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妖霊怪奇学園綺譚  作者: ±√
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3話

 私という獲物を捉えた化け物は、口を大きく開けながらぐいっと私の足を引っ張ってくる。口の中は見るからに粘液だらけで気持ちが悪い。これはまずい。私はすぐさまスマホを化け物に向け、ありったけの力を使って引き剝がそうとした。しかし、全く動く気配がない。這いつくばろうにも、その力が強すぎて這いつくばれない。私はこの時初めて自分の非力さを嘆いた。そしてその化け物はだんだん近づいてくる

「わぁ……ぁ……」

たまらず声が漏れ出たとき、私はバキっというこの状況にそぐわない音を聞いた。そしてうまく足に力が入らないのである。見れば私の掴まれている足の先は180度、天を向き、変な方向を向いているのである。それに気がついた瞬間、私は今までの人生で味わったことのないような痛みを感じた。

「ぁ……あぁぁぁぁ!!」

痛いなんてもんじゃ無い。私が悶えている間にもその化け物は段々と私に近づいてくる。それを見た私は痛みを我慢しながらも腕の力と片足の力を振り絞って少しでも遠くに這いつくばって逃げようとする。しかしそんな抵抗も虚しく、今度は私の生きている方の足を掴んだ化け物はニンマリと笑い、素早く足の付け根から私の足をもぎ取った。声にならない悲鳴が上がる。もぎ取られた足の付け根はとんでもなく熱を帯びているように感じられた。そしてそこからは出血が絶え間なく続き、あたりはすぐに血だらけになった。逃げようという気力すら失った私は恐怖と痛みで意識を手放そうとする。朦朧とする意識の中、私は一人の女の子の声を聞いた。

「どうしてこんなところに人間が……、これじゃあもう助からない、か……」


 目が覚めると、まず初めに女の子の顔が目に入った。和服を着た変な女の子。歳は中学生ぐらいの女の子だ。そして私の寝顔を見ていたであろうその子は私が目を開けても無言で眺めるばかりだった。一瞬何がなんだか分からなかった私は意識を失う前の状況を思い出し、「わぁぁ!!」と大声を上げながら飛び起きた。そのせいか女の子にはびっくりさせたようで、その子はビクッと体を揺らすと大きな音を立てて尻餅をついた。

「あ、ごめん……」

女の子はすぐに立ち上がり、手でお尻のゴミをぱっぱとはらった。その様子を見てすぐに私は自分の足について思い出し、すぐさま自分の足に目をやった。しかし、足が無いわけでも、変な方向を向いているわけでもなく、普通の足がそこにはあった。果たして先程までの出来事は私の夢だったのか。すると女の子は私の考えを見透かしたように話し始めた。

「お前の足は確かに千切れた。その出来事は事実だ。ワシがお前を見つけたときには、もうお前は瀕死だった」

「私……死んだの?」

女の子は首を横に振った。

「ワシはお前に『妖の欠片』を飲ませた。妖の欠片はさっきの黒いのから取ったもの。妖と混ざったお前は、もう人間ではない。人間と妖のハーフだ」

「私……もう人間じゃないの?」

「半分は人間。半分は妖。なんだ、死んだほうがマシだったか」

私は激しく首を横に振った。

「助けてくれてありがとう。半分が妖になってしまったのはびっくりだけど、生きているならそれでいい」

「……そうか……。」

私の目を見つめてきた。その目はなんだか悲しそうだった。私はなんとなく、この子のことを知りたくなった。

「ねぇ、君の名前は?お父さんとお母さんは?どうして夜の学校なんかにいたの?」

「何を言う小娘。わしの名は『葛ノ葉(くずのは)』。ワシは今でこそこんな身なりだが、少なくともお前の百倍は生きている大妖怪だ」

普通なら信じられないようなこのセリフ。でもなんだか信じられる。それはきっと私がさっきとんでもない体験をして、この子に助けてもらったからだろう。

「ねぇ、私はこれからどうしたらいいの?」

「どうすることもない。お前はただ今まで通り普通の生活を送るのだ」

今まで通りの生活。果たして送れるだろうか。今まで、私には妖が見えるだけで、害が襲うことはなかった。しかし彼らが危険なものだと身にしみた今、外を歩くのすら恐ろしい。

「さっきの黒いのは何?あれは特別(・・)なの?」

葛ノ葉はゆっくり首を横に振った。

「いいや。あれが本来の妖の姿だ。その昔、このあたりは妖のたまり場でな、人々を襲っては食うのを繰り返して人民を怯えさせていたんじゃ。そこで陰陽師の提案で人柱をたて、妖たちの力を弱めてきた。しかしあいつはどういうわけか、昔の凶暴なままでどこからともなくやってきた。結界を張り、ゆっくり狩ろうと思っていた」

「つまり学校にいた先生たちは……」

「―――皆無事じゃ」

よかった。

「しかしお前は興味深い。ワシの結界を抜ける人間なんざ、この時代になかなかいない。何より美味しそうな匂いがする」

そうか、私は美味しそうなのか……ってなるか!人に美味いも不味いもないだろう。私は少しずつ葛ノ葉から距離をとった。

「なぁに、お前を食おうなんぞこれっぽっちも思っとらん。それよりどうだ、ワシと組まんか」

葛ノ葉と組む?とは?

「あの黒いもんはイレギュラーなもの。その原因が知りたい。ワシにはこの血を守る指名がある。しかしイレギュラーは数が少ないから見つけにくい。そこでお前を餌に呼び出すのだ」

そんなのいやだ。危険じゃないか。あんな思いをするなんて、二度とゴメンだ。私はきっぱり断った。すると葛ノ葉は協力しないと私を捻り潰してしまうというのだ。その上、妖と戦う方法を教えてくれる。そしてなにより身の安全を第一に考えるとのことだ。協力しなければ殺してしまうのに、協力すれば死にかけても助けてくれるとは、変な話だ。しかしこの状況。私に断る権利があるわけがなく、泣く泣く承諾するのだった。ここから私の一風変わった高校生活が幕を開ける。あぁ、さようなら私の普通の高校生活……永遠に……。……今までも少し普通じゃなかったけど……。


 

 

 変なものだ。今日助けた人間は果たして本当に人間だったのか、今となってはよくわからん。ワシの結界の中に入ってきたのにも驚いたが、何よりあの小娘、引きちぎられた足とおられた足を自力で再生しおったのだ。とても人間の所業とは思えんその出来事。ワシはこの地を守るという宿命を主様から受けた。もしあの人間がこの地に災いをもたらすものなら、妖怪共に食ってもらおう、そう考えていた。しかし小娘の帰ったあと、主様は突然やってきた。ワシの狙いはまるわかりのようで、「馬鹿な考えは捨てろ」と言われた。そして新たにあの娘を守るように(めい)がくだされた。もしあの娘が怪我でもすれば、今度こそワシの首が飛ぶかもしれん。自分で言い出しておいて、なんだが、あの娘と関わってしまったことをそっと後悔した。


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