閑話 魔王軍工作員
私はしがないドッペルゲンガーで魔王軍工作員の一人。
スラム街の路地は糞尿にまみれ死体が転がっている事さえある。
魔王様の納める魔王城周辺ほどではないが大変心地良い雰囲気だ。
拠点である廃屋の一つそこへ足を運ぶ。
上司であるカタリーヌ様に報告する為だ。
「ご苦労様」
見張りのビックラットに挨拶をした。
「ちゅう、ちゅう」
なんと言っているのかは分からないが、お前もなと言っているような気がした。
中の壁は一面血に塗られ、通路には好奇心に負けてここに入ったスラムの住人の骨が散らばっている。
荒事対応の門番としてゴブリンキングが扉の前に立っていた。
「お前も大変だな。慣れない人間社会で商人の真似をしなきゃならないとは」
「お前ほどじゃないな。聞いたぞ。スタンピートを起こすのだってな」
「手下のゴブリンは放って置いても増える。冒険者が厄介だが、魔王軍の傘下の協力者が居れば訳ないぜ」
「魔王軍の決起も近い、慎重にな」
「分かってるよ」
ノックをして奥の部屋に入ると、吸血鬼のカタリーヌ様が骨で出来た椅子に座っていた。
「だだいま戻りました。カタリーヌ様、言われた通りに負の感情を集める鏡を売って来ました」
カタリーヌ様は赤い目を細め私を出迎えた。
「よくやったわ。褒めてあげる。そろそろ負の感情が沢山集まっているはずよ」
カタリーヌ様は黒い髪をかきあげ、ローブの裾からオーブを出す。
そして手に持ったオーブを覗き込んだ。
「これは……」
カタリーヌ様の表情が曇る。
「どうか致しましたか」
「正の感情が集まっている。何故?」
「痩せて見える鏡で満足して幸せな気持ちになったのではないでしょうか」
「そんな、一時的に痩せて見えたのが、実際は痩せてない。このギャップに苦しむはずだわ」
「すいません、私がふがいないばっかりに」
カタリーヌ様が苛立って力を込め、手に持っていたオーブがミシミシと音を立てた。
そして、オーブは砕け散り正のエネルギーが空間に満ちる。
私は不快感に思わず眉をひそめた。
「おのれ勇者。勇者が妨害したのよ。そうに決まってる。考えてみればあれも変だった」
「あれと申しますと」
「勇者に役に立たない指南書を何点か売りつけたのだけど。足を引っ張る事が出来たかどうか」
「何か不審な点でも」
「値切られたのよ銀貨一枚にね。勇者に尽くせるのだから、無料でも良いぐらいだと、傲慢に言っていたけど。あれは役に立たないと知っていたに違いないわ」
「では役に立たない道具を売りつけるのを中止しますか」
「いいえ、資金集めの目的もあるから続けるわ」
「了解しました。これからは勇者の目に気をつけて行動いたします」
「頼んだわよ」
私は負の感情を集める為の道具を売り歩く為に拠点を後にした。




