異世界ドラゴンズ〜青き竜の快進撃は9人の聖騎士と共に〜
「ジョン・ドナルド!お前はこのパーティには不要だ!今すぐに立ち去れ!」
よく通る声で宣言する、金髪の背が高い男は俺が所属する大魔王討伐パーティー「セントラルサンドラゴンズ」のリーダー、アルファードだ。
俺は突然、パーティーメンバーの前で吊し上げをくらったのだ。背後でメンバーたちの騒つく声が聞こえる。
「えっ、あっ、そんな突然いわれても困る!」
俺は間抜けな声を出してしまった。なぜ追い出されるのか心当たりは無い。
「分かっているだろう?ここは剣と魔法とファンタジーのなろう小説の世界だ。筆がノリ過ぎた筆者はパーティーメンバーを増やしすぎた。」
確かに、今このパーティは2000人規模だ。正確な人数は300人を超えたあたりからカウントするのをやめた。
大名行列のように移動する我々が泊まった街は俄かに活気づく。街一つの経済が動くのだ。
こんな大人数パーティーになってしまった経緯はあるにはある。
一応、この話「異世界ドラゴンズ〜青き竜の快進撃は9人の聖騎士と共に〜」の最終目標は大魔王を倒して世界に安寧をもたらすことだ。大魔王を倒すには神託を受けた聖騎士9人全員の聖魔法の力が必要なのだ。
聖騎士の聖魔法はとてつもなく強いがその分反動もある。そのフォローのためにパーティーメンバーはどんどん増え、今や何のために増えているのか分からないまでになった。
「メンバーが増えすぎたからってそんなめちゃくちゃな。」
俺はアルファードに食い下がる。俺はまだパーティーにいてやらなければならないことがあるのだ。
「そうか?他の者の意見も一応聞こう!」
アルファードは群衆を見渡した。パーティーメンバー全員が揃っているらしいが、声を上げるものはいない。
「突然追い出すのはあまりにも可哀想では?」
静寂を打ち破り群衆の中から擁護してくれたのは少し顔に肉がついた白髪混じりの中年男性だ。見たことはある。偶に挨拶もする。名前は知らない。いつの間にかパーティーにいた。
最低でも毎話5人は登場人物が増えるのだ。流石に追いきれない。
「お人好しだな、お前は。こいつは戦いの中で何もしていないことが多いぞ!」
アルファードの横で指を刺しながら糾弾する赤い目の青年はカイウス?ケイウス?名前がなんとなくしか思い出せない。
「それは人数が多すぎて、出る幕がないことが多いからだ!あとは力を使いすぎると反動が——」
「ごちゃごちゃうるさいですよ。」
俺の話を遮ったのは聖女メアリー・スーだ。少し前にパーティーに加入してきたが、とんでもない美少女で毎話美味しい所を持っていくので強く印象に残っている。筆者のお気に入りであるか、強い自己投影が入っているかに違いない。
「反動?それはあなたが貧弱だからではないですか?」
メアリーはニコニコしながらじっくりと詰め寄る。口は三日月型に微笑んでいるが長いまつ毛に彩られたサファイアのような瞳は笑っていない。淡い桃色の髪からは石鹸の良い香りがする。1人だけこういう描写が多いのって絶対筆者がブヒってるだろ。
「ち、ちがっ、俺は――」
「この前の戦いで魔法を使って倒れたのは誰だ?」
ぴしゃり、と冷たく言い放ったのは白いマントの男だ。やっぱり誰か分からない。初めて見た気すらする。誰だお前。
「でもアレのトドメは俺が刺した!ダメージの大半を与えたのは俺のはずだ!」
「倒せたのは貴殿のおかげだと?誰が証明できる?」
重たそうな鎧を着た男が髭を撫でつけながら、責めたてる。こいつはよくすかしっぺをするって噂になっているので存在は認識していたが名前は知らない。
この通り特段の特徴が無いとパーティーメンバーのことは把握ができない程、人数は膨れ上がっている。
しかしパーティーのみならず異世界ドラゴンズの作中には沢山の人々が名前つきで登場するのだ。
アルファードは魔王や魔物に拐われた464人の姫様を助けると宣言している。
最終討伐目標である大魔王には各地に散らばる魔王262人と大魔王の側近66人、合わせて328人を倒さねば目見えることすら叶わない。
魔王の居場所を知るには秘境の地に住む758人の賢者の知恵を合わせないといけないといった具合でどうやって収拾をつけるのか。
今俺1人が追い出されるだけで異世界ドラゴンズがどうにかなるとは思えない。この喧騒が馬鹿らしくなった。
パーティーを抜けることの決心、つまりはこの小説、異世界ドラゴンズから降りることにした。
「いいよ、分かった。出て行く。今までありがとな。」
俺は形ばかりの礼を良い、踵を返した。2000人の人だかりが割れ、一筋の道ができる。人の壁の狭間を振り返ることもなく歩き出す。その有様は上空からみると海を割ったモーセのように見えるに違いない。
背後からアルファードの絶叫に近い声がする。
「では約束の地、ニャゴーヤドゥームへ!」
オオオと地鳴りのような音がする。アルファードの宣誓に応えるパーティーメンバーだ。その内の何人がメインメンバーで何人がモブなのだろうか。
2000のさざめきが聞こえなくなるまで、ひたすら歩き続けた。
✳︎
どうやらセントラルサンドラゴンズのメンバーは俺が去ったあと、狭いダンジョンの中で将棋倒しになったらしいことを噂で聞いた。人数が多すぎる弊害がこんな形で出るとは。
あとみんな忘れてるけど、表題の9人の聖騎士ってその内の1人は俺なんだよな。
魔法の反動があって倒れたってヤツ、敵が思ったよりヤバくて聖魔法、強めに使っちゃったんだよね。他の聖騎士たちは別働隊だったり、パーティーの人混みに阻まれて敵を見ることすらできない位置にいたし、結局俺がやるしかなかったってことだ。
筆者もみんなも初めの方の話とか設定を読み返せば良いのに。話、これからちゃんと進むかな。筆者はどうまとめる気なんだろう。もしかしたらパーティーに新しい聖騎士が入るのかな。
おい、誰か読んでるか?コレ。もし読んでる奴がいたら感想欄か何かで筆者に言っておいてくれ。自分の手に追えないほどの人数を思いつきのままに小説に出すな。収拾つかなくなるぞってな。