第十七話 天竺家訪問1
「いらっしゃい、よく来たね」
「お邪魔します。あ、これ、ささやかですが」
「ああ、お気遣いありがとう」
「すみません、お邪魔しちゃって、両親がどうしても家に他人を入れたく無いらしくて、、、」
と、言うのは嘘だが、今僕は天竺家にお邪魔している。彼女は僕の滅茶苦茶な嘘に顔を歪ませているが、これこそ嘘も方便だ。致し方ない。
なぜ僕が彼女の家にお邪魔しているか、それは、あの二週間前に行った、会議の日まで遡る。
「では、これで以上です。何か報告し忘れたこと、気になったことなどはございますか?」
「いえ、問題ありません」
「守田さんは?」
「いやあ、僕もない」
と言うことで会議はお開きになった。
荷物をまとめ始めた僕の隣で彼女もまた、荷物の整理を始めた。
彼女を家まで送り届けてあげたいのは山々だが、彼女は今、独りでいる事になっている。それに僕だって暇なわけではない、用事の一つや二つくらいある。まあ、完全に僕個人の私用だが。
ちなみに守田はというと、昨夜急遽入った夜勤で寝不足らしくマッハのような勢いで帰って行った。
僕は荷物をまとめ上げると立ち上がり、彼女を見下ろした。
「私も予定があるので、これで失礼します。」
しかし、そのまま踵を返しその場を立ち去ろうとした僕の足は、彼女の一挙手によってそに場に止められた。
彼女を見ると今にも涙が浮き上がりそうな瞳をこちらに向け、上目遣いで僕の服の裾をちょこんと摘んでいる。
「あ、あの」
普段、僕よりも背の高い彼女が僕を見上げる事はないのでこの目線には慣れていない。更に、最近、段々と彼女を見る僕の目にバフがかかって来ている為余計に……くっ、心臓がッ。
しかし、こんなところで墓穴を掘るほど馬鹿ではない。外面では至って何事も無かったかのように装う。
「どうされ、ました、か?」
「いや、あの、その、」
赤面しながらもじもじする彼女が可愛すぎたって眉毛一つ動かしてやらない。いつもの完璧な笑顔で対応する。
「あの、こ、今度、べべべ勉強会、しませんか!!!!!」
ただ勉強会に誘うだけなのにこんなに照れていて大丈夫なのだろうか?心の中で顔を顰めながらも表面ではやはり完璧な笑顔を浮かべる。
「どうしていきなり勉強会なんですか?」
「あの、そ、それは、私が常にトップの成績を取ることを強いられているのは、ご存知、ですよね?」
「はい」
完璧を求める父親は、彼女に全てのテストでオール百点、とまでは行かないが、九十点以下、一位以外は認めない。
しかし、残念なことに彼女のそれを邪魔する存在がいる。それは、誰でもない僕だ。
自分で言うのもなんだが、僕は学校でトップクラス、入学してたったの一度も一位の座を退いた事はない、そんな成績だ。そして、その次が彼女だ。彼女もまた、入学して一度もその座を逃した事はない。
しかし、さらに問題なのが、彼女と一、二点差で競り合っている者が数名居るという事だ。このままでは彼女は順位を落としかねない。
ほとんどの者が定期テストで七十点取るのも難しい中、九十点以上のキープと学年の順位で一位を取ると言うのは、かなりの難関だ。
「その、先程数学が分からないのかと聞いてきましたよね。」
この会館のエントランスで会った時に彼女は某数学会社の教材を読んでいたが、珍しく読書速度が遅かったのでわからないことがあるのかと聞いた。
「実際、あの時は解決していましたが、今までは一つわからない問題があるとそれが分かるまで、教材や回答を読み漁っていました。しかし、それはかなり効率が悪くて、他の単元が疎かになってしまうこともあって、、、」
「なるほど、教えればいいと言うことですか?」
「はい、あ、でも、本当にわからないところだけで大丈夫です。そうやって自分で考え、解決するのも大事な勉強ですから」
「それなら大丈夫ですよ」
「わ、ありがとうございます!!!」
彼女は嬉しそうにガッツポーズを取っていた。そこまで喜ぶ内容か?とは思ったが、段々と顕になり始めた彼女の素の笑顔に僕も密かに心の中でガッツポーズをとった。
「場所は、またここで――」
いや、せっかくの機会だ。欲張るのは良くないが、もう一歩新たな進展が欲しい。
「私が、そちらのお宅に伺っても大丈夫ですか?せっかくの機会です。お父様にご挨拶もしないと、でしょ?」
ー
と言うことでやって来た天竺邸はザ・金持ちという造りだった。犬と駆け回れそうなくらいに広い庭には、何処かのお貴族様を想像させられる整えられた綺麗な庭園が広がっていた。
部屋の隅に置かれた写真とその横に生けられた向日葵、そしてそこから優しく漂うお香の匂い以外は立派な豪邸だった。
今回の設定は僕の成績があまりにも芳しくない事に不安を感じた両親が家庭教師を雇おうとしているが、僕が断固拒否したため期限を設けられた。それまでにどうにか成績を上げたいと言って彼女に縋った事になっている。
因みにだが、家庭教師は部屋に入れられるのに、彼女を部屋に入れられない理由は「赤の他人だからさらけ出せるものってあるじゃないですか?」という通じるか通じないかわからない滅茶苦茶な理由であった。が、なんか通ってしまった。
と、まあ、こんなわけで敵のアジトへの進入は成功した。
両親もまさか、微妙に腫れ物扱いしてしまったせいで我が子がスパイの真似事をしているとは思わないだろう。
こんばんは、お久しぶりです。
ここまでお読みいただきありがとうございます!!いかがでしたでしょうか?
ほぼ気分で書いているのでとてもキャラたちがとても情緒不安定で性格が安定していませんがお付き合いいただけたらと思います。
今後の更新についてですが、基本週一、月曜日の投稿となりますのでまたお越しいただけたらと思います。変更等はその都度お知らせしていこうと思います。
多分、作って放置している伏線が幾つかあると思うので、「これはっきりしろやあ!!」と言うのがありましたら愚痴っていただけたらと思います。できるだけ回収できるようにしていきたいと思います。
行き当たりばったりな作品ですが気長に見ていただけたらと思います。