入学
4月1日。私立 西高等学校 1年1組の教室は期待と不安が混じった声が入り乱れている。
僕、白川 勇気は早くも友達作りに勤しむ彼らの例に漏れて、ただただ緊張して自分の席で背筋を伸ばしていた。
僕は初めての環境にとことん弱い。緊張しすぎて背中に冷や汗が流れるし、体はカチコチに固まってしまう。
「えー、お前それはやばいだろー!」
教室の後ろの方で、明るい男子の声が聞こえた。
『お前』? 初対面の相手に『お前』? なんて凄い人がいるんだ。
僕は中学生の時に仲の良かった友達に『お前』なんて言える勇気は湧かなかった。
それを入学式が終わって、学校滞在時間が物の1時間ほどでなしえてしまう人がいるのか・・・!
なんて凄いんだ、それに比べて僕はただただ前を見て体を凍らせているだけ・・・。
だめだ、冷や汗だけじゃなくて涙すら流れそうだ・・・。
「はーい、席についてー」
ザワザワとしていた教室が、その一言でスーッと静まり返る。
その声の主はだるそうに頭をポリポリと掻いて、ヨレヨレのスーツを着て教室の入り口のドア前に立っていた。
恐らく担任の先生なんだろう。
私立西高校、略して西高は県内最高峰の学力の学校だ。
だからと言っちゃなんだけど・・・彼の姿は何だか、西高のイメージと似つかわしくないように感じた。
立っていた生徒が全員席に座ると、はぁー、とため息をついて教卓に向かう先生。
何のため息・・・? きっと皆そう思ったことだろう。
「担任の桐生だ。あー、まぁこれから1年よろしくな」
教卓の後ろに立ってまざまざと顔を見ると、彫りの深い顔立ちをしていることと、無精髭に気がついた。
『気怠げな先生』。文字通りそんな人だ。