会議 受付嬢視点後半
なっちゃんが談話室に入り一分程経った。
談話室でやる事は二つ。一つは室内温度の調整。その時の気温により冷暖房の調整をする。もう一つは使用者の人数確認。自然災害やタチの悪い人災が起きた時のためにその時その場にどんな人が何人いたのかを把握しておく必要がある。受付でも確認はしているが、見過ごしている可能性もあるため再度確認は重要だ。その他空いている座席の整頓や、机の上のゴミの回収など人によって様々だ。なっちゃんの場合は「お金をもらっているのに適当に仕事するなんて有り得ない‼︎」と言うタイプなのでとても時間がかかる。
「もうなっちゃんったら几帳面なんだからあ〜、はよ来いやあ〜」
とぼやくのがいつものルーティーンである。
すると丁寧に礼をし、なっちゃんが部屋から出てきた。そして、後ろ手でドアを閉めるといつもならば、ぱあと顔を輝かせて談話室の使用メンバーの様相を事細かに説明してきた。そう、いつもならば。では、今回のなっちゃんはと言うと後ろ手にドアノブを持ったまますごく複雑そうな顔をして俯いた。
立ち上がった私はなっちゃんの目の前に立った。
「なっちゃんどうしたの?どうだった?ちょ、いったんドアから離れよ、開かなくなるから」
「あ、うん、そうだね」
なっちゃんの腕を強引に引っ張ると受付の座席まで戻り、強引に肩を抑えて座らせた。
「どしたの?」
「いやなんかあの、そうだあのおじさんはやっぱり高校生二人組と話してたよ」
「で、どうしてそんなに落ちてんのよ」
「大学生の方は勉強会?みたいなのやってて問題なかったんだけど、、、」
「ど?」
「高校生の方が、」
どうしても話したくないのか、それとも話しにくいのかあの二人の部分だけを綺麗に避けて話す。とてももどかしい。いっそ自分で見にいくか?
「その、なんかテーブルにノート?が置いてあって、」
「置いてあって?」
急かし気味に鸚鵡返しに聞いても反応は芳しくない
「そこに人の絵が書いてあって、で、その周りに多分その絵の人の情報?みたいなのが書いてあったの」
「え?」
「で、その、会話が一瞬聞こえたんだけど、母親が亡くなったとか、暴力を振るうのが悪いとか、悪くないとか」
「……」
「しかも、すごく切迫した空気で背後でとても大きな陰謀が働かれているような、私、怖くなっちゃって……ごめんね」
肩を小刻みに振るわす那月の肩を抱くと優しく背中をさすった。
「なあに謝ってんの、那月は何も悪くないよ。」
しかし、これでまた不気味さが増したのも事実だ。
母親の死、暴力、なんの話だ?
するといきなり談話室の扉が開き、五十路男と中性ボイスが出てきた。そして、意味のわからない方角、角度の歩き方で非常階段の方へと消え去った。
そっちにトイレはない
ー
五分ほどして戻ってきた二人は、親子のように親密であった。本当に意味がわからない関係だ。しかし、部屋に入って一分程で中性ボイスが出てきた。手には黒い器具のような物体を持っていた。それをカチカチといじると、またすぐに部屋に戻って行った。
「あれ、盗聴器じゃない?」
「は?」
盗聴器、そう聞けば誰もが犯罪を思い浮かべるだろう。現に盗聴器の使われ方としてよく聞くのが犯罪なのだから。こんな風に
「結構前だけど、バッグに盗聴器が付いていた人のニュースやってるのみてさ、それ、その人のストーカーがやってたみたいなんだ。そのとき、盗聴器の特徴みたいな特集やってて似たようなの見た気がする。」
「……どういう、こと、だ?」
彼らの関係も、そのノートに書かれたものも、彼らには謎が多すぎる。
母親の死、暴力、盗聴器、
そういえば、最近ある新しい単語が社会を大きく動揺させていたのを思い出した。それは、
「DV ――家庭内暴力」
知らぬが仏とは、まさにこの事だ。人の余計な詮索は、時に自分を苦しめるとこの時学んだ。
最後までお読み頂きありがとうございます。
今回のショッピングモール〜会議編はこれで以上になります。次回は来月頭に更新予定です。
次回もより良い作品になるよう努めて参ります。
ぜひぜひ、お楽しみください。