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第十五話 3

 館内にある防犯カメラを避け、迷うことなく裏の駐車場にたどり着いた守田は駐車場内にある防犯カメラの死角にしっかり隠れると、哀れみに添えた笑顔でこちらを振り返った。その笑顔は、しかし、憐憫とは違っていた。


「予想以上ですよ守田さん。ここまでとは思ってもいませんでした。」

「舐められちゃ困るな、こんなんでもこれで稼いでるんだ。」


 喧嘩を買う気はないようだ。


「……で、何だったんださっきの。お前があんな顔するんじゃよっぽどのことなんだろ?」

「何がですか?」

「とぼけるな、あとお前、隠したいことがある時に喧嘩売るのもやめろ」

「……何ですか、それ」

「気づいてないのか?」

「……まあ、貴方以外にはやっていないと思うので問題ないと思います。なら、あれにも気づいていますか?私のことについて、貴方はどれ程知っていて、理解していますか?」

「どう言うことだ」


 僕は満面の笑みを彼に向けた。

 結局は、彼は僕の全てを知っているわけではないのだ。でも、これは知っているだろう、この笑顔に明るい意味が含まれていない事を。


「何でもないです。何が何だったんだなんですか?」

「ああ、いや、だからあの顔だよ、真っ青だっただろう?」

「そう言われましても、自分の顔は見えないので」

「お前なあ、」


 守田は大きく嘆息すると指を一本立てた。


「言いたくない」


 もう一本立てる。


「言う必要がない」


 さらにもう一本たてる。


「まだ僕を信用できない、どれだ」


 今度は僕が嘆息した。


「わかりましたよ、話せば良いんでしょう。」

「最初からそうしてくれれば良いんだ。」

「ホント、一言多いですね。」


 しかしここは守田に心の中で感謝をしておいた。実際、僕はもうすでに落ち着きをなくしかけていた。

 大きく深呼吸をし、息を整えると口を開いた。


「ただ、これはあくまで私の予想というか想像、いや、妄想かも知れないんであまり本気にされると困るんですが、」


 先に断りを入れ、僕は先程浮かんだ疑問とその先を守田に説明した。


「正直、子育てはストレスにはなりますが彼女の様子を見ている限り、その原因は違う所にあると思います。第一、もし本当に子育てが原因なら、彼女にもっと酷い痣をつけていてもおかしくないでしょう。そして、もし奥さんが、彼女の母親が亡くなったショックだけからならずっと泣き続ける、酒に走り浮浪者になるなどして彼女のことなど放置するでしょう。」


 ここまで一気に話すと大きく息を吐いた。

 横目で彼を見ると焦る様子もなく、顔を顰め真剣に考え込んでいた。


「あくまで、私の妄想です。」

「そうだな、しかし、一つだけいいか?」

「どうぞ」

「それがもし仮に事実だった場合、私達は彼を知る大きな一歩を得られたと言っても過言ではないと思う。しかし、警察は犯人がどんな人生を歩みどんな辛い生活を送ってきたか知っていても、それに同情してしまっても、手錠をかける時はその思いは私情だ。そんな甘い考えではやっていけない。君の目指す彼女にその私情は邪魔だ。知ってはいてもその感情に動かされてはいけない。流されてしまったなら、その先は君ならわかるだろう?」

「わかってますよ。裁判で彼の心理的なものが考慮されれば私は文句はありません。」


 少し不貞腐れ気味に言った僕に守田は驚いた顔をしたが、すぐに優しい笑顔になり「お前は何だかんだ言っても優しいよなあ」と頭をわしゃわしゃと撫でてきた。

 一瞬、僕は彼を父親と錯覚してしまった。それと同時に、胸の奥底がじわじわと温まるのを感じた。こんなむず痒さを僕は知らない。


「そろそろ戻るか」

「そうですね」


 人を信用してはいけない。心を開いてはいけない。ずっとそう思ってきたし、そうしないと自分を保てなかった。しかし、僕は今、彼に心を許そうとした。許したいと思ってしまった。例え、今後、裏切られる未来があったとしても。

 先に歩き出した守田を追うように歩き出した。


「まあ、そんな度胸はなさそうだけどね」

「なんか言ったか?」

「いえ、何も」


 足を止め、振り返った守田は驚きと困惑の表情をしていた。


「ただー、鼻歌を歌いたくなる気分ってこんな感じなんだなあって思っただけです」

「何だそら」


 再び歩き出した守田の背中は頼もしく見えた。

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