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仲直りの借り物競走


 剣舞とは。

 王子が言っていたように「剣の型」を魅せる競技である。

 前世で言うところの空手みたいなところかな? というのが私の感想。

 型自体はそんなに数もないし、舞踏に通ずるところもあるから本当に一週間で覚えられた。これでも令嬢ですので。ダンスはできるんです。


 そして運動大会当日。

 本当に体育祭だった。


 この世界、変なところで前世日本の風習みたいなものがあってね。実力テストやスタンプラリーしかり。まぁ元々日本産の乙女ゲームの世界だからそうなのかなーって納得はしてたんだけどさ。競技のラインナップに日本産のものと異世界感(というか貴族感?)のあるものが混じってて違和感が半端ない。

 リアル馬を使ってる騎馬戦に玉入れや大縄跳び。この辺は日本っぽいのかな。でも玉とか大縄は無駄に豪華な生地を使ってたりする。これ投げたり跨いだりしていいのかなって不安になるのは私の感覚が庶民的なのかな……。

 一応ダンスなんていう種目もあるし、待機している間は優雅にお茶を飲んでる生徒も多いから『体育祭』として見るとちょっと脳がバグりそうにもなる。

 

 前世よろしく赤と白の2組に分かれた生徒たちのそれぞれの島には大きく横断幕が掲げられている。豪奢なそれにはそれぞれのテーマが描かれている。この辺は貴族力をふんだんに使っている感じがする。お金かかってる。

 女子はリボン、男子は腕章をつけている。もちろん、それぞれの色のもの。こういうところは体育祭っぽいよね。

 でも服装はみんな制服のままだ。そもそもそんなに激しく動く競技がないからそのままでもいいでしょってことかな。

 ちなみに女子のリボンはどこかしらにつけていればいいらしい。だいたいの女生徒は髪を結ぶのに使ってる。私は紅組なので赤いリボンをいつも髪を結っているリボンの代わりにつけている。


 隣にいるアメリアもハーフアップにした髪をリボンで結んでいる。


 「ユーリさんは次、何に出るんですか?」

 「えっとね。障害物競争……だね」


 体育祭だからね。あるよね。

 

 「アメリアは借り物競走だっけ?」

 「はい。私、足が遅いのであまり速く走る競技は出られませんので」

 「ソウダネ」


 ちらり、とアメリアの胸を見てしまう。多分、それのせいだよね。なんていうか……重たそうだし。

 言っている本人は足が遅いことを気にしているのかちょっとしょんぼりしている。


 「そういえば、ベロニカ様も借り物競争に出られるってノア様がおっしゃってましたよ」

 「あぁ、うん……」

 「……まだ仲直りされてないんですか?」

 「うん……」

 

 そう。フレイヤ様のご機嫌はまだ治ってない。

 彼女と関わりを持つようになって5年以上。初めてのことだ。ここまで避けられるとさすがの私でも凹む。


 「何かきっかけがあるといいんですが……」

 「私もそう思ってるんだけどね。会わないようにされているみたいで全くと言っていいほどチャンスがないんだよねぇ」

 「そ、そんなにですか」

 「フレイヤ様、完璧主義だからね。私の行動はお見通しなんだと思う」

 「……それは違うんじゃ」


 あ、集合の鐘が鳴った。


 「アメリア、そろそろ行かないといけないんじゃないの?」

 「え、あ、そうですね! 行ってきます!」


 スタート地点へと走っていくアメリアの背中に手を振りながら、私はひとりぼんやりと空を見上げた。



 「ユーリ!」


 木にもたれて空を見ながらぼんやりしていたらついうとうとしていたらしい。肩を揺さぶられて意識が戻る。

 目を開けるとフレイヤ様がいた。


 「フレイヤ、様?」

 「……ちょっと来なさい」


 まだぼんやりする頭のままフレイヤ様に手を引かれる。何がなんだかわからないけど、フレイヤ様が口をきいてくれた。

 

 あぁ、フレイヤ様だ。

 もしかして夢だったりしないよね?

 

 ぎゅっと手を握るとフレイヤ様の肩がビクッと跳ねた。

 こちらは向いてくれないけれど、声は聞こえてくる。


 「……何?」

 「ふふふ、久しぶりのフレイヤ様だなぁって思って」

 「何、言ってるのよ」


 そのまま黙ってしまった。

 

 ぐいぐい引かれて係の人がいるところまでたどり着いた。


 「借り物の紙を拝見しても?」

 「えぇ」


 フレイヤ様が持っていた紙を差し出す。借り物が書いてあるやつだね。

 そういえば何て書いてあったんだろう。


 「……これでよろしいのですか?」

 「いいです」

 「わかりました。では、こちらへ」


 係の人に連れられて、順位が書いてある旗のほうへと案内された。

 ご丁寧に椅子まで用意されている。フレイヤ様に座ってもらい、私はその横に立った。


 「あの、フレイヤ様?」

 「……何」

 「フレイヤ様の借り物ってなんだったんですか?」

 「……なひと」

 「……人?」

 「……っ、か、変わってる人っ!」


 あー、それは私のことだね。

 無事フレイヤ様が借り物できてよかった。

 

 ほっと一息ついていたところで服の裾を引っ張られた。

 

 「? どうなさいました?」

 「……ごめんなさい」


 ぽつり、とフレイヤ様が呟くように言った。聞こえるか聞こえないかギリギリくらいの声量だ。でも私にはちゃんと聞こえる。伊達にフレイヤ様と付き合っていない。

 

 「……やりすぎました。その、大人気なかったと、反省もしています。リタにもノアにも怒られたし」

 「……」

 「少し、デイジーさんが羨ましくて……ユーリはいつも、彼女のことを気にするから」

 「……」

 「私、だって」


 どんどんフレイヤ様の声が尻すぼみになっていく。

 相変わらず私のほうは見ようとしないし。これはちょっとくらい怒ってもいいんだろうか。

 

 私はスッと膝を折り、フレイヤ様の足元に跪くような格好を取った。座っている彼女を下から覗き込む。

 久しぶりに見るフレイヤ様の顔。

 そっと手を伸ばし頬に触れる。彼女の身体がぴくりと跳ね、私の手から逃れそうになるのを手で抑える。


 「ちゃんと、顔を見せてください」


 私の言葉に少しだけ困ったように眉を下げているフレイヤ様。

 あぁ、やっぱりキレイだな。絹糸のような金髪も白く透き通る肌も、宝石みたいな蒼い瞳も。


 「フレイヤ様、ちょっと目を瞑ってもらえますか?」

 「え……」

 「ね、お願いします」


 渋々といった様子でフレイヤ様が目を瞑ったところで、私は懐から取り出した箱を開け、フレイヤ様の首元にそっとそれをつけた。


 「はい、できました」

 「……」

 「この前街に行った時に見つけて、フレイヤ様にとても似合いそうだったので。日頃の感謝を込めて、あと私からの謝罪ということで受け取っていただけますか?」


 フレイヤ様の手が首元に収まったネックレスに触れた。指で形をなぞり、ペンダントトップを見つめるフレイヤ様を見てやっぱりフレイヤ様にピッタリだと思った。

 どこかで渡せればいいなと思って持ってきててよかった。

 

 いつまでもペンダントを触っているフレイヤ様がどこか子どものように見えて笑いが漏れる。

 

 「仲直り、ですね」

 「……えぇ」



 

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