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妖霊怪奇学園綺譚  作者: ±√
8/25

7話

「―――そうか、幸村。お前そんな秘密があったのか……」

呆然とする早瀬さん。早瀬さんはどうやら放送部の部長の他に生徒会の会計の役割も兼任しているようで、私はそれに驚かされた。そして早瀬さんの家は代々祓い屋業を営んでいるらしい。

「お前、演劇部でも向いてるんじゃないか?全く気づかなかったぞ」

それは、気づかれたら大変ですからね。

「そうね、普通この場合考えられるのは精神負担を軽減するための自己防衛なのだけど、たしかに幸村さんなら違うパターンが見えそうね。妖怪によるもの、神さまのいたずら、人間の術……色々あるけど、どれも目的と犯人がわからないから解決までの道のりは長そうね」京華さんは私の話を真剣に聞いてくれて、家にある書物で似たような事例がないか調べてみるといってくれた。そこで生まれた素朴な疑問だ。「京華さんの家は何をされているんですか?」そう聞いた。すると彼女はニコっと笑って「知りたい?」と聞いてきた。その返しがなんだか怖かったけど知りたい気持ちの方が勝っていた私はコクリとうなずいた。

「一応、裏家業は陰陽師よ」

一応?陰陽師?

「うちは平安から続く陰陽師の家系なんだけど、明治維新から陰陽道が封じられて隠れて今でも続けてるの」

なんとなく。なんとなくさっきの「一応」という言葉がやけに引っかかって聞いてみた。

「ちなみに表の方は……?」

「んー?ヤ●ザ」

京華さんは満面の笑みで答えた。背中からスゥッと冷気が通っていった。何だそれは。どっちも裏ではないか。途端に京華さんの可愛らしい笑顔が怖く感じられる。

「―――冗談よ、冗談!!」

彼女は私にまとわりついた空気を笑い飛ばした。じょ、冗談か……よかった。私は安堵した。そして再度「本当は何なんですか」と聞いてみたが「内緒」と言われるだけで回答は返ってこなかった。


 話は戻されて、私の記憶喪失の原因はおそらく「自分」「妖怪」「神」「人間」のどれかにあると言うことなので、とりあえずすべての可能性を考えた結果、京華さんが他者の術がかかっていないか確認してくれた。

「術はかかってなさそうね……」

しかし問題の解決に繋がりそうになかった。

「一応この検査は私よりも高レベルの術師がかけたものなら反応しない可能性はあるのだけど……その可能性はなかなか無いと思うし……少なくとも人間の術が原因ではないと思うわ」

「確かに先輩のこれは精度高いですもんね。となると、一番面倒なのが『神』ですね」

刹那ちゃんがそうつぶやく。「神」って本当にいたのか、そんな顔をしていると刹那ちゃんは「私の家は鬼()を封じてるって言ったでしょ」と心を読まれてしまった。

「『八百万の神』っていうでしょう?力の弱い神様ならそこら辺にいるわよ」

「そうね、神様は気まぐれだから、基本的には人間に害をもたらすことはないのだけれど」

となると必然的に「妖怪」「自分」「神」「人間」の順で可能性が高いってことか。その時、学校のチャイムが鳴った。短い針はちょうど3という文字を指していた。

「あ『交代』の時間か」

交代?

「この学校がなんとなく妖たちが集まりやすいってことは知ってるでしょう?」

刹那ちゃんにそう言われて私はコクリと首を動かした。

「そんなところに一般人が寝泊まりしているんだもの。妖たちのかっこうの的よ。だからこうして私達が交代で学校中を見回っているの」

その時生徒会室の扉がガチャリと開いた。

「ただいまー」

「おかえり―――ってやっぱり血だらけじゃない」

入ってきたのは男が二人。どちらも制服は着ておらず、着ている服は至る所に血が滲んでいた。一瞬怪我かとも思ったがどうやらそうではなさそうだ。制服を着ていなかったのでてっきりこの学校の生徒ではないのかと思ったが、そうではないと直ぐに頭が否定した。前方の人の顔は見たことがなかったけど、後方は見覚えがある。同じ部活仲間、同じ合宿グループ仲間の夕薙くんである。見つめていると目があった。私が頭を軽く下げて会釈をすると、彼はいつも通りニコッとした笑顔を作った。そして再び前方の人に目をやる。彼は京華さんと親しそうに話ていた。その光景はとても華がある。

「春馬、彼女が例の……」

「あぁ。はじめまして、幸村さん、青桐春馬(あおぎりはるま)です。一応、ここでは副会長をやらせてもらってます」

その時、私の頭の中で青桐さんの背後から強い光が指しているような感覚を感じた。ま、眩しい!笑顔が輝かしい!!私の中でクラスの女子達の会話が蘇る。この人が噂の副会長か。これはファンクラブの一つや二つできるわ。

「じゃあ次の見回りは私と早瀬くんで行ってくるから」

「うん。あ、着替えたほうが良いよ、見ての通り、こうなるから」

「そうね。じゃあそのパーカー貸してくれる?」

「え?血付いてるけど……」

「うん。だから使い切って捨てちゃいましょ」

「秋介!!俺にもそのパーカー貸せ!!」

「……い、いいですけど、少し汗かいてますよ」

「別に!着替えるほうがダルい!!」

トントン拍子に会話は進んでいった。京華さんは明らかに大きいであろう青桐さんのパーカーの裾を折り曲げて、早瀬さんは夕薙くんのパーカーを着て上機嫌で出ていった。二人が生徒会室を後にして、青桐さんと夕薙くんは生徒会室のソファーに腰掛けた。

「そういえばこの学校、『見える人』多いんですね」

「あぁ、この学校の理事長がこっち側の人でね、そういう家業を営んでいるところの子供を入学させることで子どもたちには家業の練習をさせて学校を守るという体制を取ってるんだよ。だからこの学校はこっち側では結構有名なんだよね、妖業の御用達ってわけだ」

「やっぱり二人も実家がこういう妖関係の仕事をされてるんですか」

「僕は特にそういうわけではないんだけどね、秋介のほうが京華の遠縁にあたってね」

つまり夕薙くんの家も陰陽師ということか。

「でも本当に遠縁だよ、先祖が同じなだけで、こっちは分家だし……だから黒崎の家とはあんまり関係はないんだよね。『仕事』も全然関わったこと無いし……」

仕事?陰陽師のことだろうか。私が首を傾げていると二人は「あれ?」と顔を見合わせた。

「京華から何も聞いてない?」

「表向きは隠さなきゃですもんね」

二人は再び顔を見合わせて、そして何かに気づいた顔をした。

「『言っていい』って言ってましたよ」

刹那ちゃんがそう言うと青桐さんが「公言厳禁だよ」と言った。

「黒崎家の表の仕事……というより本職は、まぁ簡単に言えば極道だよ」

青桐さんはそれはそれは優しい笑顔でそう私に言った。

「この辺にある極道の頭の娘……あれ?秋介、あれは極道?マフィア?どっち?」

「あれは……極道でいいんじゃないですかね。ここ日本ですし」

「……?みんなで私をからかってるんですか?」

だって、さっき京華さんは冗談だって……

「ヤク●じゃなくて、極道よ。あの人の中では別物らしい。私にはよくわからないけど」

―――京華さん、私もそれは同じだと思います……


「ぇっっしゅ!」

「えっ、先輩、風邪ですか?珍しいっすね」

「うーん、どうだろ?」


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