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I - iv:かべ①

ギルバートとの話が終わって、アメリアは歴史の先生が来るという部屋--自室の隣部屋--に来た。


自室よりはこじんまりしていたがそれでも広い。

部屋の中心には、大きめの机と椅子が置いてあり、その机の上には何冊もの分厚い本がある。


近づいて本をめくってみると、ぎっしりと文字がつまっており写真や絵はあまり無いように見える。


早くもアメリアはこれからの勉強に不安を持った。


「こんなに分厚くて内容が多いものを何冊もするのね......。」



それでも、アメリアには拒否権はないし投げ出すつもりもない。

本当に今日から1日1日が大切になってくるということを改めて自覚する。


「どんな先生なのかしら?」


アメリアがそうつぶやいたとき、


コン、コン


ドアがノックされ、リーナと一人の女の人が部屋に入ってきた。


「おはようございます。ユーフェリア国から来ましたアメリアです。本日からよろしくお願いします。」


アメリアは立ち上がり挨拶をする。


すると、女の人は少し厳しい目をしてそれに返した。


「おはようございます。マリーネです。本日からこの国の歴史や文化など王太子妃にふさわしくなるための知識をお教えいたします。」


彼女は焦げ茶色の髪を団子にして、メガネをかけている。メガネの奥に光る目はとても厳しい目をしている。

いかにも怖そうで近づきがたい。


しかし、アメリアはそんなに怖くはなかった。

自分を王子妃にふさわしくするために厳しく教えるのは当然であるし、アメリアも厳しいほうが嬉しい。



アメリアは厳しさには慣れていた。


ユーフェリア国にいたときも厳しい先生達に知識やマナーを叩き込まれてきた。

そう考えれは彼女にとって厳しい先生というのは普通のことなのだ。


挨拶をしてから、アメリアは椅子に座りマリーネを見た。


「これからの勉強の流れに付いて説明いたします。

まず、本日のように朝食を終えたら、この部屋に来て下さい。それから、私の授業を聞いていただき、最後の30分ほどでその日のまとめや小テストをします。

お昼前には終わろうと思っていますので昼食の準備などにあててください。」


アメリアは少しほっとした。


お昼前には終わるのであれば、これからレイフェルの元を訪ねることができる。少しでもいいから一緒に過ごす時間がほしいアメリアにとってはうれしかった。


今日はまだ執務室を知らないから無理だが、明日からは会いにいける。

知らず知らずのうちのアメリアは笑顔になっていた。




「それでは、今日のところをはじめます。

一番上に置いてある本を開いてください。建国のお話からになります。ーーーーーー。」

アメリアの本をめくる音とマリーネの声だけが部屋のなかでしていた。





・・・



「ーーーーーーー。

今日はこれで終わります。復習をしておいてください。

その本はあなたのものですので自由にお使いください。では、また明日。」


そう言って、マリーネは部屋を出ていった。



ほっと一段落つくアメリア。

もともと勉強が嫌いではない彼女にとっては苦ではないが、ただ学ぶのではなく、常に王太子妃としての重圧がついてくる。


そして、アメリアはそんなに要領がよくなく、不器用だ。ユーフェリア国で勉強したときもなかなかすぐに自分のなかで整理できずに授業の次の日は怒られていた。


「大丈夫。自分のことは自分がよくわかっているわ。

今までのように少しずつコツコツとやっていきましょう。」


そう決心して、昼食の準備のためにリーナを呼ぶ。


「ねぇ、リーナ。昼食はどなたかと一緒に食べられるの?」


その言葉にリーナは少し言いにくそうに答えた。


「申し訳ありません。そのようなことは聞いていません。」


「そう。」


昼食もレイフェルは一緒に取らないとわかり、アメリアはがっかりする。

レイフェルと一緒に食事をしたい。

一人で取る食事は寂しい。



アメリアは今日レイフェルにあったら誘ってみようと思った。






アメリアは、今朝朝食を食べた食堂で朝と同じように一人で食事取った。


食事を終えて少しすると、一人の男性がやって来た。

銀色の短めの髪でギルバートと似ている服装をしている。

その男性はアメリアの前に来ると、礼をして言った。


「これから、城内を案内しますキースです。よろしくお願いします。」


彼が朝ギルバートが言っていた人なのかと納得する。


「次の用事に差し障りのないように案内いたします。

もし、興味があるものがあれば遠慮なくおっしゃってください。」


「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


アメリアはそう言って微笑んだ。

アメリアにとっては城内を知ること、しいてはレイフェルのいる執務室を知ることはとても重要なことである。


アメリアは気合いを入れた。




一方、思わず見惚れてしまったキースは少しあわてて城内の案内を始めた。



昨日訪れた謁見の間に続く扉。


多くの料理人や侍女でにぎわう調理室。


勇ましい声と音が響く鍛練所。


たくさんの書籍であふれた図書館。


色鮮やかに咲き誇る花でいっぱいの大きな中庭。




