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精霊指定都市のお役人  作者: 安達ちなお


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歴史の授業

 着席してタブレットのスリープを解除すると、私の顔を認証して、受講アプリが立ち上がった。世界史をタップして昨日の授業範囲だった22ページを表示しようとしていると、教卓から指示が飛んだ。

 白髪痩身が特徴の、世界史の麦原先生だ。


「テキストの23ページを表示しろ。今日は北大陸史で一番面白いところ、神聖アサヒ帝国に入る。我が国の成り立ちにも関わるし、自分達のルーツにも繋がる大事な部分だ。歴史好きじゃなくても、国名を一度は名前を聞いたことがあるっていうヤツも多いんじゃないか?」

 麦原先生が手を挙げるよう促すと、教室内の半数が挙手した。

 もちろん、私も手を挙げている。


「そうだろう。テレビで特集が組まれることもあるし、映画の題材になることも多い。では、何がそこまで人を惹き付けるのか。理由の一つが、謎の多さにあると思う」

 先生が、タブレットを操作してモニタに世界地図を映し出した。東西南北の四大陸のうち、地中海と北大陸の南端にクローズアップしていく。


「神聖アサヒ帝国の成立は、北歴10年ごろと言われている。今から約2800年前だな。当時の状況をおさらいすると、およそ一万五千年前から始まった急速な温暖化によって、主要な資源であったマンモスなどの大型動物が絶滅し、海面の高さや植生も大きく変化したため、人類は世界的な苦難を迎えた。……ちょうどこの温暖化が終息し各地で文明が勃興した時期が、この約2800年前と重なる。つまり温暖化からの回復と時期を同じくして、神聖アサヒ帝国は出現したことになる」

 熱心な生徒は、先生の話を聞きながら、タブレットでテキストデータに書き込みなどをしている。

 私もメモを取る。テストに出そうな気配はないけれど、こういう話は割合好きだ。


「ちなみに、北歴の紀元前をBAと表記することは知っているか? これはビフォア・アサヒの略だ。世界的に見ても、神聖アサヒ帝国の登場する前と後では、大きな隔たりがあるということだな。紀元後はAAでアフター・アサヒ。BAもAAも、現在の世界標準として使用されている」

 思わず「へえ」と声が漏れてしまった。麦原先生は、所々で面白い話を挟みながら授業を進めるので、好きだ。

 他には古文の水槌先生も脱線しながら説明してくれるので、割りとしっかり授業を聞いている。


「それもこれも、神聖アサヒ帝国が、世界規模の大帝国となり、その文化が現在の世界各国に受け継がれている証左だと言える。とはいえ、最初から強大な国家であったわけでは無いようだ。紀元前の北大陸で最も力を持っていたのは、世界で最初に金属加工に成功したヘッティ王国と言われている」

 モニタに紀元前の地図とヘッティ王国の領土が表示される。ムワタリ2世だのハトシリ3世といった歴代王の名前や信仰された神々の名前、食事や服装などの文化に関する補足情報も並んでいる。


「このヘッティ王国が、極めて短い期間に崩壊し、辺境の部族に吸収されて成立したのが、アサヒ帝国だ。ヘッティ王国がなぜ短期間で滅んだかについては、様々な説があるところだ。軍事的な衝突があった証拠もあるし、文化的に席巻されたという説もある。ヘッティ王国自体が成立間もない国であったことも一因のようだな」

 その辺りは、私もフィクションで予習済みだ。


 神話では、近傍の火山が大規模な噴火を起こして一日にして滅んだとか、洪水で消滅したとか、様々に描かれているので、よく漫画や映画のネタになっている。

 漫画だと「王権の紋章」が好きだし、映画だと「アッチニ方舟伝説」が俳優が豪華で映像も完成度が高くてお薦めだ。


「ヘッティ王国打倒の謎からも分かるとおり、成立初期から文字による記録が残っているにもかかわらず、神聖アサヒ帝国の初期の様子は謎が多いんだ。国のリーダーは、創世神アサヒから王権を与えられたとする皇帝で、称号はヒミコといったらしい。これは現在と変わらないところだな」

