3.宴会
キッチンでは、さくらと母さんが、並んで料理をしている。
僕は何となく午後7時のニュースを見ていた。
しばらくして、ダイニングテーブルに料理が並べられた。
僕は冷蔵庫から、ビールを3缶取り出し、さくらと母さんと僕の前に置いた。
「おっ、気が利くねえ」
さくらが嬉しそうにビールを手にした。
「カンパーイ」
さくらの発声で夕食が始まった。
「しかし、涼とビールを飲む日が来るなんて、感慨深いねぇ」
「いちいち、感想がオバさんクサいな」
「そりゃ、もう25歳だし」
すかすず、母さんが口を挟んだ。
「さくらちゃん、25歳なんて、まだピチピチ!」
「ピチピチって、古!」
そんなたわいもない会話が、延々と続いた。
何だか懐かしくて、心地よい時間だった。
「さくら、ハンバーグありがとう」
「どういたしまして」
「10年前の分もありがとう」
「えっ?」
「さくらが引っ越す前の晩も作ってくれたでしょ」
「あー、そうだったっけ?」
「この子さぁ、そのお礼が言えなくて、ずっと泣いてたのよ」
「何言ってんだよ」
「涼も、ちゃんとお礼が言えるようになったんだね。素直な良い子に育ってくれて、お姉さん嬉しいよ」
「・・・」
照れクサくなって5本目の缶ビールを一気に飲みほすと、「ごちそうさま」と言って、自分の部屋に戻った。
いつもより少し飲みすぎたせいか、そのまま、寝てしまい、気が付いたら、翌朝になっていた。
リビングに行ったけど、もちろん、さくらの姿はなかった。
母さんは、洗濯をしていた。
「さくら、帰ったんだね」
「こっちでの生活の準備があるとかで、あの後、すぐに帰ったよ」
「ふーん。隣の家に住むのかな?」
「そうねえ、でもあんな広い家に一人ってのも物騒だし、どうする気かしら」
そう言えば、日本で仕事が決まったとか言ってたな。
これでたまには、会うこともできると思うと、それを嬉しいと思う僕がいた。