっともですので。上官ならば上官らしくせよ、とのお言葉は耳に痛くもあります」

 「ハリソンは昔からそういうことはサッパリだったな。しかしそこが君のいいところだと私は思う」

 「ありがとうございます。しかし貴族としてはもっとしっかりとするべきなのでしょう。研究以外のことにはどうにも疎く……」

 「適材適所さ。君が苦手なことは周りに頼っても構わないよ。私もできる限りのことはしたいと思ってるからね。あぁ、そうだ。例の件はどうなっているんだい」

 

 お仕事の話になってきた。

 父親ふたりの話を聞き流しながら、私は少し離れたところで他の子どもたちに囲まれているフレイヤ嬢に視線を向けた。

 やっぱり洋館にあるお人形さんみたいだ。白く透き通る肌も、陽の光にきらきらと輝く金髪も、とてもきれいだ。でも彼女の笑顔はどこか冷めている。そのせいか余計に作り物のように見える。5歳児が見せる表情じゃない。


 彼女は『悪役令嬢』。

 乙女ゲームに詳しくない私でもその存在は知っている。作品内におけるライバルキャラクターであり、時にラスボスである。大抵はヒロイン(身分低め)に対して意地悪な仕打ちをし、断罪イベントを経て追放される。とかだった。

 前世で流行っていた乙女ゲームだとそんな感じのストーリーが多かったからこの世界における彼女の末路もそうだろう。

 テンプレだと攻略対象と呼ばれるイケメンが数人いて、そのうちの身分高めな相手が『悪役令嬢』の婚約者でありヒロインとのライバル関係の火付け役。その婚約者がヒロインと恋に落ちてなんやかんやが起こるからだ。

 

 それって浮気じゃないの?って思うよね。私は思う。そんな男が相手でいいのか、ヒロイン。


 この世界が『黄昏時のアイビー』の世界なのだとしたら、多分私はストーリーに関係のないモブだ。ヒロイン要素もないし、攻略対象になるような身分高めなイケメンとどうこうなる可能性もない変わり者令嬢だからね。

 嫌われているみたいだし、取り巻き令嬢とか子分になることもないだろう。

 妹の部屋に飾ってあったポスターを思い出す限り、ストーリーは15歳に入学する学園が舞台だ。10年後。


 だから私ができることはただひとつ。


 できる限り彼女に関わらない。触らぬ神に祟りなし。

 現状の目標『騎士になる』を目指すことに変わりはないし、弟はかわいいし、両親は優しい。

 今の家族を大切に、ゆっくりまったり人生を送るのだ。


 私はフレイヤ嬢から視線を外し、ご馳走の山を見た。ぐぅっとお腹が鳴りそうになって慌てて手で抑えた。

 早くお父様のお話終わらないかなぁ。


 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