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妖霊怪奇学園綺譚  作者: ±√
2/25

1話

4月。誰もが期待と希望に胸を膨らませる入学式。パリッとした制服を着て、見慣れない自分の姿を見て微笑み、元気に家を飛び出し、まだ慣れない、これから3年間使う通学路を歩いてみる。暖かな春の日差しとほのかな桜の香りが心地良い。私の高校生活の始まりは完璧、なはずだった。

 入学式の途中、あることに気がつくまでは。

 同じ人間とは思えない、やけに美人な生徒会長が祝辞を読み上げる中、ふと中学時代の話が話題に上がったので思い出を振り返ってみる。しかし、私の頭には何も浮かばなかった。楽しかった思い出や辛かった思い出。それは中学生のときの思い出だけではなく、小学時代も、それ以前もいっこうに思い出という思い出が出てこない。私の頭は一気に真っ白になり、そのせいもあって頭が全く動かない。あたりが大勢の新入生で埋め尽くされる中、まるで私だけ違う世界にいるようだった。

 そんなちょっとしたアクシデントもありながら、入学式はすぐに終わってしまった。終了とともに私の意識は一気に現実に戻ってきた。それと同時に激しい頭痛と吐き気に襲われ、私は高校生初めてのHRをすっ飛ばして保健室に駆け込んだ。熱がなかったので保険医の先生に原因の心当たりはあるかと聞かれてすぐに渡しは今朝、入学式で浮かれていて薬を飲み忘れていたことに気がついた。薬を飲み症状を落ち着かせた私は、それでも混乱していた。もちろんこの薬をいつから飲んでいるのか、なんの薬なのか、そんなことさえ思い出せない。ただ飲まなければならないことはわかる。同様に、何気なく一人で朝を迎えた私だが、なぜ一人暮らしなのか、私の両親はどんな顔だったのか、それすら思い出せない。でも自分の名前、誕生日、血液型は覚えている。まるで、これまで生きてきた16年間が私の頭からすっぽり抜け落ちてしまったようだ。そんな私を見て先生は私をベッドで休ませた。横になって目を瞑って考えてみる。記憶喪失にしては不思議なものだ。外傷がないのだ。であれば、心理面に原因があるということだが、なにぶん、私の残った知識や記憶の中にそんな物は見当たらない。結局その日はそのまま昼寝をしてしまい、気がつけば放課後になっていた。

 そんな出来事から一ヶ月、学校生活にも慣れてきた私に記憶が戻ることはなかった。ただ、一つ言えるのは、私は高校生活のスタートダッシュを完全にしくじってしまったということだ。授業の間の休み時間、ある子は友達の席へ行き会話を始め、ある子は友達と物を投げあって遊んでいる。そんな中、私の周りには誰もいない。そう、いわゆる「ぼっち」である。入学式初日から保健室にこもり、自己紹介に参加できなかった私は翌日登校してみて、もうすでにぼんやりグループができていることに気がついた。焦った私は隣の子に話しかけてみる。はじめこそ上手く行くが、何故か続かない。そして何より私には「変な子」というレッテルが貼られた。その原因は彼ら(・・)にあった。

 どうやら私には他人には見えないようなものが見えるようだった。この世のものではないなにか。それは今までも見えていたのか、突然見えるようになったのかわからない。きっと彼らは「(あやかし)」と呼ばれる類のもので、見た目はグロテスクなものから、ほとんど人間特別がつかないものまで様々だった。そんな彼らに私はクラスのこと間違え、学校で話しかけてしまったのだ。傍から見ればなにもないところに一人で話しかけている「変な子」だ。おかげでクラスの子達は少しづつ私と距離を置くようになり、二ヶ月でこの有様だ。イジメこそないが、こうなってしまえば友だちを作ることは諦めたほうがいいだろう。さようなら私の青春、いらっしゃい私の便所飯。私は遠くを眺めキラりと雫をこぼす。

 いやいや、ここで諦められるか。そう考えた私は部活動に入ることを決意した。私が選んだのはそれほど厳しくもなければ活動日数が多いわけでもない放送部だ。放送部はこの学校の伝統として文化祭での映像作成や体育祭での実況を担っている。私はそこに惹かれ入部を決めた。料理部とも悩んだが、体験入部に行ったときに先輩と部活の雰囲気が良かったことや、同じく体験に来ていた子と会話が盛り上がったのがポイント高かった。ここではきっと友だちができるだろう、私が妖を見ることができるということを知られなければ。カムバック私のキラキラした高校生活。今度こそ普通の高校生になるのだ。私は入部届を担任に提出し、放課後に友達とカフェやゲームセンターに行く姿、部員みんなで力を合わせてイベントごとに取り組む姿、もしかしたら彼氏なんかもできるかも……、そんなことを妄想しながら元気よく放送室の扉を開けたのだった。


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