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第十四話 2

「この情報は全て彼女から頂きました。所得や税金等の書類管理、家計などは全て彼女が行っています。もちろんアレの健康診断の結果等も彼女の管理下にあります。私も見させてもらいましたがアレが偽装した可能性はないと考えました。」

「……なるほど、」


 彼が言葉を濁したのは僕の言葉の意味を理解したからだろう。

 彼女にとってアレは唯一の家族であり、父親だ。彼女がそう簡単に父親を裏切るとは思えない。


「守田さん、貴方が現場で会ったのもこのような見た目でしたか?」

「そうだな、確かにこんな見た目だった。ついでに言うと指先にいくつか傷があった。あれは包丁とかの切り傷じゃないかと思う。」

「……父は、母が亡くなってから苦労したみたいで、最初の頃は慣れない包丁を使って手をよく怪我していました。」

「……」


 知っていた。彼女の父親はただ私利私欲に走ったのではないと。彼女の母親が死んで絶望に暮れていた中で彼女は父親にとって唯一の希望だっただろう。そして、思い知ったのだろう、自分の情けの無さに。包丁一つまともに使えない。そんなんじゃ生きていけないと。だから、彼女を完璧に、何でもできるように、そう育てようとしたのだろう。

 あいつが悪だと、そう指を指して、二度と社会に戻れないようにしてやりたい。その位憎んでいた。恨んでいた。でも、彼女の父親はあの子の、ゆきちゃんの親とは違っていた。

 僕はあの子の親にぶつけられなかったこの負の感情を、彼女の父親にぶつけていただけだった。最低だ。

 そんな僕に気づいたのか守田は優しく僕に話しかけた。


「君は悪くない。確かに人に暴力を振るう事に、それぞれの理由があるかも知れない。それでも、それはいけない事だって、やってはいけない事だって、あの人は知らなければならない。」


 子供に言い聞かせるように言う彼は、本当に人のことをよく見ていた。ここまで自分の核心を突くような発言はされたことは今までで一度もなかった。

 僕は雨上がりの雲間から差す光のような笑顔で取り繕った。


「……そうですね。…何か、他に情報はありますか?」

「うーん、そうだなあ、見た目ではないが武道の道には詳しいようだった。彼も親が厳しかったみたいでな、空手やら柔道やら色々やっていたみたいだ」

「そうなるとさらに厳しいですね。この中に彼より身長が高い人はいませんし、武道で強い人もいないでしょう。仮に私と守田さんが某アニメのように変なポーズを取り融合したとして、お互いに実力を100%出せたとしても勝算はありませんね。」

「あの、すみません。戦闘する前提なんですか?」

「いえ、確かに、そうですね。」


 無理やりテンションを引き上げていた僕を見る守田の顔は痛々しげだった。彼に僕はそのように写っているのだろうか?


「天竺さん、病気等はありますか?」

「いえ、現在はありません。強いて言うなら先ほども言いましたが、視力がかなり弱いことくらいですね。ただ、昔母が亡くなった時にたこつぼ型心筋症を発症しまして、本来なら数ヶ月で完治する物ですが父の場合は約一年掛かりました。その上、父はその頃の心的負担が今でも続いているようで、今でも病院に通っているのですが、その度に医者に注意されるそうです。なので、いつ再発してもおかしくはない状況です。」

「そうですか、」


 ふと、彼女は母親似なのだろうか、それとも父親になのだろうかと言う疑問が浮かび上がった。もし仮に、母親にだったならば、最愛の人を亡くし、手元に残った忘れ形見に執着し、しかし出来上がったのは自分が今でも忘れられない女に瓜のように似た娘だったならば、どうしたらいいのだろうか?触れたくて、でも彼女はもういなくて、それは娘で、あの人にはもう会えなくて、でも会いたくて、触れたくて、、、

 辛すぎる感情のループが出来上がる。


「松草さん、大丈夫ですか?」


 はっとして顔を上げると彼女がこちらを覗き込むように見ていた。

 守田はそっと自分の頬に指先をあてつんつんと突っついている。どうやら顔色が悪いらしい。


「え、えぇ、大丈夫です。病気はそれだけですか?」

「はい、」

「では、後は性格ですね」

「すまんが、僕はトイレに行きたい」

「では、少し休憩にしましょうか」

「そうですね」


 立ち上がった守田は出口に向かって歩き出した。僕の横を通り過ぎる瞬間、守田の大きな手が肩に触れた。


「すみません、私もお手洗いに行ってきます。天竺さんは大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

「そうですか、では」


 僕は守田の後を追って部屋を出た。

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