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お茶会とちょっと不器用な彼女

 うららかな春の陽射しの中、皆様どうお過ごしでしょうか。

 私は今、王城の中庭でご令嬢たちに囲まれています。


 「ユーリ様、こちらのお菓子もとても美味しいですわ」

 「ユーリ様、お茶のお代わりはいかがですか?」

 「ユーリ様! 今度ぜひ、我が家でお茶会を……」


 『剣好きの変わり者令嬢』よりも、『剣術大会優勝者の見た目令息』は需要があったらしい。中の人は一緒なんですけどね。印象って大事。

 さっきからご令嬢方々が後を断ちません。いつもだったら遠巻きにされるだけなのに。

 これは少し経験があるぞ。バレンタインデーの後輩女子たちだ。

 何故かクラスのイケメン男子以上にチョコレートもらった中学3年の時を思い出して、思わず遠い目になる。


 かわいい子たちにちやほやされるのも悪くないけど、こうもグイグイ来られると少し引く。

 というか、彼女らは私が女だって分かってるのかな。分かってなさそうだな。他のご令息方が暇してるぞ。

 

 「あ、あの、私は……」

 「ユーリ様の剣を振るう姿はとても美しかったですわ! まるで舞踏のようで……私もあんなふうにユーリ様と踊りたいですわ」

 「ユーリ様とお揃いのドレスで踊るのもいいですわよね」

 「ユーリ様の髪色でしたら何色がいいかしら」


 あ、女だって分かっててコレですか。ソウデスカ。

 女子校の王子様的な扱いなのかな。


 「えぇっと……すみません、少し席を外します」


 返事を待たずにダッシュでその場を離れる。

 後ろから幾重にも声が聞こえたけど聞こえなかったことにして。



 「婚活パーティーじゃなかったっけ」


 会場になっていた中庭から少し距離を取り、ついでにトイレに寄ってから私は王城内の廊下をとぼとぼ歩いていた。

 さっきのご令嬢方々に体力吸われた感じ。獲物を狙う肉食獣みがあったからね。本格的に私を狙ってたんだろうか……少し休んでから戻ろう。うん。決して身の危険を感じて逃げてるわけじゃない。


 さすがに王城で徘徊はできないから、入っても問題にならない場所をスタッフさんに聞いて私は会場から離れた庭園に来た。

 カップリングが成立したらふたりで過ごせるようにいくつかメイン会場以外の場所を用意しているらしい。マジで婚活パーティーっぽいな。行ったことないけど。


 柔らかい日差しと自然の香りを感じながらゆっくり歩く。いい天気だなぁ。


 「……ん?」


 何やら叫び声のようなものが聞こえたような?


 気になって、声が聞こえたほうへと向かった。

 木々を抜け、少し開けたところで、何人かが小さく輪になっているのが見えた。何してるんだろう?

 不穏な空気を感じつつ、いきなり出て行って流れ弾を受けるつもりもないし、私はこっそりと身を潜めながら彼らの元へと近づいた。

 しっかりと顔がわかるくらいの距離まで行くと話している内容が聞こえてきた。


 「なんでお前なんかがこんなところにいるんだよ!」

 「そうだ! 魔法も使えない劣等貴族のくせに!」


 あー、イジメですね。これ。

 寄って集って、1人を囲んでこれって。どこの世界でもこういうことはあるんだなぁ。


 真ん中で頭を抱えて涙目になっているのは、見覚えのある令息。確か男爵家の子だったような?

