第六話 日常〜ショッピングモール〜
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僕はまず天竺葵白の洗脳を解くことに注力することにした。普通の家庭で育っていない僕がいうのもなんだが彼女には普通の家庭というものを知ってほしい。
洗脳——マインドコントロールともいう——は支配者が自らに歯向かわれる事を防ぐために行われる。要はクソみたいな自尊心だ。ダサい事この上ない。
しかし、だからこそ、ただ洗脳を解くだけでは彼女自身に危険が及ぶ。
それは自尊心と言えども、時に異常なまでに人を暴力的にする。
なんとか押さえつけて従順にしたモノが、いきなり自分に襲いかかってきたら……命に関わることだ、気を引き締めなければならない……のだが——
「……はしゃぎすぎじゃない」
「どうされました?」
今日は天竺葵白ご希望のショッピングモールにやってきた。
天竺葵白の父親と曽祖父達には慈善活動と伝えさせた。社会の体裁を気にするアレなら許してくれるだろうし、何より“慈善“という少し上から目線にも感じられる単語はアレの自尊心を少しはくすぐるだろう。
天竺家本家は逐一彼女について報告を求めてくる。父親もよく頑張っているものだ。
バレない程度にはしゃいでいるつもりらしい彼女を諌めると僕は最終確認に移ることにした。
「ソレは落とさないでくださいね。なんなら私が持っていても良いんですが、」
「大丈夫です!いつも持っていますし、ほんの少し装飾がついたくらい、問題ないです!」
彼女は常に盗聴器とGPSを付けられている。僕はソレに装飾という名のイタズラをした。
アレはソレに彼女が気づいてないと思っているらしい。全く、
「詰めが甘いんだよ、クズが」
あれだけの大企業を作っておきながらあの家にはバカしかいないのだろうか?それとも所詮は過去の栄光なのだろうか?
全く、面白すぎて口元がニヤけてしまうではないか。
「今クズって言いました?」
「誰ですか?そんな汚い言葉使っているのは」
「…………誰でしょうか?」
洗脳よりもこのクソ真面目なノリの悪い性格を先に直した方がいいかもしれない。垂れ下がる口角を右手の人差し指と親指でおさえる。
「…………はしゃぎ過ぎないでください」
「はい!」
「………意味、わかってますか?」
「はい!はい?」
言ってる側から初めて来たショッピングモールにはしゃぐ天竺葵白に本当に大丈夫だろうか?と心配になる。いや、なっている側から視線があちこちにと忙しなく動いている。いや、本当に大丈夫か!?犬の手綱を引いている気分だ。
「………聞いてます?」
「はあい!」
「…………よく、周りを観察すること」
「はい!」
引率の先生とはこんな気分だったのだろうか?
「………最後に、私から離れないでください」
「了解いたしました!」
今までの反動なのだろうか?これじゃあ初めてショッピングモールに来た五歳児だぞ?
今回の慈善活動の目的は天竺葵白に少しでも外部の世界を知ってもらい自身の異常さを自覚させることだ。そういう意味ではもう目的は達成されたのかもしれない。…………帰るか?
それにしても、
「天竺さん?」
「……」
にこ、
「……笑って誤魔化さないでください」
「ふふふふ」
余程楽しいのだろう。体がもう、なんていうか、踊っている。
しかし、その完璧すぎる笑顔が僕に通用すると思ったら大間違えだ。いつかのその笑顔を崩してやろうじゃないか。良い意味で、
さて、そろそろ本日の目的の場所に移動するとしよう。
「はあ〜、取り敢えず、慈善活動をしに行きますよ。本物の」
「はい。確か、一階のエントランスですね。こちらです。」
今日参加するのは6年前に発生した大地震への支援金を集める募金活動だ。
受付をし、指定された場所に移動する。
広々としたエントランスには噴水やちょっとした遊具などがあり、自分の膝くらいまでしかない子供がキャッキャと遊んでいた。子供は苦手だ。
その場から少し距離を取ると集まった参加者を見回した。全体的に高齢者が多いが子供連れの親子も何組か集まっていた。
その中の一人、どこにでもありそうな白シャツに、どこにでもありそうな黒いジーパン、黒いスニーカー、黒い帽子、スポーツ用の黒いサングラスの男。それに目が止まった。
変装下手か?
問題はないが一応天竺葵白に伝えるといつもの笑顔に戻った。
しばらくすると会場内でマイクの音声が鳴り響いた。どうやら今回のイベントの開会式が行われているようだ。
「——それでは本日、現場責任者を勤める守田宗一さんです。よろしくお願いします。」
「こんにちは。本日現場責任者を勤める守田宗一です。気軽に守さんと呼んでください!」
名前を呼ばれ出てきたのは柔らかい雰囲気を纏った男性だった。その体は、ちょっとでもぶつかったらこちらの体が折れてしまうのではないかと思うほど鍛えあげられていた。体四十代に見えなくもないが、笑い皺の量から見て五十代前半。踵合わせにされた足、綺麗に伸びた背筋。細部まで見逃さないとする眼光の鋭さ。
思わず、笑みが溢れた。ああ、今回の慈善活動は予想以上、豊作だ。
思わず溢れた独り言は彼女に聞こえてしまっただろうか。
「これは使える」
と。