II - i:青いバラと勝負①
絶対にあきらめない。
あなたのそばにいたいから。
アメリアは昨日よりも早くーーといっても、彼女にとってはいつも通りだがーーに目を覚ました。
しばらくぼーっとしてから伸びをする。
そして、昨日歴史の勉強に使った本に目を通し始めた。
しばらくして扉がノックされ、リーナが入ってきた。
「おはようございます。アメリア様。」
「えぇ。おはよう。」
「今日の予定は午前中は昨日と同じです。
午後は先生がいらっしゃるまで少し時間が空きます。」
確かに昨日は昼食を食べ終わった後に城内を案内してもらってから、マナーの先生が来た。
アメリアには空き時間があれば行きたいところがあった。城内を案内してもらったときに気になった所があったのだ。
「もし、大丈夫ならでいいのだけど行きたい場所があるの。」
そう言ってアメリアは1日の予定についてリーナと話し始めた。
そうして、また1日が始まる。
朝食を食べ終わったころ、リーナが嬉しそうに言ってきた。
「朝おっしゃっていたことを相談してみたところ許可が出ましたよ。いつでも気軽に行ってくださいと。」
その言葉にアメリアは嬉しくて思わず眩しい笑顔を見せる。
「本当に?! 嬉しいわ。」
アメリアは今日の空き時間が楽しみになった。
もちろん自分が行きたいのもあるが、レイフェルとの会話の話題が増えることはうれしかった。
そして、アメリアはいつもよりも、ニコニコしながら勉強部屋へ歩いていった。
部屋に行くまでの通路で、アメリアを見た人たちが思わず見惚れてしまっていたことにアメリアは気付いていなかった。
アメリアは部屋に到着すると、マリーネが来るまで昨日の復習をしていた。
少しすると、マリーネが部屋に入ってきて挨拶する。
そのとき、彼女はちらっと勉強をしているアメリアを見たがそれについては何も言わずにアメリアの机にやって来た。
「おはようございます。
それでは、昨日の続きから始めます。
・・・・ーーーーーーーーーーーー。」
・・・・
昨日と同じように最後にまとめと小テストを行い、今日の歴史の勉強は終わった。
「それでは、また明日。失礼いたします。」
そう言って、マリーネは部屋を出ていった。
アメリアは片付けをしながら、今日はレイフェルとどんな話をしようかと考えていた。
昨日は自己紹介くらいしか話せなかった。
ーー何について話そうかしら。
きっと昨日と同じようにアメリアとは話をしてくれないだろう。ちょっとやそっとでは彼の心は動かないことは百も承知だ。
ーーレイフェル様は執務室に訪ねていっても追い出したり、もしくは出ていったりはしなかったわ。
そうアメリアは前向きに思って、執務室へと向かった。
「おはようございます。レイフェル様。」
昨日と同じくノックをして執務室に入ったアメリアはレイフェルの元へ行き笑顔で挨拶をする。
レイフェルは顔を上げると、怪訝そうな顔で隣に立つギルバートを睨む。どうしてアメリアが来たのかと言うように。
その視線に気づきながらもギルバートはアメリアに挨拶をした。
「おはようございます。アメリア様。」
「おはようございます。ギルバートさん。」
二人はレイフェルの視線を気にすることなく挨拶を交わす。
「レイフェル様。このたびは庭や図書館に行くことを許可していただきありがとうございます。とても嬉しいです。」
アメリアは、はっと思い出してレイフェルに向き直り丁寧に礼をし、本当に嬉しそうに笑った。朝リーナに確認を取ったのはこのことについてだった。
レイフェルはその笑顔を直視できずに黙っていた。
こんなに喜ぶとは思っていなかったのだ。ギルバートからの話を半分くらい聞き流して、まぁいいだろうと適当に答えただけであったのに。
レイフェルはアメリアの嬉しそうな眩しい笑顔を見て今まで感じたことのないような気持ちになり、胸がざわめいた。