 貴族位と魔力は比例することが多い。

 そもそも、高位貴族は魔力の高い者同士で婚姻関係を結んでいることが多いから、その傾向が強い。

 別に魔法が使えなくても貴族だし、魔法が使えても平民だ。魔力に貴賤はないのがこの国。


 なんだけど。


 貴族=魔力あり、という選民思想を持つ者も少なくない。特に古い家はそういうの強いよねぇ。プライド的なものかねぇ。


 それはさておき。

 この状況をどうしようかなと考え込んでいる間に、状況が動いた。


 「サッサと出ていけ! この劣等種!」


 囲んでいたうちの1人が拳を振り上げて今まさに殴り掛かろうとしている。

 咄嗟に潜んでいた物陰から飛び出そうになったところで、ぱしりと乾いた音が響いた。


 「! フ、フレイヤ様……」

 「何の騒ぎですの、これは」


 振り上げた腕をフレイヤ嬢が後ろから掴んでいた。周りの子たちも突然の公爵令嬢の登場にお口あんぐりだ。

 いち早く混乱から復活した一人が叫ぶように言った。


 「わ、我々はただ、魔法も使えない貴族の端くれに身のわきまえ方を教えていただけで……」

 「数人で一人を囲み、弱者に暴力を振るうのが貴族である、と」

 「い、いえ、そういうわけでは」

 「では、どういうわけで?」


 凍てつくような視線に、唯一声を上げた少年も黙り込んだ。


 「上に立つ者が負うべき責任も負わず、虐げるために権力を傘に着るのならば、それは貴族ではありません。あなた方に貴族を語る資格もない。目障りです。私の前から消えてください」


 トドメの一撃。

 フレイヤ嬢の言葉にぐうの音も出ない令息たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去って行った。


 残されたのは、いじめられっ子男爵子息とフレイヤ嬢だけだ。

 あと中途半端に飛び出た私。


 ちらり、とフレイヤ嬢が男爵子息に視線を投げる。


 「あ、あの、フレイヤ様……」

 「あなたも貴族ならば毅然とした態度をなさい。劣る部分があるのならば、それ以外に為すべきことがあるでしょう?」

 「は、はい」


 フレイヤ嬢がハンカチを差し出した。


 「さっさと立ち上がりなさい。これは返さなくていいです」

 「ありがとう、ございます……!」


 男爵子息はフレイヤ嬢のハンカチを受け取り、ひょこひょこと走って行った。足を痛めてたようだ。

 最後の一人となったフレイヤ嬢は去って行った彼の背中を見つめ、ほっと息をついていた。


 うん。なんだろうね、この子は。

 物言いは冷淡だけど、言っていることに理不尽さは感じない。ワガママというわけでもない。


 「……いつまでそこにいるつもりですの」


 バレてた。

 それもそうか。半分出てたし。


 私は物陰から完全に抜け出して、彼女に近づいて行き、礼をとった。


 「……サルビア家の、ユーリさん、でしたか」

 「えぇ。お久しぶりです。フレイヤ様」

 「久しぶりでもないでしょう。少し前にお茶会で見かけましたわ」

 「あ、気づかれてましたか」

 「あなたみたいな変わり者、気づかないほうが難しいでしょう?」

 

 じろり、と視線を向けられて私は苦笑した。

 一応最低限のお茶会出席はしてるけど、年に数回のそれでも変わり者の子爵令嬢は目立つみたいだ。


 「それで。どうしてここに?」

 「……少々道に迷いまして」

 「嘘ね」

 「おや、どうして嘘と?」

 「令嬢たちに囲まれていたのも、そこから立ち去ったのも見ていましたもの。その後使用人に聞いてこちらに来たのでしょう?」

 「全部見てらしたんですね」

 「……」


 なんだろう、この間は。

 なんでか、ちょっともじもじしてるし。

 というか、フレイヤ嬢は完全に私の行動ありきでここに来てるじゃん。何しに来たの?はこっちの台詞だったじゃん。


 「フレイヤ様?」

 「……謝罪、しますわ」

 「謝罪?」


 何を?と私は首を傾げる。


 「私の誕生日パーティーで、あなたに言ったこと……を」

 「……」

 「あなたのお父様にも、その……言いすぎました」


 んん? 4年も前のことを謝りたかったと?

 そのために私のあとをつけてきたっていうこと?


 そっか、やっぱりこの子は……そう思うと、笑いがこみ上げてきた。

 

 「……ふっ、あはははは!」


 急に笑い出した私に、フレイヤ嬢はぎょっとした顔をする。その様がまたおかしくて、私の笑いは止まらない。

 ひとしきり笑ったところで、私はすっかり置いてけぼりをくらった様子のフレイヤ嬢に手を差し出した。


 「フレイヤ様の謝罪、お受けいたします。仲直りの握手、しましょう」

 「仲直りって、あなた……」


 ね?っとにっこり笑ってさらに手を近づけると、呆れたようにフレイヤ嬢も笑ってくれた。そして私の手を握る。


 「改めまして、フレイヤ様。ユーリ・サルビアです。よろしくお願いします」

 「……変わり者ね、あなたは」

 「よく言われます」


 どうやら私はこの子が気に入ってしまったらしい。

 不器用で実直な彼女が破滅の道を行くのならば、その道を断たせてもらおう。


 私の今世の第二目標。

 悪役令嬢を破滅させない。

 


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