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変わり者令嬢のお誘い


 「おわったぁ」


 机に突っ伏しながら両手を前に投げ出す。たった今! 期末考査の最終科目が終わった!


 「お疲れ。どうだった?」

 「うん、ノアのおかげで何とかなった気がする」


 結局ノアに泣きついて苦手科目だけでも見てもらえたからね。平均以上は取れてると思う。

 アメリアとフレイヤ様には悪いけど、やっぱりできるだけ自分で頑張ると伝えて勉強会はご遠慮願った。ただでさえあまりよろしくない成績がさらに急降下しそうだったので。


 ぐだーっとしながらノアを見上げる。

 フレイヤ様もアメリアもいつの間にか教室を出ていってしまった。

 

 「これで夏休みだ!」

 「その前に終業祝のダンスパーティーがあるわよ」

 

 ダンスパーティー、だと……?


 「え、何それ」

 「はぁ……だからなんであんた、行事をほとんど覚えてないのよ。一番最初に説明されたでしょ」

 「あはは……そうだっけ」


 深い溜め息と共にじとっとした目で見られてしまった。ノアには呆れられてばかりだ。

 行事説明を聞いてなかったのは、入学当初は色々とね。これから始まるストーリーも少しは気になってたし、迷子になったことをフレイヤ様とノアに怒られたりとか色々と、ね。それどころじゃなかったし後で聞けばいいやって思ってて忘れてただけなんだけど。


 というか、パーティーかぁ。貴族的社交の場って苦手なんだよねぇ。

 幼少期は昼間のお茶会がメインだけど私達も大人としてカウントされる年齢だ。私はまだ正式な場には行ったことがないけどフレイヤ様とノアは家の代表として出席することもあるらしい。そのうち一緒に出ることもあるんだろうけど。


 ダンス、ダンスかぁ。

 ぐいっと上体を起こし両腕を組んだ。ダンス、できるんだけどね。

 

 「ダンスパーティーって出なきゃだめ?」

 「学校行事よ、当たり前でしょ。ちゃんとパートナーも見つけて出なさいよ」

 「え、パートナーって」

 「ダンスのパートナーに決まってるでしょ」

 「えー……どっちで出るべき?」

 「女性に決まってるでしょ。なんで男性側で出る選択肢があるのよ」

 「どっちも踊れるから? それにドレスなんて10年以上着てないよ。今更着るのもなんだか恥ずかしい」

 「いいじゃない。喜ぶわよ」

 「? 誰が?」


 え、私のドレス姿を見て喜ぶ人なんているの? 自分で言うのも何だけど、その人は相当変わり者なのでは。

 

 私の素朴な疑問にノアは口をもごもごさせている。自分で言ったのに『喜ぶ相手』が思いつかないのかな。

 

 「……殿下とか?」

 「めちゃくちゃ笑われそうだね」

 「とにかく、ちゃんとパートナー探しなさいよ。欠席は認めないから」

 「はーい」

 

 仕方ない。誰か探さなくちゃなぁ。



 ◇   ◇   ◇   ◇



 まぁ見つけようと思って見つけられるものでもないわけでして。

 そもそもこういうお誘いってもうちょっと前からやるものだよね。ダンスパーティーまで1週間ほど。もう決まってる人のほうが多い。


 「フレイヤ様はもうダンスパーティーのパートナーはお決まりですか?」


 比較的涼しい今日は中庭の木陰でフレイヤ様とプチピクニックだ。

 私とフレイヤ様の魔法を使えば快適な環境にできるし、お昼ご飯を外で食べるのに季節は関係ない。ちなみにノアがいれば冬も快適。

 

 「えぇ。殿下からお誘いを受けました」

 「…………殿下から?」

 「……何か?」

 「いえ、殿下がフレイヤ様をお誘いしたというのが意外で」


 なんだろう。ふたりとも私の幼馴染でもあるけれど、なんだか胸の辺りがもやっとするような?


 「ただの女避けだ」

 「殿下」

 

 もやもやが気になって胸の辺りを押さえていると当の本人、テオ王子が登場した。

 相変わらず金髪がキラキラしてる。


 「お前が心配するようなことじゃないぞ、ユーリ」

 「? 私は何も心配していませんよ?」

 「そんな顔じゃなかったがな。まぁいい。フレイヤ嬢を誘ったことに深い意味はない。オレは立場上一番に踊らなくてはならないからな。それ相応の相手となるとフレイヤ嬢くらいしか思い浮かばなかっただけだ。お前やノア嬢を誘うと余計な騒ぎも起こりそうだしな」

 「私も公爵家の令嬢ですから。殿下のお誘いをお断りするわけにもいきません」

 「……まぁそういうことだ」

 「なるほど」


 殿下もフレイヤ様も美男美女だし、ふたり並ぶと絵になる。一番最初にふたりが踊るのはさぞ美しい光景だろうなぁ。

 

 そう思うのに。


 「ユーリ?」

 「いえ、何でもありません」


 なんとなく、面白くない。


 


 結局胸の辺りがつっかえたままなのがなぜなのかわからないまま昼食を終え、寮の自室へと戻ることになった。

 ドレスを用意しなくてはならないけど、パートナーがいないままだとそれも無駄になりそうで何もしていないままだ。

 

 「んー! なんかもやもやする! こういう時は身体を動かすに限るな!」


 自室でごろごろしててもどうにもスッキリしないから昼寝もできない。

 外でも走ってこよう。


 制服から動きやすい格好へと着替え、寮を出ようとしたところでアメリアと会った。


 「ユーリさん」

 「アメリア。今帰り?」

 「はい。貸衣装屋にダンスパーティーのドレスを借りに行っていました」

 「そっかぁ。アメリアは相手、決まってるの?」

 「いえ、私を誘ってくださる貴族様はいらっしゃいませんので」


 しょんぼりとするアメリア。

 そっか。攻略対象っぽいあいつらはアメリアを誘ってないのか。というか意地悪された以外に接点なさそうだもんな。

 ただでさえ平民のアメリアは目立つのに強制参加のダンスパーティーでダンスをしないのは余計に悪目立ちしそうだよね。

 アメリアのパートナー……あ、そっか。いいこと思いついた。


 「ねぇ、アメリア。よかったら私と踊らない?」

 「え」

 「弟が習ってる時に私も一緒にやっててね。男性パートも踊れるんだ」

 「でも、フレイヤ様は」

 「殿下と一緒に行くんだって。だから私もパートナーがいなくて困ってるんだよ。ね? どうかな?」


 強引かなとも思いながらダメ押しをする。少しだけ困ったような顔でアメリアは考え込んでしまった。いくらパートナーが見つからないからってやっぱりちょっと無理があったかなと心配になる。でもアメリアにも初めてのダンスパーティーを楽しんでもらいたいし。

 

 少しの間沈黙を見守っているとアメリアがパッと顔を上げた。そのままの勢いで私のほうへと詰め寄ってくる。


 「ユーリさんがよければ! お願いします!」

 「ふふ、こちらこそよろしくね」

 

 なんだかアメリアの顔が赤いような気がするけど、そんなに嬉しかったのかな。少し興奮気味だね。初めてのダンスパーティーだもんね、楽しみにしてくれるなら私も嬉しい。

 

 なにはともあれ、私とアメリアのダンスのパートナーが決まった。万事解決だ。

 でもいつもと変わらない私のままで男装したらノアあたりに怒られそうだからちょっと変装は必要かな? 髪色を変えたら印象も変わるかもしれない。

 よし! 礼服とウィッグ、準備しないとな。



 

 

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