表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

会議 受付嬢視点前半

「おはようございます。図書館はそこのエレベーターで五階まで行きますと正面にあります。はい、お気を付けて。」


 今日は日曜日、休日だ。


「なのに!何故、何故!?何故私は仕事をしているの!?」

「なっちゃんボリュームボリューム、下げて下げて」


 そう囁きながら左耳を覆うように手を当て、カラカラと回してボリュームを下げて見せる彼女は、同僚であり、親友でもある鼓野陽那である。

 ひなは明るく、いつも自分だけでなく、一緒にいるその人をも光らせてくれる、そんな人だ。そのひなとは正反対にひながいなければ光れないのが私、鼓川那月だ。しかし、今ではひなのおかげでそんな自分もいいと思っている。


「でも、ホントなんで私たち休日まで仕事してるわけ〜」


 ボリュームを落としたひなに釣られるように私も小声になる。


「人手不足だって、もうやだー何、少子高齢化社会って」

「でも、まだまだ始まったばかりって言うじゃ〜ん。2050年には40%が高齢者とかさそんな未来の話されたってねぇ〜。こちとらまだ20世紀だっての」

「でもあと数年でしょ。そしたら50年後って、え、やだ、私たちも高齢者の仲間入りじゃない!?40%に私たちも入ってるってこと!?」

「ホント、やってらんないわ〜。」


 私たちの仕事は市民ホールの所謂受付嬢だ。子供会や老人の集まり、体育館の使用などの予約を承り訪ねてきた人には館内の案内をする。しかし、ドとは言わないが田舎の、しかもこんなに電波の悪いホールにわざわざ来る人は少ない。結果、休日とは言え、こんな無駄話ができるくらいには暇なのである。


「うお!!」


 さて、明日は何をしようかと考えていると、隣でいきなりひなが野太い声を上げた。


「なになに、どしたん?」

「いや、ほれ見てみー。あの子ちょーべっぴんさんじゃん?」

「確かに、でもなんか細くない。突っついたら折れちゃいそう」

「いやそれでもよ。リアル貴族令嬢って感じしない?」

「まあ、分からんでもないなあ」


 ひなにより、リアル貴族令嬢と名付けられた彼女は街中ですれ違ったら一度は振り向いてしまうだろうくらいに美しかった。艶やかな髪に日焼けひとつしていない肌。そしてその笑顔は、真夏の向日葵が太陽に向かって花を綻ばすようなそんな絵を想像させられた。リアル貴族令嬢だけあって気品も持ち合わせている。

 こちらに輝かしすぎる笑顔で軽く会釈をすると優雅に椅子に腰をかけ、某数学会社の問題集を読み始めた。


「あれみたいだね、ほら、あのーあれ。座ればなんとか立てばなんとかってやつ」

「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、でしょ。」

「そうそれそれリアルでいるんだねえ」

「確かにぴったりだよね、なまぬるっ」


 熱気を感じて出入り口の方に視線をやると、女にしては高く、男にしては低い背に長くもなく短くもない髪、ダサくもかっこよくも可愛くもない格好をした高校生くらいの人が入ってきた。全てにおいて中性的で存在がはっきりしない。用心深く見ていないとすっと消えてしまいそうな、そんな人だった。


