18.温泉にて③
僕は大浴場の大きな浴槽に一人で浸かっていた。
温泉を独占している状態で、最高に贅沢な気分を味わっていた。
そのせいもあり、ついつい長風呂となってしまい、少しのぼせてきたので、あがることにした。
脱衣所に入った時、ちょうど一人の男性が、入ってきた。
それは知っている人物であった。
「寺山さん?」
僕は思わず、声をかけていた。
彼は、僕の方を見たが、すぐにはわからなかったようだ。
「涼です。あのバーの」
「おお、涼君か。いや、風呂上がりで服装もいつもと違うので、というか裸で気づかなかったよ」
「ご家族と旅行ですか?」
「・・・ああ。あれ、涼君は?最近は内定者でも、保養所が使えるのかな?」
さすがにさくらの名前を出すことは、避けたほうが良いと思った。
「いや、知り合いが、御社で働いていて予約してくれたんですよ」
「へえ、奇遇だね」
「そうですね。じゃあ、失礼します」
「うん。また、バーに寄らせてもらうよ」
そう言って、僕は慌てて自分の部屋に戻った。
まずいことになった。何とか明日のチェックアウトまで、二人が会わないようにしなければならないと思った。
しかも、家族と来てると言ってたし、寺山さんが家族といるところなんて、絶対にさくらに見せられないし、見せたくないと思った。
そんなことを考えながら、僕が部屋に戻って、しばらくして、さくらとしおりが、部屋に帰ってきた。
「はあ、いいお湯でしたね」
「本当にねえ。やっぱり、温泉は最高!涼はどうだった?」
「うん、他にお客さんもいなかったから、温泉を満喫できた。しかも、この後、部屋食でしょ?贅沢過ぎる!」
「いやいや、保養所だし。もちろん、食堂で夕食です。まあ、料理はかなりのものだけどね」
ヤバい。食堂で寺山さん一家とはち合わせにでも、なったら修羅場になる。
そう思うと、僕はクーラーバッグから、すかさず缶ビールとハイボールを取り出し、テーブルに置いた。
「風呂上りにまず一杯やりますか!」
しおりが、不審な目つきで、僕を見つめる。
しかし、さくらは満面の笑みを浮かべている。
「おっ、涼、気が利くようになってきたね。まだ、6時だし、先ずは風呂上がりの一杯と行きますか!」
僕は机に保養所の備品のグラスと、ロックアイスをアイスペールに入れてセットする。
そして、ハイボールの缶を開け、さくらのグラスに注いでやった。
「ありがとう!」
僕としおりも缶ビールを開け、今日2回目の宴会が幕を開けた。
宴を始めて2時間程が経過し、午後8時前になっていた。
3人とも、良い感じに酔っぱらっていた。
「ねえ、涼、そろそろ夕食に行かない?お腹すいてきたし」
「涼ちゃん、私もお腹減った」
僕はもう一度、時計を見て考えた。寺山さんは、小さなお子さんと一緒なはずだから、この時間なら、もう夕食は終わっているはず。多分。これ以上は、誤魔化せないし、そろそろ行くか。
「そうだね。じゃあ、そろそろ、2次会は終了ということで」
そうして、僕たち3人は食堂に向かった。
こんにちは。
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という事で家飲み開始!