プロローグ
〜読む前に〜
・重苦しい内容なので登場人物に共感しやすい人は窒息するかもなのでご注意く ださい。責任は取れません。
・残酷描写を入れる予定はないですが、一部、想像力豊かな方は夜に御手洗いに 行けなくなるかもしれないのでご注意ください。
・お話を楽しんでいただければと思って投稿していますが、もし、テーマについ て考える余裕のある方は深く考えていただけたらと思います。
朝の柔らかい風に、生けられた花たちが優しくゆれ、桜が地を離れた魂のように儚く舞い散る。優しく、静かなその時間は過去を追い求める愚かなものどもをさえ優しく包み込んだ。
砂利の音、桶の軽やかな音に、風に揺れる桜の哀愁を感じさせる囁き声。それらを鳴り響かせながらやってきた少年は、一つの石の前に来るとその眠り続ける石に触れた。
布で拭き取られた白い墓石が朝日を浴びて光を放つ。線香の匂いが立ち上り、生けられた花が優しく話しかけると少年は、そこに刻まれた名に触れ、優しく微笑んだ。
一際風が強く吹き、散り舞う桜の花びらはその少年を優しく包みこくと空へと舞い上がった。天に手を伸ばしかけたその少年は、天に昇っていくその桜をただただ静かに見つめていた。
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終わりを迎えた桜が最後の力を振り絞り、これでもかと花びらを撒き散らす門をくぐる。そこに張り出されたクラスを確認すると、僕は自分の教室へと向かい席に着いた。程なくしてチャイムが鳴り響き、担任が入って来た。担任が簡単に自己紹介をし、暫くすると始業式が始まり、教室に設置されているスクリーンがその様子を映し出した。
長々とした校長の挨拶も生徒会長のお決まりの挨拶もどうでもいい僕は今後の学校生活について考えた。
僕のような人間はどうしたって普通の友達なんて作ることなんて出来ない。苦しすぎるこの日常も、おもたすぎるこの人生も、誰にも理解できない。いや、簡単に理解なんてされたら困る。近づき過ぎず、離れ過ぎず、嫌われないように、そして気付かれないように。去年と同じように。何も変わりませんように。僕にとっての平穏が続きますように。そして、この重く、苦しすぎる人生に区切りをつけられますように。
担任の声で我に帰る。いつの間にか自己紹介が始まっていた。
教壇を見ると一人の女子生徒が立っていた。彼女は少し痩せた体を制服で包み隠し、肩よりも少し長い髪をハーフアップにしている。顔は――途端に僕は息ができなくなった。呼吸が乱れ、全身から嫌な汗が吹き出してくる。 どうにか呼吸を整え、僕は気付かれまいと一生懸命に平静を保とうとした。
「天竺葵白です。よろしくお願いします。」
彼女は一礼すると、眩しい笑顔を放った。 目尻の下がり方。口角の上がり方。花が綻びるような、誰もが魅了される完璧な笑顔を貼り付けた彼女の顔は少しも笑っていなかった。