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たぶん攻略対象その2


 スタンプラリーから数日。

 ケルベロスがあの場にいた原因は未だ解明されていない。

 

 あの後駆けつけたノアや教員たちにスパッと首を落とされたケルベロスと私を何度見もされた。そしてアレを倒すのに氷の剣を使ったって言ったらドン引きされた。普通は硬すぎて切れないんだって。

 まぁフレイヤ様の剣は強度もあったし、それに私の魔力も混ぜ込んでたからねぇ。切れ味が増すかな、と思って。結果、魔法耐性を上回って刃が通った。

 幸い、スタンプラリー中に襲われて怪我をした生徒もいなくて、記録自体はうやむやになってしまったけど成績には加味してくれるらしい。

 全くのゼロにならなくてよかった。


 

 「さすがフレイヤ様ですね。学年1位、おめでとうございます」

 「当然です」


 私とフレイヤ様は廊下に張り出された順位表を見上げていた。なんやかんやあったスタンプラリーの分も加味された実力テストの結果発表が今日からだったからふたりで見に来たんだけど、フレイヤ様は堂々の1位。さすがだね公爵令嬢。

 ちなみにノアが2位でアメリアは3位。すごいね特待生。

 私? 私はいいんだ。勉強より剣術だよ。国一番の騎士様が目標(仮)だからね!


 「ユーリはもっと頑張りなさい」


 とお小言はもらいました。おっしゃる通り過ぎてあははーっと空笑いで誤魔化していたら、何やら向こうのほうが騒がしくなってきた。

 

 「何かあったんでしょうか」

 「……放っておきなさい。行きますよ」


 気になってちょっとだけ首を伸ばしかけてたんだけど、フレイヤ様がそう言うなら野次馬するわけにもいかないな。

 さっさと踵を返したフレイヤ様を追いかけようと私も身体を反転させたところで一際大きな声が聞こえてきた。


 「平民のくせに3位などと! 何か不正をしたんだろう!」


 ……これは、去ったらあかんやつでは? あの子が巻き込まれてるなら無視するわけにもいかないなぁ。

 私はピタリと動きを止めて、騒ぎのほうに改めて身体の向きを向け直す。


 「フレイヤ様、少し様子を見てきます」

 「……好きになさい」


 フレイヤ様の許可も得たし、人だかりの中に突っ込んでいく。人混みをかき分けたどり着いたその中心には予想通りアメリアと……誰?

 なんか偉そうな感じのメガネをかけた青髪の男子生徒が困惑した様子のアメリアに詰め寄っていた。とりあえず見覚えのないメガネは置いておいてアメリアだ。


 「アメリア」

 「ユ、ユーリさん」


 完全に怯えきっているアメリアが私を見つけて少しホッとしたような顔をした。ふたりの間に割り込むような位置でアメリアを庇って立つとメガネの青年がキッと睨みつけてきた。その視線をいなしながら、さらに一歩前に出る。


 「彼女に何か?」

 「なんですか、貴方は」

 「ユーリ・サルビアです」

 「サルビア……あぁ、子爵家ですか。ベロニカ嬢の()()()()()だったか。貴方には関係ないでしょう、首を突っ込まないでいただきたい」

 「そういうわけにはいきません。彼女の友人として見過ごせませんので。何かあるのでしたら私も聞きます」

 「……チッ、平民に肩入れする下級貴族め」


 急に口が悪くなったな。

 それにしても嫌らしい笑い方をする。人を馬鹿にしたような目線も、口角を片方だけ上げている様も、こちらを下に見ていることを隠しもしない。フレイヤ様のお気に入りってのはよくわかんないけど、なんかコイツめんどくさそうだ。アメリアもいるしとりあえずこの場から離れよう。


 「彼女と約束がありますので、急ぎの用でないのなら連れて行きたいのですが」

 「それはだめです。私の用件が終わっていない」

 「用件とは?」

 「貴方には関係ない」

 「……めんどくさ」

 「は?」


 やっぱりめんどくさい。どうあっても私が関わらないようにしようと思ってるみたいだ。

 うーん。もうアメリアを抱えて逃げちゃおうかな。

 

