第六話 日常〜ショッピングモール〜
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僕はまず、彼女を洗脳から解くことに注力することにした。
洗脳――マインドコントロールともいう――はその支配者が自らに歯向かわれる事を防ぐために行われる。要はクソみたいな自尊心だ。ダサい事この上ない。
しかし、だからこそ、ただ洗脳を解くだけでは彼女に危険が及ぶ。
その支配者が自らに歯向かわれる事を防ぐために行われるそれは自尊心と言えども、時に異常なまでに人を暴力的にする。
なんとか押さえつけて従順にしたモノが、いきなり自分に襲いかかってきたら。
互いに命を取りかねないし、取られかねない。気を引き締めなければならない…のだが、、、
「……はしゃぎすぎじゃない」
「どうされました?」
本日は天竺さんご希望のショッピングモールにやってきた。
ちなみに彼女の血縁者の方には慈善活動と伝えさせた。社会の体裁を気にするアレなら許してくれるだろうし、何より“慈善“という少し上から目線にも感じられる単語はアレの自尊心を少しはくすぐるだろう。
バレない程度にはしゃいでいるつもりらしい彼女を諌めると僕は最終確認に移ることにした。
「ソレは落とさないでくださいね。なんなら私が持っていても良いんですが、」
「大丈夫です!いつも持っていますし、ほんの少し装飾がついたくらい、問題ないです!」
彼女は常にアレに盗聴器とGPSを付けられている。僕はソレに装飾という名のイタズラをした。
アレはソレに彼女が気づいてないと思っているらしい。アレ自身で彼女を教育熱心なご家庭に住まわせているというのに、詰めが甘い事である。
「次、はしゃぎ過ぎない」
「はい!」
「よく周りを観察すること」
「はい!」
「最後に私から離れないでください」
「了解いたしました!」
元気がいいのはよろしいことだが、やはり浮かれているらしい。――年相応で可愛らしいと思っているのは黙っておく。
今回の慈善活動の目的は彼女に外部の世界を知ってもらう事である。アリンコ程度でも目標への一歩となれば良いだろう。
それにしても、
「天竺さん?」
「……」
にこ、
「笑って誤魔化さないでください!」
「ふふふふ」
余程楽しみなのだろう。心ではなく体が躍っている。
しかし、その完璧すぎる笑顔が僕に通用すると思ったら大間違えだ。いつかのその笑顔が崩れる日を拝みたいものだ。良い意味で、
さて、そろそろ本日の目的の場所に移動するとしよう。
「取り敢えず、慈善活動をしに行きますよ。本物の」
「はい。確か、一階のエントランスですね。こちらです。」
嘘は事実を交えながらつくもの。これは基本中の基本だ。
彼女にそのつもりはないとは思うが、まさか彼女自身も自ら「ショッピングモールでお買い物をしました‼︎」なんて言わないだろう。
彼女に誘導されながらも汚いことを考えていると目的地に到着した。
「目が店に移りすぎて箱から金奪われない様にしてくださいね」
彼女は少々恥じらいながら今度は泳がせた。
今回の慈善活動は箱を持って突っ立っているだけでいい、募金活動だ。最低限声は発しなければならないがそんなに気負う内容ではない。これで彼女も一般的な家庭なるものをしかと観察出来る事だろう。
受付をし、広々としたエントランスの前の広場にある噴水周りに集まった参加者に紛れ、その他の参加者を観察する。
その中の一人、どこにでもありそうな白シャツに、どこにでもありそうな黒いジーパン、黒いスニーカー、黒い帽子、スポーツ用の黒いサングラスの男。それに目が止まった。
木を隠すなら森の中にというが、温帯の地域にある紅葉樹の森に寒冷帯にある針葉樹の木が生息することなどあり得ない。
知らなければ気づかない。そのくらいの違和感。しかし、知っていれば咀嚼し切っていない食べ物を無理やり飲み込むような違和感と苦しさを感じるだろう。
今日という日はついていないらしい。
その針葉樹なる人から目を離さない様にしながら、彼女の肘を突き警告をする。
彼女はミリ単位で顔を歪ませたが、瞬きのうちに学校でよく見るあの笑顔に戻った。
さて、今日の予定が完全い狂った。想定の範囲とはいえこれでは本来の目的を達成できるか危うい。どうしようかと考えているうちに時間になり、司会の声が会場に響く。
「皆さんおはようございます。本日はお集まりくださり、ありがとうございます。本日――」
もう一度、針葉樹を確認しようとしたがアレはもう立ち去っていた。
舌打ちをして会場の中心で喋る司会者に向き直った。
「それでは本日、現場責任者を勤める守田宗一さんです。よろしくお願いします。」
「こんにちは。本日現場責任者を勤める守田宗一です。気軽に守さんと呼んでください!」
名前を呼ばれ出てきたのは空気を和ませる雰囲気を纏いながらも、鍛え抜かれた腕はその前に屈するしかないと思わせるものだった。四十代に見えなくもないが、笑い皺の量から見て五十代前半。踵合わせにされた足、今にも敬礼が出来そうな背筋の伸び。細部まで見逃さないとする眼光の鋭さ。
思わず、笑みが溢れた。
ああ、今回の慈善活動は無駄ではなかった。予想以上、豊作だ。
思わず溢れた独り言は彼女に聞こえてしまっただろうか。
「これは使える」
と。