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閉じ込められイベント

 

 やっとフレイヤ様と仲直りできてルンルン気分で障害物競争に挑んだ。

 ハードルやら平均台やらが置かれたよくある障害物競争だった。そして圧勝だった。


 「あんたはほんと、相変わらずね」

 「ん? 何が?」

 「……機嫌が良さそうで何よりよ」

 「うん! やっと仲直りできたからね!」

 「そうね。フレイヤもさっきからそわそわしてるし、あんたたちふたりが離れてるのはなんだか違和感だったわ」


 ノアの言う通り、フレイヤ様も心無しか嬉しそうだ。


 「昼食は一緒に食べるんでしょう?」

 「うん、そのつもりにしてるよ。あ、アメリアも誘っていい?」

 「私は構わないわよ。フレイヤも今なら大丈夫なんじゃない?」


 ノアの許可ももらったので、アメリアを探しに運動場の中を歩く。

 きょろきょろしていると王子とイーサンさんに会った。

 

 「あ、殿下」

 「ユーリか。どうしたんだ、こんなところで」

 「アメリアを探してまして」

 「あぁ、デイジー嬢か。さっき用具置き場のほうで見かけたぞ」

 「わかりました、ありがとうございます」


 ぺこり、と頭を下げて王子たちから離れる。すれ違う瞬間、イーサンさんがにやっと笑ったような気がした。

 

 王子に聞いた用具置き場は運動場から校舎のほうへと歩き、さらに壁沿いに少し行ったところにあった。人気の少ないところにある掘っ立て小屋といった具合だ。


 「アメリアー」


 声をかけながら周囲を見回すが返事はない。

 小屋の中に入っちゃったのかな? こんなところに何の用だろう。

 とりあえず小屋の中に入ってみる。簡単な作りだが頑丈そうだ。レンガでできてるし、そう簡単には壊れないだろう。あまり使用されていないのか薄暗くて埃っぽい。


 「アメリアー?」


 ガチャン


 「ガチャン?」


 なんだか不吉な音がしたので振り向くと開いていた扉が閉まっていた。グッと押したり引いたりしてみるけど、びくともしない。


 「……これは、閉じ込められたというやつでは?」

 

 ふむ。何か恨みを買うようなことをしたらやられるやつだよね、これ。

 とりあえず部屋の中を見てみて、どうにか脱出方法でも考えますか。

 

 明り取りの窓はあるので真っ暗ではないけど、部屋の中は薄暗くて足元が見えない。灯りの類いもないようだ。

 すり足の要領で足を進め、つま先で障害物を確認する。箱っぽいものが多い。用具置き場だって言ってたし、いらんモノ置きなんだろうな。


 そろりそろりと進んで行き明り取りの窓の下までたどり着いた。


 「うーん、あそこから出るにはちょっと狭いかなぁ」


 仕方ない。扉ぶち破るか。

 そろそろと入ってきたほうへと戻ろうとして、何かが聞こえた気がして立ち止まる。


 「……?」


 誰かの声がしたような?

 扉方向に向かっていた足を何かが聞こえた方向へと切り替える。そろそろと進んでいくと、箱以外の何かにぶつかった。


 「んー? ライト」


 指先に小さな火を灯す。一応引火はしないように淀んでいた室内の空気は風魔法で混ぜたから大丈夫だろう。

 ふわり、と辺りが明るくなり、その先に見えたのは縄で拘束されたアメリアだった。ご丁寧に猿轡もされている。


 「アメリア!」


 慌ててアメリアに近寄り身体の拘束を解いていった。なんでこういう縄って解きにくいのかな。切っちゃえ。

 風魔法をナイフのように使い、ぶちぶちと縄を断ち切り、猿轡を外す。


 「大丈夫? どうしてこんなところに……」

 「わ、わかりません。急に、何人かの男の人に拘束されて、ここに……」


 震えている。男数人に囲まれて抵抗もできないままこんなところに押し込められたんだ。当然だ。

 私はアメリアの身体をそっと抱き寄せ、背中を撫でた。


 「もう大丈夫だから」


 ゆっくりゆっくり何度も背中を撫でているとだんだんと落ち着いてきたのか、アメリアの震えが止まった。


 「ありがとう、ございます。もう大丈夫です」

 「うん。無理しないでね。怪我はない?」

 「はい。大丈夫です」

 「じゃあここから出ようか。犯人も探さないといけないし、何よりご飯に誘おうと思ってアメリアのことを探してたんだよ」


 ぽん、とアメリアの頭に手をやり、私は立ち上がって扉へと向かった。

 か弱い女の子を数人の男が怖がらせるようなことをするなんて許せないな。これはお仕置きが必要だよね。


 身体に魔力を纏い、拳に集めていく。私は今、ちょっと怒ってる。

 右の拳を扉に向けて放つと暴風とともに鉄の扉が吹っ飛んだ。よし。開いた。

 