そんなレイフェルの気持ちを知らないアメリアは礼を言ったあと、何を話そうか決めていた。
ーーよし!今日はお花について話そう。
そう思いアメリアは昨日座っていた、ソファに腰かけた。どうやらこの時間はギルバートもこの部屋に居てくれるみたいだ。
レイフェルとはやはり、目さえ合わないがアメリアはレイフェルの方を向きながら話し始めた。
「レイフェル様。わたし、今日庭や図書館に行くことはとても楽しみなんです。花も好きですし、本も好きです。庭にはどんな植物があるのですか?」
そう目をキラキラさせてレイフェルを見つめる。
「・・・・・・・・。」
しかし、レイフェルは答えない。
ギルバートもレイフェルをガン見したが、レイフェルは無視だ。午前中に済ます仕事は終えているはずなのに、我関せずに書類を見ている。
・・・・・・・・・・。
沈黙が続く。
そして、ギルバートはその空気に耐えられなくなり、アメリアに話しかけた。
「アメリア様。この城の庭にはたくさんの種類の植物がありますよ。花もたくさんありますから、アメリア様も楽しめると思います。オススメはバラですかね。いろいろな色があり、この城にいらっしゃった方も多くご覧になられます。」
「そうなんですか。さらに楽しみになりました。」
ギルバートから庭について聞いてさらに昼食後に行く庭が楽しみになるアメリア。
レイフェルの方をちらっと見てみると書類とにらめっこしている。その様子に少し残念に思いながらまたアメリアはレイフェル、そしてギルバートに向けて話し始めた。
「わたしはどんな花でも好きなんですが、一番好きなのがセンニチコウなんです。」
アメリアは本当にその花が愛しいとわかるような穏やかな声、そして表情をしていた。それはこの城に来てから初めて見せるものだった。
思わずギルバートだけでなく、レイフェルも顔を上げアメリアの方を見つめている。
アメリアは二人が自分を見ていることに気づくと少し照れくさそうに表情を緩めた。
「どんなお花かご存知ですか?」
「・・・・・・・・。」
レイフェルはアメリアと目が合うと気まずそうにまた、視線を戻す。
「申し訳ありません。殿下も私もあまり植物には詳しくないので・・。」
ギルバートは申し訳なさそうに答えた。
「いえ。そうですよね。
センニチコウはそんなに華やかな花ではないのですが、たくさんの色合いがあり、開花期間が長いですし、花の色や形が長い間変わらないのです。小さなポンポンのような花でとてもかわいらしいですよ。」
「・・・・・・。」
「へぇー。そうなんですか。見てみたいですね。
なぜ、その花が好きになったのですか?」
ギルバートは興味深そうにアメリアに尋ねた。
「・・・・母が好きだったんです。小さい頃、よくセンニチコウの花畑に連れていってもらって。それで、私も好きになりました。」
懐かしそうに、そして少し悲しそうにアメリアは答えた。
しかし、何事も無かったかのようにすぐに明るい表情に変わり花の説明を続ける。
そのため、ギルバートはそれに気づかずそのままアメリアの説明に聞き入っていた。
その後、3人ーーレイフェルは書類を見ているだけだがーーセンニチコウのことで盛り上がった。
アメリアが説明して、ギルバートがさらに質問する。
そんな感じでいつのまにか昼食の時間になっていたようで、部屋の扉がノックされてから初めて3人はそれに気づいた。
「失礼します。昼食のお時間です。」
そう言って入ってきたのは昨日城内を案内したキース、そしてその後ろにはリーナがいた。
アメリアは慌てて立ち上がり、レイフェルの元へ行き前回と同じようにレイフェルに礼をした。
「レイフェル様、ありがとうございました。とても楽しかったです。また、夕方に来ますね。
ギルバートさん、お話しに付き合っていただきありがとうございました。」
アメリアはそう言ってリーナと共に部屋を出ていった。