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九話

 このままじゃ妹に気絶させられると必死にレイを引き剥がしにかかる。


「痛いって。死ぬから離れろ」


 言うとさらに僕を抱きしめる力が増す。


「愛で人が死ぬことはないんだよ」


「いや、死にそうだから。目の前にいるから死にそうな人」


 急にレイが腕を解く。顔もかなり険しい。


「全身痛い」


 雷槍と剣の衝突の巻き添えをもろに食らったからか。


 僕の上でレイが倒れた。普段ならレイの重さなど大したことはないが今は違う。これは真面目に死ぬ。僕がレイを引き剥がすのに数分を要した。


 地面に仰向けになるレイを尻目にオーガを観察する。気になったのはオーガの二本の角。角を一本拾い上げる。


「どうしたの」


「このオーガはおかしい」


「どんなところが」


 レイは大急ぎで家を出る僕に慌ててついて来たから予備知識がほぼゼロだ。知識面でのレイの戦闘力は皆無だ。


 僕は本来のオーガとの違いを話す。


「そうなんだ。じゃあ強いタイプだったんだね」


 レイは終わったことに関しては興味が失せるきらいがある。変異オーガのことなどもうどうでもいいのだろう。


 まず体型は本と同じく二mを優に超える巨軀。皮膚は赤に少量黒が混ざったような色でこれも本と変わりない。角が二本生えているのはこのオーガの希少性と能力の高さを示しているが、前例がないのはこの黒い角。


「気になるならもう一本折っていけばいいよ」


 レイはシュッと立ち上がるとオーガに生えていたもう一本の角も剣でへし折ってしまう。


 これで所持品は角二本になった。


「これ結構固そうだし、売れるんじゃない」


「角二本が生命線か」


 全く笑える話だ。


一泊くらい出来るといいな。


 城壁に覆われたライエルンへの入り口は北と南にある巨大な門だ。僕はすんなりと街に入れると南の門扉の

 前までやってきた。


「何をやっているんだお前たちは」


 門の前で松明と剣を帯刀した衛兵二人が僕達を止めた。右の衛兵が言う。


「エルトマという村からやってきました。父が日常的に虐待を加えてきて......それでお母さんが石で頭を殴られて死んで......」


 嘘の理由もまとめて言い切った。目に涙を浮かべる。


「もういい。すまない。嫌な事を思い出させた」


  「いえ。大丈夫です」


 数秒の沈黙の後黙っていた左の衛兵がいった。


「それにしてもよくここまで来られたね。エルトマからここに来るには森と荒野を抜けなければならないはずだ」


「デインおじさんが魔除けの石っていうのをくれて守ってくれてたんだ」


 ここでレイが付け足す。


「デインおじさんは冒険者だったんだよ」


 左の衛兵は少し考えるようなそぶりを見せた。


「魔除けの石......護石のことか。デインさんはいい人だね」


「うん!」


 レイが笑う。あーもうだめだ。二人ともレイにやられた。


 右の衛兵がいう。


「でも本当に良かったよな。ここ数日オーガの変異種数体が荒野に現れて冒険者を襲ってたんだ。なんでもみんな個性があったらしくてな」


 遭遇したオーガもその一体か?腹にしまった角をさする。


「リドさん。その話は子供に良くないですよ」


 右の衛兵はリドという名前らしい。


「そうだな。悪い。......でもどうするよ。今は絶対に開けるなって話だったろ」


「そんなこと言ってる時じゃないです。ここまで頑張ってきて門の外に野宿はあまりにこくだ。開けてもらいましょう」


「そうだよな」


 右の衛兵は門の方を向くと大きな声でいう。


「衛兵だ。特例を認めて欲しい」


 すぐに門越しで声が返ってくる。


「訳を話せ」


「子供二人がエルトマという村からやってきた。ここまで来て野宿というのはあまりに酷い」


 他の人と話し合っていたのか若干空いて返答がくる。


「特例を許可する。子供二人が入ったらすぐに閉めるぞ」


「ありがとうございます」


 レイが門の奥の衛兵に聞こえる声でいう。


 やがて巨大な門がギギギと音を立てて開いた。


 僕とレイは頭を下げて二人の衛兵に感謝した。


「いいってことよ。何かあったら俺とセイムをいつでも頼ってくれ」


 左の衛兵はセイムというのか。


「早く入れ」


 声音から察するにさっきリドさんと門越しに話した人だろう。


 僕はリドさんとセイムさんに頭を下げると門を越え、ついに念願のライエルンに足を踏み入れた。


 街は夜遅いにもかかわらず活気があり、どの家もまだ明かりがあって通行人も多い。一人話しかけられそうな人を見つけ声を掛けた。


「あのすいません」


「はい!?」


 明らかに警戒している。まあ当然といえば当然か。


「怖がらせてしまい本当にすいません。この街の冒険者組合はどこにありますか」


「あ、ああ。あの角を右に曲がって左に曲がったところにあるでっかい建物が組合だよ」


 僕とレイは感謝を述べた。衛兵の二人に聞いても良かったがあの二人が何かと心配する絵面が浮かんだので通行人を選んだ。


 僕達はついに冒険者となるための第一歩に差し掛かる。


 だが、扉を開けて中に入ると広い室内では箒でゴミを集めるお姉さんがいるだけだった。


「あのーここに行けば冒険者になれるって聞いたんですけど」


「今日は既に閉まっているんですが」


 今日は野宿になりそうです。

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