プロローグ
空を覆う灰色の雲を見て少しため息をついた。
今日から新学期だというのに、少しも晴れやかになれないからだ。
朝食を食べつつも、テレビから流れるニュースを聞き流しながらふと時計を見ては、遅刻をしない為にも早々に家を出た。
登校中に何をするでもなく、学校に張り出されたクラス割を見て少しだけ喜び、教室で着席する。
登校してきた友達とアニメやゲームについて話をして盛り上がり、始業式を終えて下校した。
そんなつまらない日々を過ごしているのは、どこにでもいて、なんてこともなく、平々凡々な男子高校生の自分は、名古木秦太という人間だ。
家に着くと、一つの箱が自分宛に届いている事に気が付いた。
親展と書かれ、厳重な梱包に包まれて、見たことも無い程大量の緩衝材に守られた中に入っていたのは、新型のVRギアだ。
一緒に添えられた当選に関する決まり文句と共に、一本のゲームソフトが封緘されていた。
“Transfer Crisis OnLines”
2029年から5年ぶりとなるこのゲームの新作に、声に出せない喜びをにじませずにはいられない。
ベッドに座り込み、一息をつく。
流線型でかっこよく、全身にアジャストして装備する程の装備、そして何よりも、何年も待ち焦がれたTransfer Crisisシリーズの最新作に心が踊っている。
OnLinesという言葉からは、今までにないオープンワールドでの新しい危機への挑戦を思わせる。
そんなわくわくの状態の自分に、これ以上待てなどできようもなく、ゲームの電源をいれた。
白い画面にTransfer Crisis OnLinesと表記されると、ゲームの中に意識を吸い込まれていくのだった。