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八話

 本当に計画というものがまるでない旅だったと実感する。魔物溢れる森、さらには荒野を何の防御策もなく突破するつもりでいたのだ。辺りは真っ暗で暗順応と察知を頼りに進んでいく。


 ホワイトウータンに関しては完全に予想外だったがダークハウンドに関してはさして驚きはない。むしろよく寝込みを襲われなかったものだ。


ダークハウンドはいわゆる下級に分類される魔物で個々の能力値も高くはない。ホワイトウータンも同様に個々の力は大したことはないが集団になると化ける。一説には倒れていく仲間の死体が闘争本能を刺激するとかなんとか。


今のところ遭遇は二度。街に近づくほど魔物の数も減ると言われているが油断はしない。


「レイ、敵はいる」


「今のところ反応はない」


 言った直後、前を歩いていたレイの足が止まった。


「反応あり。二mはある」


 ここ周辺で二m近い魔物なんているか?俺の察知範囲にはいないからまだ遠いか。


「避けて進めそう?」


「......うーん。前の方にいるから迂回してみよう」


 左に折れて距離を取る作戦だ。


 だがすぐにレイがいう。


「私たちを狙ってる。走ってきてる」


 僕の察知圏内に入ったと同時に剣を抜く。かなり速い。


 見ればレイも抜刀している。


 逃げて体力を使うのかここで仕留めるか。決断は早い方がいい。


「ここで敵を迎え撃つ」


 未だ姿の見えない敵に備える。姿を捉えた時、思った。またイレギュラーに遭遇したと。


「レッドオーガか」


 中級クラスの魔物で攻撃力も高く皮膚も厚い。額部分に大きな角が生えているのが特徴で個体によっては二つ。もしくは三つ生えているケースもある。赤色の皮膚はその個体が通常種であることを示す。そして角は二つ。ここ周辺に現れるはずがない種だ。今までの魔物とは比べ物にならないほどの威圧感だ。


射出・雷撃(ボルト)


 先手必勝。レイの右手に溜めた魔力が稲妻となりオーガの全身を覆う。大抵の敵はこれで十分なんだけどこいつは違うよな。


 奇声と体から出る煙は倒れずともそれが効いたことを証明する。レイの短い詠唱と同時に疾駆し、距離を詰める。


 跳躍して一気に悶えるオーガの首を狙う。


 だが、オーガの咆哮が空中で僕の体の動きを止める。敵前で動きの止まった僕は左脇腹を棍棒で殴られ、大きく吹き飛ぶ。


なんとか受け身をとって被害を最小限に抑えたが、あばらは何本か折れたようだ。込み上げるものを吐き出すと黄土色が赤に染まった。


 呼吸を整えて立て直しを図る。想定外はオーガの咆哮に敵を一瞬硬直させる能力があるってこと。どんぐらいまでだ?1m近いか。


射出・雷撃(ボルト)


 再び稲妻がオーガを襲うがオーガの皮膚に当たった瞬間稲妻は消えた。一度受けた魔法への耐性だと?本にはそんなことは記載されていないし、そもそも動きを止める咆哮だってそうだ。行動範囲を大きく逸脱した特性持ちオーガか。全く規格外だろ。


「一度受けた魔法に耐性があるんだ」


 大声で離れたレイに届くようにいう。


「分かった」


 魔法に必要なものはイメージだとディル爺は言ってた。そしてその能力がレイは高いと。


 レイが右手と左手を合唱するように合わせる。レイが両手を離すと両手を繋ぎ合わせるように稲妻が伸縮し、一mほどの雷の槍へと姿を変えた。


だが俺は見逃さなかった。オーガの二本の白い角が変色し真っ黒に染まる瞬間を。嫌な予感がした。俺は強く柄を握りしめる。


射出・雷槍(ボルトランス)

「避けろぉぉぉぉぉ」


 レイの詠唱と僕の叫びは同時。オーガは心臓めがけて放たれた雷槍を左手で掴むと、投擲。


  「間に合えぇぇぇぇぇ」


 持てる力を全て右腕に込めて剣を投擲。狙うはレイの目の前。


 剣は雷槍の横腹を打つ形で直撃し、強い衝撃とけたたましい爆音が響いた。


「レイ!」


 レイが後ろに跳躍したのを僕は見逃さなかった。吹き飛んだレイは受け身をとって地面に落ちる。


「大丈夫。無事」


 レイが無傷で助かる方法があったんじゃないか。そんな反省は後ですればいい。さっさと剣を回収したいが......そうはいかないよな。


 剣までの距離は二十m近いのに対し、オーガとの距離は十mってところ。それにどちらかといえば剣はオーガに近い。オーガはすでに既に戦闘不能と見なしたのか倒れたレイには目もくれずに僕に向かって歩いてくる。


「お兄」


「二人なら倒せる」

妹の前で弱音は吐かない。


レイに伝えるように一箇所に目線を合わせて、俺はオーガと対峙する。そこで僕は確信する。あの咆哮にはインターバルがある。もし、無制限に使用できるなら俺が間合いに入った時点で使うはずだ。


 先に動いたのはオーガだった。上から棍棒を振り下ろす。最小限の動きで左に避ける。


 身長差で必然的に上段になる棍棒は躱そうと思えば躱せる。ただ一撃一撃が重い。掠っただけで大ダメージだ。腕の筋肉の動きをしっかりと捉え、攻撃を予測する。いつかくる備えようのない咆哮を警戒しながら。


 上段の振り、横薙ぎ、上段、左腕。


「グァー」


 当たらない攻撃にしびれを切らしたのかオーガは叫ぶ。


 僕は直感した。咆哮が来る。


「レイ!」


 咆哮をまともに受け、動きが止まる。


だけど、レイの方が速い。


 オーガがとどめと棍棒を大きく振りかぶった時、レイがオーガの真後ろで跳躍した。


「はあぁぁぁぁぁ」


 振り返ったオーガの一本の角がレイの一振りによって折れ、落ちる。


「終わりだ」


 硬直の解けた僕は、角を取ると、その先端をオーガの心臓に突き刺した。


 心臓を貫かれ、絶命したオーガは倒れる。


「お兄!」


 疲れ果てた僕は走ってきたレイになすすべなく突き倒されて、身体中の痛みに悶えた。


「イッてぇぇぇ」


「ありがとう。ありがとう」


 感謝はいいから俺を離してくれ。

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