いま流行りの
初投稿です。
真っ白な空間。
誰もいない。
輪郭がぼんやりとした身体の感覚。
ふと聞こえてくる誰かの声。
導かれ、覚醒したらその先は……
ということもなく、ぼんやりと空を見ていてなんとなく「あー、都会よりも田舎のおばあちゃんちの空に似てるなぁ」と思ったのが第一印象でした。
どうやら私、杉咲結梨は転生したらしい。
らしい、というのは私の家がもうなんていうか……知ってるのと違うから。
ウチは一般的サラリーマン家庭で、家もよくある建売一軒家。それが中世ヨーロッパ感溢れるお屋敷になっていれば誰でも思うよねぇ。
これ、あれだな。よく見るやつだ、って。
流行ってるやつだよねぇ。
何より、今私の目の前にあるものですよ。
小さい紅葉。幼児サイズのおててです。
私の記憶が正しければ、私は17歳の高校生だった、はず。黒髪黒目、ボブヘアの身長ギリ160cm。どこにでもいるような一般的高校生だった、はず。
ここらへんの記憶が曖昧なのは記憶の混濁なのかな。まぁなんとなーく物心がついたあたりからなんとなーくこの世界にも自分自身にも違和感があったけど、さっきまで前世を思い出してなかったからな。4年もすれば忘れるよね。しょうがない。
というか転生?したっていうことは前世の私?は死んだのかな。全然覚えてないや。しょうがない。
ともかく私は今、幼女です。
「お嬢様、どうなさいました」
しかもお手伝いさんがいるおうちのお嬢様でした。
これはあれか。メイドさんってやつか。
ケチャップで絵を描いてくれるタイプのメイドさんじゃないな。クラシカルメイド?っていうのかな。色はシンプルな白と黒でまとまってるし、スカートも長いし、肌の露出なんかも少ない。頭の上にひらひらがついたカチューシャ?みたいなのが乗っかっている。ヨーロッパのお屋敷にいそうな感じ。
お庭を散歩中に前世を思い出したもので、急に立ち止まってぼーっとしてる私を心配してメイドさんが声をかけてくれていた。
「だいじょうぶ、です」
「……そうですか。何かありましたらお申し付けください」
そう言ってメイドさんはスッと後ろに下がった。
おぉ、なんかそれっぽい。プロっぽい。
それにしても今私がいるこのお庭。
改めて周りを見てみるけど、とても広い。そして色とりどりのお花まで植わっていて、手入れも行き届いている。芝生はきれいに刈られているし、落ち葉ひとつ落ちていない。
『今の私』として育ってきた4年分の記憶でも、ウチってなんかお金持ちそうっていう思うことがたくさんあったけど、このお庭の感じはアレですね。お金持ちそうっていうより、お金持ちでしょうね。
とにかく、前世の記憶なんていうものがひょっこり表面に出てきてしまって頭の中がこんがらがっている。難しいことを考えるのって苦手なんだよ。
でもそうは言っていられないか。まずは情報収集と、記憶の整理が必要だろう。
私は後ろに控えたメイドさんを呼んで、部屋に戻ることにした。
自室に案内……というか、連れてきてもらった。場所がわからないわけじゃなくて、この身体だと疲れやすいんだ。広いお庭から広いお屋敷に移動して、そこからまた長い廊下を歩いて移動は4歳児には酷でした。途中で疲れたから抱っこしてもらっちゃった。
そうして部屋に戻ってきて改めて現状把握を……と思い、まずは自分の容姿を確認しようと化粧台に近づいた。観音開きになっている扉を開けて、鏡の前に座る。
うーん、やっぱり幼女だな。
明るい茶色の髪。瞳の色は黒だけど光の加減で薄っすらと翠が入っているのがわかる。宝石みたいだ。
ぷくぷくのほっぺやぱっちりとした目。顔立ちはまだ幼すぎて『愛らしい』くらいの感想しか持てないけど、『今の私』の両親を思い出す限り整った造形をしているし、将来的には美人になりそうだな。
ふわふわとした髪は肩まで伸びていて、ピンクのリボンが耳の上あたりで両サイドにちょこんと結ばれている。
そしてドレス。これが問題なんですよ。
もうフリッフリのふわっふわ。物語のお姫様みたいなやつ。
いかにもって感じのドレスは着ているというよりは着せられている感もある。見た目が純日本人よりも欧米系になっているからまだマシなのかな。中身が純日本人の私にとっては違和感しかない。これでも元女子高生だからかわいい洋服は嫌いじゃないのよ。ただね。もうほんとフリフリふわふわなのだよ。それが何が問題って、動きにくいんだ。
部屋まで戻ってくるのもそうだったけど、足元が見えないし、ドレスに可動域が制限されている感じがするし、動くたびに物理的にも視界的にもフリフリふわふわするし。歩くのすら億劫になるってどうなのよ。4歳児ってもっと走り回ってる年頃でしょ。幼児はデフォでダッシュ移動じゃん。従兄弟の幼稚園児は動き出したら止まらなかったよ。電池が切れるまで全力だったよ。
この世界の事情や私自身のこともまだまだわからないことだらけだけど、まずはこの動きにくいドレスをどうにかしたいな。
お父様にお願いしてみよう。