16.温泉にて①
「いやあ、温泉へ向かう電車内と言えば、これでしょ」
そう言うと、さくらは、僕としおりに缶ビールを配り出した。さらにカバンから、チーズ鱈、柿ピー等、オヤジ定番のおつまみを次々と取り出す。
僕は昭和の社内旅行って、こんな感じだったんだろうと、想像していた。
ゴールデンウイークの真っただ中、僕とさくらとしおりは、電車で熱海に向かっていた。
僕たち3人は、熱海に向かう普通電車のグリーン車に陣取っていた。
さくらは、車を持っているのに「電車でGo!」とか、一昔前に流行ったゲームみたいに言ったのは、これが目的だった。
「しかし、さくらさん、よくホテルの予約取れましたね」
「ホテルと言うか、会社の保養所なんだけどね。ちょっと、会社の福利厚生担当にワイロ渡してね」
「流石です。尊敬します。さくらさん!」
さくらがドヤ顔でこちらを見ている。
「はいはい。いい子いい子」
そう言って、僕はさくらの頭を撫でる。
「ああっ、さくらさんだけズルい。涼ちゃん私にもいい子して!」
「しおりは、何もしてないじゃん」
僕の抗議も空しく、隣の席のしおりが、頭を僕に向けてくるので、しょうがなく適当にしおりの頭も撫でておいた。
「では、3人での初旅行にカンパーイ」
「カンパーイ」
こうして、車内での宴会が幕を開けた。
「遠慮しないで、ジャンジャン飲んでね!おかわりは一杯あるから!」
そう言って、さくらは、クーラーバッグの中を見せる。
中にはビールと、ハイボールの缶が所狭しと、並んでいた。
「さくら、、、それ、全部飲む気?」
真剣な顔で考えるさくら。
「うーーーん。さすがに1時間ちょっとで、これ全部は無理かな」
「さくらさん、私やればできる子です!」
「しおり、こんなところで頑張らなくて良いから!」
そんなやり取りをしている間にさくらは、すでにビールを飲み干し、ハイボールを飲もうとしていた。
もちろん、ロックアイスも持参しており、プラスチック製のコップに氷3個程入れた後、ハイボールを注いでいた。
「こういうところには、マメなんだな」
「いやあ、ハイボールには多めの氷がマストでしょ。CMでも、キレイな女優さんが言ってるじゃない」
「さくらさんの方が、全然キレイですよ」
「しーちゃんも可愛いよ」
こんなバカな話が延々と続き、1時間ちょっとが過ぎ、電車は熱海駅のホームに到着した。
ゴミ袋と化したコンビニ袋には、ビールとハイボールの空き缶が、溢れんばかりに詰め込まれていた。
「さあ、しーちゃん行くよ!」
「はい、お義姉さん!」
そう言って、さくらとしおりの二人は、電車を降りていく。自分たちのバッグだけを持って。
僕はゴミ袋と、クーラーバッグと自分の荷物を担ぎ、電車を降りることになった。
改めて、今日は大変な一日になりそうだと、認識するのであった。
またまた、コロナが流行ってきましたが、頑張って投稿します。
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