 「なんだ、何の騒ぎだ」


 アメリアを抱きかかえるために腕をひこうとしたところで聞き覚えのある声と共に輪の外のざわめきが私達がいる中心へと移動してくる。徐々に割れていく人だかりの向こうから現れたのはテオ王子だった。

 

 「殿下」

 「ユーリとアルか。どうしたんだ、こんなところで」

 「……」


 なんだ、黙るのか。トップオブトップの権力者が来たのに。

 アルと呼ばれたネチネチメガネは黙り込むし平民であるアメリアから王子に言いつけるようなこともできない。ちょうどいいタイミングだし、さっさとこの場から離れちゃおう。


 「私の友人に彼が何やら用があったそうなのですが……もう終わったみたいですね」

 「……えぇ、お手数をおかけしました」

 「では、殿下。失礼いたします」

 

 ふたりに対してにっこり笑い、アメリアの手を取って歩き出す。後ろから舌打ちが聞こえた気がしたけど、気にしないことにした。




 フレイヤ様の元に一度戻り、そのまま3人連れだって中庭へと向かう。幸いにも中庭には誰もいなかった。

 

 「ここまで来れば大丈夫かな」

 「あ、あの、ユーリさん……」

 「ん? どうしたの?」

 「あの、手……」


 あぁ、手繋いだままだったね。

 パッと左手を離す。


 「ごめん、ごめん。アメリア、大丈夫?」

 「はい、突然のことで驚いてしまって……助けてくださりありがとうございました」

 「うん、気にしないで。それよりあの人なんだったんだろうね」

 「あの方はアルフィー・ヒイラギ伯爵子息。現宰相のご子息ですわ」

 「あぁ、それで殿下が親しげに話しかけてらしたんですね」

 「……はぁ。ユーリ、あなたも貴族でしょう? 貴族間の関係や代表的な家、派閥などは幼少期から必須教育のはずよ」

 「あはは……」


 笑って誤魔化してみたけど、誤魔化せてないね。これは。

 じとっとした目で見られてるや。


 ……ん? というか宰相の息子?


 私はちらりとアメリアを見た。

 第一王子、宰相の息子、騎士団長の息子。

 ここらへんってテンプレ的には攻略対象なんじゃないのかな。つまり、さっきのは出会いイベント的なやつだったのでは?


 「……アメリアはああいう人が好きだったりなんてことは」

 「ないです! ないです!! 初対面ですし!」

 「そっかぁ」


 意地悪な感じだったもんね。あ、でも初めは最悪な印象だったのにだんだんと好意を抱く……なんて展開もあるのか。うーん、でもあの感じはなぁ。後から好意的になられてもスッキリしないよね。

 

 「アメリア、また何かあったら私に言って。いつでも力になるよ」

 「はい、ありがとうございます」

 

 アメリアは笑ってくれたけどやっぱりちょっと不安そうだ。少しでも不安がなくなればいいなと思い私は彼女の頭を撫でた。

 

 「ユ、ユーリさん?」

 「元気ないなぁと思って」

 「そんなこと、ない、ですよ?」

 「うん」


 なでなで。アメリアの髪はふわふわしてて気持ちいいなぁ。

 

 それにしてもあのメガネだ。ああいう、みんなが見てるところでいちゃもんつけて平民を見下したような態度を取るのって悪役令嬢がやることっぽい気もするんだけどな。ほら、成績が平民のほうがいいことに対してズルしたんじゃないかーって言って手を出したところに王子様登場、みたいな。

 

 私はちらっとフレイヤ様を見た。何かを考えているのか、眉間にしわが寄ってる。

 

 今のところフレイヤ様が暫定主人公(アメリア)に対して意地悪をしているということはない。

 学園ではほとんど私と一緒にいるし、むしろ極力関わらないようにしている気がする。スタンプラリーの時も距離があったし。

 ……フレイヤ様とアメリアが仲良くなったらそもそも断罪とか破滅とかってなくなるのかな? 代わりに誰かが悪役やるのかな?

 ストーリーを知らない私にはこの先の展開は全くわからないけど、ふたりが仲良くなったらもうストーリーとか関係なくなるんじゃないだろうか。フレイヤ様の破滅を阻止したい私にとってはいいことなのかもしれない。


 とにかくふたりがまず仲良くなってくれないことにはどうにもならないよなぁ。

 ノアに相談してみようかな?



 

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