#001 プロローグ
初投稿です。よろしくお願い致します。
2023年2月20日、修正しました。
わたくし、最近流行りの転生者でございますの。
と言っても、王道の剣と魔法の中世ヨーロッパ風世界に転生した訳でも、男から女にTS転生した訳でもありません。
現代日本から架空の戦国大名の娘に転生致しましたの。
男女平等もへったくれもない、食生活も衛生状態も前世とは比べ物にならないレベルの低さですが、そんなこと全く問題になりませんわ。
大大名の娘!
生まれながらにして勝ち組!
しかも実在しないイコール史実と関係ない!
よその皆々様のようにタイムパラドックスに怯えたり、公開追放ざまぁされたりするリスクは皆無ですわ~~~~~!
確かに。
わたくし、歴史の勉強は中学レベルまでですので、未来知識を生かしてチート、なんて真似はできませんわ。
でも全く無問題。
わたくしでも流石に織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、あとは…信玄とか謙信とかくらいは勉強致しましたもの。
親の名字がどれでもないのに、関東に覇を唱える大大名。
これは十中八九、限りなく史実に近い架空の戦国時代で間違いございませんわ。
今世こそはゆりかごから墓場まで、リッチな生涯をエンジョイさせていただきますわ~~~~~!
………。
失礼、自己紹介が遅れましたわ。
北条左京大夫氏康が娘、結と申します。
わたくしの豪華絢爛悠々自適な戦国ライフ、どうぞご覧あそばせ。
永禄12年(西暦1569年) 遠江国 掛川
高台に建つ城の一帯に、冷たい風が吹いていた。
無論それは城の内外を問わず、城を望む包囲陣を形成していた雑兵たちにも、それを見下ろす城兵にも、平等に降りかかった。
だが前者――徳川家中であることを示す三つ葉葵の旗の下にいた兵士は、くしゃみを一つすると、隣の同輩に断りを入れてしばし持ち場を離れ、かがり火にあたることができた。
一方後者――今川家中であることを示す足利二引両(黒丸に白い横線を二本引いたデザイン)の旗の下にいた兵士は、何度くしゃみをしても持ち場を離れることはできず、長槍を頼りに立ったまま、震えながら、必死に自身の肩をさすることしかできなかった。
城内では全てが不足している。兵も薪も食糧も、水でさえも。
それでも戦いを止める訳にはいかない。領国のほぼ全てを失い、援軍も望めない今川にとって、ここ掛川は文字通り最後の砦なのだから。
掛川城本丸、木造の――現代の代表的な天守には見た目も大きさも敵いそうにない――天守の一角に、ひとり机に向かって頭を抱える女性がいた。
色鮮やかな着物を羽織っているものの、格子窓から僅かに入る外からの光に透かして見れば、あちこち汚損が目立つ。手足は土や泥にまみれていた。
戦闘への参加を免除され、僅かなりともパーソナルスペースを与えられている彼女こそ、今川家当主、氏真の正室であり――同時に隣国北条の姫でもある。
「どうしてこうなるのよ…。」
ぼそり。
「大大名の娘に産まれて人生勝ち組のはずが…。」
またぼそぼそとうめく。
「豪華絢爛悠々自適な戦国ライフが…。」
机をダンと叩き、天を仰いで両目をかっと開き。
「~~~~~ッどうしてこうなったのよぉ~~~~~…。」
結局周囲の目を気にして弱々しく叫んだのだった。
お楽しみいただければ幸いです。