「なんか不気味じゃなーい」

「そう?私はなんていうか儚いっていうか手を繋いでないとどっか行っちゃいそうな感じがするなあ。昔の私みたいな」

「だからそれが不気味って言ってんじゃん?」

「え、私のこと不気味って言った?」

「違う違う、確かに昔のなっちゃんは太陽のいない月みたいだったけど今は違うだろ?大体、昔のなっちゃんより重症だぞ、あれは」

「あ、ご令嬢のところに行った」


 昔の私みたいなその人は部屋に入ってくると真っ直ぐ御令嬢の座っているロビーの椅子に向かって歩き出した。

 その人に気づいたご令嬢はこれまた天使のような笑顔を放ちその人と何かを話し始めた。


「とにかく悪い人ではなかったみたいね」

「それ以上だろ、あれは互いが互いにしてのことを特別視してるね」

「そうかなあ?なんもわからんけど」

「いや、さっきよりもご令嬢の笑顔が眩しい」

「え、まさか恋に落ちたとか?」

「いやそうじゃない!!ううぅん、とにかく邪魔は良くない」

「そーおぉ?」


 呑気に返事をし盗み聞きは良くないと思いながらも二人の会話に耳を傾けた。


「すうが……ますか?」

「いえ、だいじょ……お気遣いあり…ます。」

「そ……か、なら…ですが、いつもより…いように……まして。もし、……ましたら、気軽におき……」

「ええい、聞こえん!!」

「いや聞こうとするなよ、」


 珍しくひなのツッコミが入る。


「私のポジ盗むな!!」

「お前が勝手にボケたんじゃ!!」

「お前ってひっどおーい。なっちゃん傷ついた」

「知らん、勝手に傷付いてろ。」

「うう、ひなが意地悪ううぅぅううん?あ、移動した!!こっち来るよ」


 さっと背筋を伸ばし、受付嬢スマイルを作ると目の前を通り過ぎようとする彼らにひなと揃って声をかけた。


「「おはようございます。」」

「――ですよねえ。あ、おはようございます。」

「おはようございます」


 受付を通り過ぎた彼らは、受付から見て左手にある談話室へと入って行った。


「あれって、中性ボイスってやつ!?」

「そうじゃなあい?え、何、ひな中性ボイス好きなの!?」

「いや、まあ、さっきの子の声は結構好み〜」

「さっきまで邪魔すんな言ってたくせにー」

「大丈夫よ、横恋慕に成り下がる気はないから、」

「そう言う問題じゃないでしょ、もう」


 相変わらず職務に全くもって関係のない話をしていると自動ドアの開く音がした。見ると、いかにも温和そうな中年の男が駆け足気味にやってきた。そして此方に挨拶をすると、急いで談話室に入って行った。


「もしかして待ち合わせかなあ〜」

「もしかしなくてもそうでしょ。しかもあの様子じゃ遅刻じゃない」

「でもお、今談話室にいるのは大学生の三人組とさっきの二人じゃあん?どっちにしてもどう言う関係?って感じ」

「確かに」


 談話室は受付の隣にある。その為、会話やその他諸々の音は聞こえるが何を話しているか、何をしているかはあまり分からない。

 確認できるとすれば、定期的にある談話室の見回りくらいだ。


「つまんないのお〜、人間観察が子の仕事の唯一の楽しみなのにいぃー」

「でも、そこから考察するのも楽しいでしょ?今は考察の時間にしよ」

「なっちゃんがそう言うならしゃあないかあ〜。まず、あの大学生三人は普通にお友達って感じじゃあん。まあ正直、考察のしがいがないよねえ」

「そうねえ、特に変わったところもないし」

「そういえばさっきのおじさんどっちと待ち合わせだろおぉー」


 私は体をくねらせて談話室を除いた。

 談話室の入り口にはドアがあり、今の時間帯では反射で室内が確認できないが、角度を変えるとなんとか中を覗ける。


「ううんぉ、大学生の方にはいないね。ってことはさっきのご令嬢と中性ボイスさんの方じゃない。この角度だと見えないけど、今談話室にいるのはその二組だけでしょ」

「そおそお、でもあの二人とおじさんってどう言う組み合わせえ?」

「そもそもあの二人組って何歳?」

「ご令嬢は高校生の数学の教材持ってたしい、高校生じゃないのお?」

「それにしては大人びすぎてない?」

「ああーわかるう〜。ちょっと君が悪い気もするけどねえ〜」

「じゃあもう一人の中性ボイスさんも高校生かな?」

「まあ、多分?そっちもそっちで掴めない不気味さがあるけどねえ〜。ほら、こう触ろうとしたらいないみたいな?」

「やっぱりなんか儚いね」

「うおん、そーおお?」


 うまく表現できないけど、あの子は誰かに見つけて貰わなければならないと感じた。


「でよ、あのおっさんと二人の組み合わせ、なんなんだろうねえ」

「二人は兄弟で、父親とか?」

「それだったら全員バラバラに来なくても良くない?それに、あの三人全然、一ミリも似てないよぉ」

「二人は従兄弟でどちらかの父親とか、父親は仕事で後から来る予定だった。とか」

「うーん、しっくり来ない」

「あ、見回りの時間。ちょっと見てくるよ」

「お、ちゃんとよろしくねえ。後でどうだったか教えてねえ〜」


 時計を見ると両針とも十時をすぎていた。

 私は彼女に見送られながら談話室のドアノブを捻った。

続きは明日、1月15日の17時に更新します。

是非ご覧ください

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