などなど城内にはたくさんの場所があった。

その一つ一つがアメリアの心をいっぱいにする。


特に、図書館と中庭はアメリアにとってとても感激を与えるものだった。

絶対にまた来よう、と思ったときキースは一つの扉の前で立ち止まった。



「こちらがレイフェル様が仕事をなさっている執務室です。」


その言葉にアメリアはその部屋をじっと見つめる。

この扉の向こうでレイフェル様は仕事をなさっているのね。夕方またここに迷わずに来られるかしら。


そんな風に思っているといきなり目の前の扉が開いた。


「・・・・・・。こんなところで何をしている?」


眉間にシワを寄せ鋭い瞳をしながらレイフェルがアメリアやキースを見渡し言った。


キースは主に礼をする。


そして、突然扉が開いて固まっていたアメリアはあわててレイフェルに挨拶した。


「こんにちは、殿下。

今城内を案内していただいているのです。」


しかし、笑顔でレイフェルに話すアメリアの方をレイフェルは見向きをしない。


そして、低い声で再度キースに言った。


「ここで何をしているのかと聞いた。キース。」


「はっ。ギルバート副団長の命でアメリア様に城内を案内しておりました。」


すると、レイフェルは怪訝そうに顔を歪める。


「・・・・ギルバートか。ーーーーあとでしめる。」


一瞬冷たく黒いオーラがレイフェルの周りにただよう。


アメリアは背筋がヒヤッとした。


「しかし、なぜ執務室まで案内する?必要ないだろう。」


そう言うレイフェルにアメリアは思わず言い返した。


「わたしがお願いしました!このお部屋でいつもお仕事をなさっていると聞きました。だから知りたいと思ったのです。殿下と少しでも一緒に過ごしたいので。」


「・・・・・・。」


レイフェルは今日初めてアメリアと目を合わせる。

意味がわからないと、鋭い瞳が語っていた。


それでもアメリアはその瞳をそらさずにさらに言う。


「わたしはあなたとのことを諦めません。

だからこそ時間があれば少しでも殿下と、――レイフェル様と一緒に過ごしたいと思っています。」


アメリアは真剣な瞳でレイフェルを見つめ返した。


「お前と馴れ合うつもりはないと言った。期待をするなと。無意味なことをするつもりはない。・・俺に関わるな。」


レイフェルは冷めた目で昨日と同じ事を言う。

そして、そのままアメリアの横を通りすぎる。



「それでも、わたしは諦めません。また、夕方に来ます。絶対に。」


アメリアはしっかりとした声で通りすぎたレイフェルの背中に告げた。


しかし、レイフェルは何も言うことなく行ってしまった。


去っていくレイフェルの背中を見えなくなるまでアメリアは見つめ続ける。




「見苦しいところを見せてごめんなさい。」


先程とはうってかわって穏やかに微笑みながらアメリアはキースに言った。


「いえ、・・・・。

ここが案内の最後になります。お部屋に戻りましょうか。」


そう言って、少し気まずげにアメリアとキースはまた歩きだした。

アメリアの自室についた頃には、あの気まずげな雰囲気もなくなっていた。


「案内ありがとうございました。とても楽しかったですし、助かりました。」


そう笑顔で礼をするアメリア。


「いえっ。役に立てたのなら光栄です。」


その丁寧な礼に少し固まってしまうが、穏やかな表情でキースも礼を返す。


最初はアメリアに固く接していたキースもこの短時間でアメリアの丁寧な物腰にも慣れ、少しではあるがアメリアの人となりがわかった。


レイフェルにどんなに冷たく言われても、彼の瞳を見つめながら真剣な目で言い返していたアメリアを思い出す。


そして、改めてわざわざ自分にギルバートが城内の案内を頼んだ意味を理解した。


「もし、なにかお困りのことなどがありましたら、気軽にお声かけください。」



アメリアならばレイフェルの心を支えてくれるかもしれない。


そうキースもギルバートと同じように期待を持った。







午前中勉強していた部屋でその復習をしながら、マナーの先生を待つアメリア。


書物に一つ一つマークをつけたり、ノートにメモを書いたりする。

要領はよくないけど少しずつ少しずつ。


そう集中していると扉がノックされ開いた。


あわててアメリアは本を閉じて席を立つ。


「こんにちは。アメリア様。本日からマナーを中心に王太子妃としてふさわしくなっていただくためにいろいろなことをお教えいたします、オラリネです。」


そう言って入ってきたのは、先ほどのマリーネよりも穏やかな雰囲気がただよう女性だ。

黒髪を一つに束ね、少しふくよか、そしてその瞳はマリーネよりも優しかった。


「こんにちは。ユーフェリア国から来ましたアメリアです。よろしくお願いします。」


オラリネの雰囲気もあってか、そんなに緊張することなく挨拶する。


「はい。それでは始めましょうか。今日は最初ですから今後の予定や、授業の流れなどを説明します。

まず、王子妃として必要なことはーーーーーーーー。」



・・・・



「ーーーーーーーーーーーー。

今日はこれで終了いたします。また明日。」


そう言って、オラリネは部屋を出ていった。


アメリアはほっと息をつく。


説明を聞く限り、歴史などを勉強するよりこういった実践を学ぶほうがよっぽど骨が折れそうだと感じた。絶対に必要なことだとわかっていながら少し不安になる。