 「アメリア。とりあえずノアのところに行こう」


 彼女の手を取り、外に出た。



 

 「ふん、逃げずにちゃんと来たようだな」


 剣舞に出場する選手たちの集合場所でイーサンさんに声をかけられた。

 

 「なぜ逃げると?」

 「アルから聞いた。平民に肩入れする下級貴族だろ、お前。殿下に気に入られているからって調子に乗りやがって」

 「……」

 

 だからこの世界の攻略対象(推定)はどうしてこうも悪役ムーブをするんだ。

 しかも私に対しての恨みつらみがある感じなのがどうにも解せないんだけど。


 ああ、でもこれで分かった。

 アメリアを閉じ込めたのはこいつとメガネだ。

 ふつふつと沸き上がる感情とは裏腹ににっこりと笑う。心なしか相手の表情が固まった気がする。

 

 「調子に乗っているかどうかは剣舞が終わってからご判断いただければと」


 そう言い残して私は先に剣舞用のステージへと向かった。



 四方を観客に囲まれたステージ。いつだかの剣術大会を思い出す。

 その中心に立ち、ふぅっと息を吐き出した。


 あいつらはムカつくけど、今は冷静にならないと。腰にある剣に触れると頭が冴えてくる。

 

 開始の合図を受け、剣を抜く。

 ピッと風を切る音。

 手の先にある剣までが自分の一部のような感覚。


 ひとつひとつの型を鋭く、時に柔らかく、剣に導かれるように足を進める。

 あぁ、やっぱり剣は好きだ。

 

 たん、とん、シュッ、と音が響く。それ以外には何もない。


 最後の型だ。もう終わってしまうという名残惜しさもある。

 全力で振り抜き、ピタリと動きを止めた。たっぷり5秒はそのままに、スッと剣を天に掲げるように持つ。


 会場が割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。

 びっくりしたぁ。集中しすぎてほとんど音が聞こえてなかったから急すぎて鼓膜破れるかと思った。

 

 観客席にフレイヤ様とアメリア、ノアを見つけた。

 3人ともぽかんとした顔をしてるな。ふふ、なんかかわいい。


 笑いながら手を振り、私はステージから降りた。



 ◇   ◇   ◇   ◇



 「ユーリは剣の才能だけはあるわよね。剣の才能だけは」

 「なんか棘のある言い方だね」

 「一週間しか練習してないのにあのイーサン・ゼラニウムを負かして剣舞優勝するなんてあんたくらいしかできないわよ」

 「そっかなぁ」


 すべての競技を終え、無事に運動大会は閉会した。

 私達は寮の食堂にいた。ちょっとした打ち上げをしているところだ。我らが紅組が勝ちましたので。

 

 「それにしてもアメリアが無事でよかったわよ」

 「ご心配かけてすみません」

 「こういうときは謝るんじゃなくて、ありがとうがいいなぁ」

 「……はい、ありがとうございます」

 

 うんうん、犯人たちはきつーくお仕置きしといたからあいつらに関してはもう安心だね。他にも悪いことを考えるやつもいるかもしれないから、警戒は必要かもだけど。


 「ベロニカ様も、ありがとうございました」

 「……私は何もしてないわ」

 「フレイヤが殿下に話を通してくれたんでしょ? 何もしてないことないじゃない」

 「……」

 「あの、ベロニカ様……」

 「……フレイヤ」

 「え?」

 「フレイヤでいいわ。ノアもユーリも名前で呼んでいるじゃない。私もアメリアさんと呼ばせてもらいます」

 「! はい! フレイヤ様!」


 おお、雨降って地固まるってやつかな?

 フレイヤ様とアメリアの仲良し大作戦が少しだけ実を結んだ気がする! 私何もしてないけど!

 

 

 

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