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案件1 雨乞い

「さて、アサヒさんの仕事ですが……。ジュゲム主幹の手持ちの案件をいくつか引き継いでください。分からないところは、ジュゲム主幹とマオ主任に聞いてください」

「分かりました!」


 マオさんとジュゲム先輩は二人とも肩書があるのか、主任と主幹はどちらが偉いんだろう、と春風の軽めの頭に疑問が浮かぶ。が、まだ慌てて訊くような時間じゃないと考え、質問は後に回すことにした。


 ついに仕事が始まるのだ。

 なんだかんだと突っ込みを入れながらも、実はかなり楽しみにしていたのだ。

 オタクを自称するにはおこがましさを感じるが、ゲームや漫画は大好きだしアニメや映画もそれなりに見る。ファンタジーの世界に少なからず憧れを持っているし、魔法を使ってみたいと思ったことは一度や二度ではない。

 この職場では、その夢を叶えられるかもしれないのだ。


「……このデスクを使用してください。筆記用具などの備品は……マオ主任が用意してくれたものが引き出しに入っている……と思います」

「はい、ありがとうございます!」


 与えられたのは、年代物の木製の大きな机だった。よく手入れされ綺麗に磨かれているせいか、古臭さは無く高級感と重厚さを備えている。

 おかしなところといえば、机上に水晶で出来た頭蓋骨のようなものが置かれていることくらいだ。

 何やら禍々しくておどろおどろしい気配を放っている。素人目に見ても、何かのいわくつきの品であることが分かる。見ているだけで魂を持っていかれそうになる。


「こんなの、対処法は一つだよね」

 春風は水晶ドクロにはハンカチを被せて、見なかったことにした。


「早速だがハルカ、準備はいいか?」

「はい、準備オッケーです、ジュゲム先輩!」

「先輩か…。良い響きだな」

 少しにやつきながら、ジュゲムが一枚の紙を取り出した。


「まずはこれに取り組んでみよう。第十二世界タージオンで、祈祷によって精霊コウリュウの権能の発現を乞われた。その内容が書かれているから、読んでごらん」

 見慣れぬ図形が並んでおり、まるで絵のようにも見える。

 しかし読んでみると、何故か文章としてすんなりと理解できる。


「えーと……灼熱の日が続き、森は枯れ、川は干上がっています。木の実も動物も得ることが出来なくなりました。このままでは飢えて死にゆくでしょう。全てを司る空の神よ。恵みの雨をお与えください。供物は…とちの実とどんぐり、貝、採れたての鹿の肉…」

「よく読めたな。だが、これだけでは分かりづらいのではないかと思って良い物を用意しておいた。今回だけ特別に、これで様子を見るぞ」


 そう言いながら、水が張られたガラスの小皿を机に置いた。

 小皿も水も透明なのに、水面は鏡のように辺りを映し出している。

「この水鏡は、大精霊コウリュウ様の水の権能によって祝福を与えられている。魔力を満たせば、異世界を見ることも出来る」

 ジュゲムが手のひらをかざしながら何やらつぶやくと、水鏡に景色が浮かび上がった。


 最初に広い森が映し出される。背が高い広葉樹の森だが、立ち枯れている木がそこかしこに見える。森を流れる川の水は、量が少なく濁っている。

 川の流れに沿って下っていくと、森が開けて砂浜が映った。海は穏やかで、緑色の水が打ち寄せている。

 そして海岸と森の間に、少し高くなった台地がある。台地には、五つの竪穴住居が馬蹄型に並んでいる。


 その中央ではかがり火が焚かれ、儀式が行われていた。

 かがり火の前に簡素な木製の台が据えられ、先ほど列挙されていた供物が並べられている。住人らしき10人ほどが、神妙な面持ちで座っている。その先頭には、巫女の役割を担っているのか、一人の少女がいた。

 地球人とほとんど同じ外観をしているが、少し雰囲気が違う。

 濃茶色の髪と日に焼けた肌に青い瞳が輝いて見える。目は大きく顔は小さく、体はすらりといていて手足は少し長めだ。そのアイドルのような整った容姿に、春風は思わず息をのむ。

 着ている服は、簡素な装飾が付いた植物繊維の質素なものだが、それすら彼女の魅力を引き立たせる要素になっているような気がする。

 周囲では大人の男たちが、太鼓のような楽器を打ち鳴らしている。誰もが必死の表情だ。


「さて、これを見てどう思う?」

「狩猟や採集で生活している文明の黎明期の人たちが、雨乞いの祈祷をしているみたいだなと感じました。それと、女の子が可愛いです」

「女の子のくだりはよく分からないが、概ねそういうことだ。この祈りに対して、どのように水の権能を行使するのか。それを判断し、課長の裁可を得るのが最初の仕事だ」

「はい! あんなにかわいい子が苦しい思いをしているなんて、間違っています。守ってあげたい。頑張ります!」

「…よくわからないが、やる気に溢れているのはいいことだ。早速、取り掛かろう」


 そう言いながら、ジュゲムは大きな木の板を何十枚と机の上に重ねて置いた。

 A3サイズほどの木の板に、図表が彫ってあるものや、図表が書き込まれた紙を張り付けてあるものなどがある。


「これは……?」

 春風の問いに、ジュゲムは嬉しそうに自信満々に微笑んだ。

「俺が開発したジュゲム表だ。これを使えば、発動すべき適切な権能の規模を、簡単に求めることが出来る」

 うわぁ、自分の名前を付けちゃってるよ…という心中の声を口に出すことなく、笑顔をキープすることに、春風は成功した。


「へえーすごいですねー」

「従前のやり方では生産性が低いと思い、ゼロベースでタスクの見直しをしたのさ。これまでは基準が明確ではないから、エビデンスが弱くてアカウンタビリティを果たせるか不安があったのだ。ただ、もっとシンプルな方が使いやすいから、そのうちにもう少しブラッシュアップするつもりだ」

 あー。こういう人ですか。なるほどー。前の会社にも、こういう人いたわー。あー、なるほどー。


 ジュゲムの性格を理解したことで、春風の精神はすとんと落ち着いた。

「君もイノベーションを意識して、常に前向きにマインドセットを形成していくと良い。そのあたりはOJTで徐々に……」

「ところで、ここの表はどうやって使うんですか?」

 こういう話はスパッと切っておくに限る。前職で得た経験の一つだ。


「使い方は簡単だ。全部で38枚の板を順に使うのだが、最初にこの8枚で大精霊コウリュウ様への祈りの強度を計る。祈りの方法と人数、供物の内容などを表に当てはめて数値を求める。縦軸と横軸だけの表が多いから難しくはないだろう。その後に、こちらの12枚を使って、発動する権能の規模と強度を求める。こちらは六角形複層陣がメインだが、重層五芒星と連結六芒星陣もある。まあ、慣れれば問題ないだろう。そして、それぞれの数値を使って残る18枚の表を……」

 簡単じゃないですよという言葉は飲み込み、深呼吸をして気合を入れなおした。


「はい、先輩! やってみます!」

 与えられたデスクにジュゲム表を山と積み、腕まくりをした。

 やぁってやるぜ!

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