そして何の気なしに時計を見るともうすぐギルバートが言っていた時間になりそうなところだった。



「もう、レイフェル様はお仕事終わったのかしら。」


そう思いながら、城内を案内してもらったときに出会ったレイフェルを思い出す。

会ったときの様子から考えると訪ねていってもーー。




「だめ。行く前からそんなふうに考えてどうするの。」


そう喝をいれる。


自分が諦めてしまったら、レイフェルとの関係は今のままになってしまう。

きっとすごく時間がかかるだろう。

最初は邪険に思われる。

だけど、それでも、絶対にあきらめない。





リーナを連れて部屋を出る。


昼過ぎにキースに教えてもらった執務室まで少しずつ思い出しながら、歩く。

その距離が長いのか短いのかわからなくなってしまう。


それほどこの初めての執務室への訪問に緊張していた。


執務室の前に到着した。

扉をじっと見つめる。


そして、一度目を閉じて深呼吸をする。



大切なのは笑顔、そしてあきらめないこと。



そう心のなかでつぶやきながら、その扉をノックして部屋のなかに入った。



部屋に入ると、真ん中に応接間のようにソファと机があり、奥に書類などが置かれた机と椅子があった。


レイフェルは奥の机で書類を見ている。

その机の隣にはギルバートが立っておりこちらに向かって少し微笑んだ。

レイフェルはこちらを向きもしない。誰かが入ってきたことには気付いているのだろうが、それが誰なのかはわかっていない。


そんなレイフェルの前に行きアメリアは笑顔で話しかけた。


「こんにちは。レイフェル様。」


レイフェルが書類から顔をあげる。ようやく入ってきたのがアメリアだと気づいたようだ。


「なぜ、お前がこんなところにいる?俺はお前とのことについて言ったはずだ。

相手をしている暇などー「殿下の本日の仕事はもう終わりましたので、夕食までの時間ゆっくりとお二人でお過ごしください。」ー。」



レイフェルがアメリアに低い声で答えている途中にギルバートが話に入ってくる。

そんなギルバートをレイフェルは睨み付ける。

しかし、そんなことは気にしていないギルバートはさらにアメリアと話を進める。


「さぁ、アメリア様そちらのソファにお座りください。」


「はっ、はい。失礼します。」


「レイフェル様もこちらにー「行くわけがないだろう。」ーわかりました。」


さすがに先程よりも低い声で不愉快そうなレイフェルにギルバートもこれ以上は何も言えなかった。


「夕食の時間になりましたら、呼びに来ます。それでは、邪魔者は消えますのでごゆっくり。」


そう言って、リーナを連れ部屋を出て行ってしまった。


二人きりになった部屋には沈黙が満ちる。


レイフェルはアメリアを見ようともせず、ずっと書類を見続けている。


――何か話さないと。


そう思い、アメリアはレイフェルの方を向いて話し出した。


「レイフェル様、私たちはまずお互いに関してもっと知るべきだと思います。今日はわたしのことを知ってほしいのでお話しさせていただきますね。」


「・・・・・・・・。」


穏やかに優しく話しかけるがレイフェルはまったく無反応だ。

アメリアは気にせず続ける。


「えっと、まずはー、17歳、女です。・・・・・・。

レイフェル様はおいくつですか?」


何とかレイフェルと会話をしようと質問をしてみる。


「・・・・・・・・。」


しかし、やはり目も合わなければ声を出すこともしない。


「好きなことは、読書とお花です!

昨日、案内してもらった中にお庭もあったのです。

とてもきれいな花がたくさん咲いていました。

時間があれば一緒に見に行きませんか?」


そう、キラキラした目でレイフェルに訴えかけるが


「・・・・・・・・。」


何も返答はない。


「いつか一緒に行けたら嬉しいですね。」


アメリアは穏やかな表情で言った。


それから、アメリアは自分のことについて話せることは何でもレイフェルに話した。

趣味や、お気に入りの本、花など。

レイフェルに笑顔で話しかけ続けた。


しかし、レイフェルがアメリアを見ることも、そして話すこともなかった。




コン、コン。


扉がノックされ、ギルバートが入ってきた。

その後ろにはリーナも控えていた。


「もうすぐ夕食のお時間です。」


アメリアが気づかないうちにだいぶ時間が過ぎていたようだ。たとえ会話が成り立たなくても、レイフェルと二人きりで過ごせたのはアメリアにとって嬉しいことであり、少しの進歩だと思った。


本当はギルバートが出ていってすぐに追い出されるかもしれないと覚悟していたのだ。



アメリアは部屋に入ってきたときのように、レイフェルの前に行った。


「レイフェル様。今日はとても楽しかったです。

短い時間でしたが、わたしと一緒に過ごしてくださりありがとうございました。また明日会いに来ますね。」


アメリアは本当に嬉しそうに笑顔でレイフェルに言った。


レイフェルは顔をあげ、怪訝そうな顔をしていたがやはり何も言わなかった。


「それでは、失礼いたします。」



きれいな礼をして、アメリアはリーナと一緒に部屋を出ていった。





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