プロローグ
〜読む前に〜
・重苦しい内容なので登場人物に共感しやすい人は窒息するかもなのでご注意ください。責任は取れません。
・残酷描写を入れる予定はないですが、一部、想像力豊かな方は夜に御手洗いに行けなくなるかもしれないのでご注意ください。
・お話を楽しんでいただければと思って投稿していますが、もし、テーマについて考える余裕のある方は深く考えていただけたらと思います。
朝の柔らかい風に生けられた花たちが優しくゆれ、桜が儚く舞い散った。優しく、静かなその時間は悲しみに溺れたその心をも浄化する。
一人の青年が玉砂利を踏みしめる音、桶の軽やかな音とその中でチャプチャプと揺れる水の音を響かせやってきた。
青年は、一つの墓石の前で立ち止まると、そこに刻まれた名前をそっと撫でると掃除を始めた。
布で拭き取られた白い墓石が朝日を浴びて光を放ち、花を生け、線香の匂いが立ち上ると、青年は優しくそこに笑いかけた。
風が一際強く吹くと、舞い上がった桜の花びらは青年の周りを通り空へと舞い上がった。
* * *
終わりを迎えた桜が最後の力を振り絞り、これでもかと花びらを撒き散らす門をくぐる。そこに張り出されたクラスを確認すると、僕は自分の教室へと向かい、席に着いた。
「え、ネクラサン居るじゃん」
「マジー?最悪ー。二年間もネクラサンと一緒とか耐えられなーい」
聞こえてくる陰口を全て相殺してじっと机を見つめていると程なくしてチャイムが鳴り、担任が入って来た。担任が簡単に自己紹介をし、体育館に移動すると長々とした校長の挨拶と生徒会長のお決まりの挨拶を聞き教室に戻った。
「えーと、じゃあ、あ、自己紹介は、いっかー。じゃあ転校生紹介しまーす」
無精髭を生やし、黒い隈を作ったやる気のない担任がそう言うと、一人の女子生徒が前に出てきた。
少し痩せた体を制服で包み隠し、肩よりも少し長い髪をハーフアップにしたその生徒の顔には誰もが惚れるであろう完璧で美しい笑みを湛えていた。
途端に嫌な汗が体から吹き出し、頭痛と共に吐き気がした。
『——×××ちゃん』
脳裏に少女の声が鳴り響いた。
『——×××ちゃん、笑顔はね、魔法なんだよ』
——そんなわけがない、
『みんなを幸せにするの』
——僕はお前の笑顔を見ても幸せになんてなれなかった
『みんなを笑顔にするの』
——じゃあなんでお前は泣いてるんだよ
『ママが元気になるの』
——じゃあ何でお前の母親はビルから飛び降りたんだよ。
『パパが優しくなるの』
——じゃあな何で、何でお前はここに居ないんだよ。ずっと一緒にいるって約束したのに。
殴りつけられるような頭痛を堪えて前を向くと、気持ちの悪い笑みを湛えた、いや貼り付けた彼女と目が合った。
「——っ」
「父の仕事の都合で転校してきました天竺白葵です。よろしくお願いします。」
彼女は一礼すると、眩しい笑顔を放った。 目尻の下がり方。口角の上がり方。花が綻びるような、誰もが魅了される完璧な笑顔を貼り付けたその顔は少しも笑っていなかった。