I - ii:初めての出会い
「はじめまして、ユーフェリア国から来ましたアメリア=リクト=ユーフェリアです。」
「まあ、そんなに固くならないでくれ。わたしがミラウディア国の王シフェルだ。
遠路遥々、ようこそミラウディアへ。」
そう言って穏やかに微笑んだのはミラウディア国王シフェルだ。
黒髪に茶色の瞳。その瞳は優しい雰囲気が出ている。
そして、年齢よりも若く見える。それこそ成年を過ぎた子どもがいるようには見えない。
「すまなかった。」
「えっ?」
「本当は城の正門で盛大に到着を祝おうかと思っていたのだが、君の安全面を考えるとね。
わたしたちは、君をーー、アメリアを歓迎するよ。」
「―っ!」
うれしかった。わたしの存在が認められたようで。
だから、レイフェル王子がいないことに気付いていなかった。
それが彼の意思表示だということにも。
「あの、レイフェル様はいらっしゃらないのですか。」
今、この謁見の間にはアメリアとシフェル王しかいない。
ミラウディア王妃は身体が弱いと聞いているから、ここにいないのはわかる。
でも、レイフェル王子も今この場にいない。
名前と噂でしか知らない自分の結婚相手。
不安もあるけど、ずっと会ってみたかった。
どうしてここにいないの?
「来るように言ったのだが・・。ギルバート、レイフェルはどうした?」
シフェル王はアメリアを案内した男に尋ねた。
「はっ、申し訳ありません。
レイフェル殿下に本日のことを伝え、来ていただくように言ったのですが。
決して、嫌だから来ていないのではなく・・」
ガチャッ。
ギルバートの話を遮るように、扉が開いた。
その場にいるものすべてがそちらに目を向けると一人の男が入ってきた。
「遅れてすみません、父上。」
そう国王に言った後、彼はアメリアの方を向いた。
国王と同じ黒髪で、身長も高く、細身だ。
一番目を引くのは、
赤と黄のとても綺麗なオッドアイ。
しかし、その瞳は冷たい。
何者も寄せ付けないかのように鋭い目でアメリアを見ている。
「・・・・レイフェル=セルド=ミラウディアだ。」
「あっ、ユーフェリア国から来ました、アメリア=リクト=ユーフェリアです。これからよろしくお願いしー」
「言っておくが、おまえに興味もないし仲良くなるつもりもない。俺は人と関わるのが嫌いだ。だから、もともと結婚するつもりもなかった。俺には一切関わるな。
・・まあ、この結婚は政略結婚だ。何も期待しないことだな。それでは、失礼する。」
「レイフェル!」
そう言ってレイフェルは国王がたしなめるのを聞かずに謁見の間から出ていった。
冷たい瞳と鋭い言葉にアメリアは何も言えずに立ちすくんだ。
国王や城の人々に歓迎されたが、肝心のレイフェルにはそういった言葉はかけられなかった。
わたしは必要ない?
ここにいちゃだめ?
役立たずだから、国に帰らないといけないの?
そんな思いに呑み込まれそうになったとき、
「本当にすまない。
・・・・レイフェルは人と関わりたがらないんだ。
仕事の時も信頼したもの以外とはほとんど話さない。話すとしても、必要最低限。
それでも、わたしはあいつに愛をーー、幸せというものを知ってほしい。だから、君とあいつとの結婚を結んだ。
二人を信じている。君には辛いことが多いかも知れないがわたしの息子を頼むよ。」
気付いたら部屋に戻ってきていた。
レイフェルの言葉、国王の言葉。
正反対の言葉が、そのどちらもが頭のなかで何度も響く。
嬉しいのか悲しいのかよくわからなくなった。
それでも、わたしには自由な選択はない。
レイフェル王子に嫌われていようとも、わたしたちが結婚することは既に決まっている。避けようがない。
それなら、前向きに考えていきたい、彼との関係を。
きっと、これから先ずっと一緒にいるのだから。
「結婚まで半年“も”と考えるか、“しか”と考えるか。それはわたし次第よね。がんばるしかないわ。」
アメリアはそう決意して、眠った。
小さな期待と大きな不安を抱えながら。