 タブレットに、現在のアサヒ帝国の地図と皇帝が表示される。現皇帝は私と同じ14歳らしいが、まるで別の生物じゃなかろうかというくらいに容姿が整ってる。

 同性が見ても腰が抜けるほどの美人だ。


「かつては創世神アサヒとは別に、天空神コウリュウという神を信仰していたらしいんだが、このコウリュウというものについては記録がほとんど無く、名前以外はほとんど分かっていない。王族の名前であるとか、太古の信仰対象であるとか、いろいろ言われているが定説は無い状態だな」

 名前しか知られていない謎の神と聞き、中学二年生の私の心は途端に荒ぶる。後で自作小説に登場させて、サイトにアップしよう。メモを取るペン速がマッハになる。


「神聖アサヒ帝国初期の神殿にはコウリュウ像があったそうだが、そもそも創世神アサヒを信仰する国家であるので、建国後しばらくするとコウリュウ像とアサヒ像が並んでいるケースが多くあったようだな。その後には、コウリュウという存在が忘れられていったようだ」

 なるほど確かに、近所の神殿にはアサヒ像しか無いことが多い。他にあるとしても、歴代皇帝の絵画や聖遺物のレプリカくらいだ。


「この創世神アサヒも謎が多い。神聖アサヒ帝国は初期から文字を持っていたので、詳細な記録が残っていることが多いんだが……その記述によると、どうも創世神アサヒが実在していたようなんだな。帝国成立から北歴400年ごろまでは、皇帝ではなく神自身が国を率いていたとされている」

 「えー」とか「嘘でしょ」というみんなのリアクションを見て、麦原先生は満足げに笑った。


「そうだな。恐らく、帝国の正当性の主張のために、初期の皇帝の何人かの業績を一人分にまとめて創世神アサヒに付託し、歴史書を作ったんじゃないかと言われている。しかしながら、当初は神であった国のリーダーが、時代を下ることで人である皇帝に変わっていったという点は、興味深いところだ。個人的には、国が成熟し、神という神秘性に頼る必要が無くなっていったという事ではないかと思う。証拠というわけではないが、北歴400年ごろに、神を天に送り返す“神送り”という儀式が行われたという記録がある」

 私の心に刺さる単語が出てきて、俄然テンションが上がった。

 ちょうだい、ちょうだい、そういうのもっとちょうだい!


「実際、これ以降の記録からは神がかり的な記述は減っていくんだ。それまでは、天空神コウリュウに祈って雨を降らせてもらったとか、創世神アサヒが悪魔を撃退したときに力を入れすぎたので月が欠けたんだとか、そういう話が普通に出てきていたんだけどな」

 創世神アサヒへの祈りならば、世界各国で毎日行われているだろうけど、昔はコウリュウ何て言うものにも祈りを捧げていたのか。そんな考えがよぎったせいか、ふと試してみたくなった。


「天空神コウリュウ様、このあとの体育の授業の長距離走がものすごく苦手なんです。雨を降らせて中止にしてください。願いを叶えていただけるのならば、えっと……とっておきのチョコと期末テストの点数を捧げます」

 隣席の友達に聞こえるよう、冗談で呟いたら、友達は口を押さえながら笑ってくれた。よし、成功だ。


 笑いを取って満足した私が、何の気なしに窓外に目を向けると、柔らかな雨が降り始めていた。空に雲はなく、明るいままだ。

 今日の天気予報は快晴だったのに、不思議なこともあるもんだなぁと思い、しばらく眺めていた。ふと気になって鞄に手を入れてみた。

 チョコを隠していたはずだが、無くなっていた。


「まさかね……」

 そんなはずは無いと思いながらも、もう麦原先生の言葉は耳に入らなくなっていた。

 期末テストが怖い。

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